著者
大内田 弘太朗 服部 太一朗 寺島 義文 大久保 達也 菊池 康紀
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.113-122, 2018-03-20 (Released:2018-03-20)
参考文献数
44
被引用文献数
2 7

九州南端以南の南西諸島地域は,互いに電力系統が寸断されたマイクログリッドを形成しているが,その立地条件から,火力発電を行うコストや資源セキュリティの面で不利な立場に置かれている.一方,これらの島の多くに存在する製糖工場は,余剰に電力や熱を供給できる動力プラントを有しており,電力系統と連系させることで発電コストの低減やセキュリティの向上を達成できる可能性があるものの,製糖期間の短さや余剰バガスの絶対量の不足などが原因で,現状は売電を行っていない.サトウキビの品種を繊維分と反収の高い高バイオマス量品種に変更することで,製糖期間を伸ばしつつ,余剰バガスも増やせる可能があるが,これまで製糖のみを目的として設計されてきた動力プラントの再設計が必要となる.本研究では,品種と動力プラントの変更を通して,離島の電力系統と連系したバガス発電の導入効果を分析した.まず,品種や動力プラントのオプションに応じて,製糖工場のマス・エネルギーバランスを推算可能なシミュレータを開発した.現行のまま余剰電力を売電するCase A,高バイオマス量品種への品種変更と背圧式から抽気復水式への蒸気タービンの変更を同時に行い,製糖期の余剰電力を売電するCase B1,および同条件で製糖期に余剰バガスを蓄え,非製糖期にも売電するCase B2の3ケースを設定し,開発したシミュレータを用いて,原料糖,糖蜜,バガス発生量,工場のエネルギーバランス,売電ポテンシャル,および最大火力発電代替可能割合を比較した.対象とした全ての島において,Case B1, B2の場合,現状よりも原料糖生産量,売電期間,売電ポテンシャルを同時に拡大でき,南大東島では島内火力発電を最大で9.48%代替できる可能性が示された.余剰熱の有効利用や,バガスと島内の他のバイオマスの混焼,製糖工場の省エネルギー化などにより,バガス発電の導入効果は更に高まり得る.