著者
大原 國俊 茨木 信博
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

老人性白内障の成因として、水晶体に対する自己抗体が水晶体上皮細胞を障害するのではないかという自己免疫機構の関与を解明することを目的とした。平成8年度において、マウスで作成された、水晶体上皮細胞の特異蛋白であるベータ・クリスタリンに対する抗体が、補体の存在下で30%の細胞死をもたらし、水晶体線維細胞への形質転換も阻害すること、また、本抗体が水晶体上皮細胞の細胞表面に結合することを明らかにした。平成9年度は、白内障患者血清中に水晶体上皮細胞に対する自己抗体が存在するか否かを検討するために、白内障患者血清と正常者血清の培養ヒト水晶体上皮細胞に及ぼす影響を調べた。その結果、10倍希釈の患者血清では55%の水晶体上皮細胞死が認められるのに対し、正常者では同希釈濃度でも数%しか細胞死は認められなかった。患者血清が水晶体上皮細胞死に与える影響は、濃度依存性があった。また、血清を熱処理し、補体を不活化させるとその影響は半減し、補体の関与が示唆された。本研究で得られた、水晶体上皮細胞の特異蛋白に対する抗体(ベータ・クリスタリン抗体)が水晶体上皮細胞に結合し種々の障害を与えるという事実と、白内障患者血清そのものが水晶体上皮細胞に障害を与えること、これらの影響は補体の存在が必要であるということから、水晶体に対する自己免疫機構が老人性白内障の成因の一つであることが強く示唆された。