著者
大和 洋輔 長谷川 夏輝 藤江 隼平 家光 素行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】動脈機能の低下は,冠動脈疾患や脳血管疾患,末梢動脈疾患などの循環器疾患の独立した危険因子である。身体活動量の低下は動脈機能を低下させるが,習慣的な有酸素性運動は動脈機能を改善させることが知られている(Circulation, 2000)。近年,低強度運動であるストレッチ運動が動脈機能に及ぼす影響について報告されており,ストレッチ運動が動脈機能を改善するという報告や(J Cardiovasc Prev Rehabil, 2008)改善しないという報告(J Hum Hypertens, 2013)があり,その影響については一致した見解が得られていない。本研究では,ストレッチ運動による動脈機能への影響を明らかにするために,単回の全身ストレッチ運動が動脈機能(動脈硬化度)に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。【方法】健常成人男性26名(年齢:20.8±1.7歳,身長:171.5±5.9 cm,体重:63.5±6.3 kg)を対象とした。ストレッチ運動は,全身(上腕二頭筋,上腕三頭筋,前腕屈筋群,前腕伸筋群,体幹屈筋群,体幹伸筋群,体幹回旋筋群,大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋)に対して約40分間のストレッチ運動を実施した。ストレッチ運動の種類はセルフでのスタティックストレッチ運動とし,ストレッチ運動の強度は疼痛のない範囲で全可動域を実施させた。また,コントロール施行としてストレッチ運動と同じ体位変換のみを同時間実施させた。ストレッチ運動とコントロール施行は1週間の間隔をあけてランダムに実施した。全身の動脈硬化度の指標として上腕-足首間(baPWV),中心および末梢の動脈硬化度の指標として頸動脈-大腿動脈間(cfPWV)および大腿動脈-足首間(faPWV)の脈波伝播速度を施行前と施行直後,15分後,30分後,60分後に測定した。また,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数も同時に測定した。統計処理は反復測定の二元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。【結果】baPWVおよびfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示した(p<0.01)が,60分後には施行前まで値が戻った。また,施行前に対するそれぞれの変化率(%)をみたところ,baPWVとfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示し(p<0.01),どちらも30分後が最も低値を示した。cfPWVではストレッチ運動施行による有意な変化は認められなかった。収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数はストレッチ運動施行とコントロール施行間での有意な差はいずれも認められなかった。【考察】健常な若年男性における一過性の全身ストレッチ運動は,全身の動脈硬化度を改善させる可能性が示唆された。このストレッチ運動の効果には,中心よりも末梢の動脈硬化度の低下が関与している可能性が考えられる。これらの結果から,ストレッチ運動による動脈硬化度に及ぼす影響の機序として,ストレッチ部位の筋や動脈血管に対する伸張刺激が局所的に動脈機能を改善させたのかもしれない。【理学療法学研究としての意義】動脈機能を改善させる運動としてよく用いられるのは有酸素性運動トレーニングである。しかしながら,心血管疾患や脳血管疾患患者に対する急性期の理学療法では,早期から有酸素性運動を取り入れることは困難な場合がほとんどである。ストレッチ運動のような低強度の運動を早期の理学療法の運動プログラムに取り入れることで,有酸素性運動ができないような患者に対して動脈機能改善を目的としたアプローチが行える可能性がある。本研究は,臨床で動脈機能改善を目的とした運動プログラムとして活用するための一助になり得る結果であると考えられる。
著者
大和 洋輔 長谷川 夏輝 藤江 隼平 小河 繁彦 家光 素行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1513, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】動脈硬化度の増加は,冠動脈疾患や脳血管疾患などの心血管系疾患の独立した危険因子である。習慣的な有酸素性運動は動脈硬化度を低下させ,心血管系疾患リスクを改善させる効果が認められる。近年,筋の柔軟性改善を目的として主に用いられているストレッチ運動を習慣的に実施することにより,動脈硬化度を低下させることが報告されている。しかしながら,ストレッチ運動による動脈硬化リスクの改善効果は,ストレッチした部位で生じる効果かどうかは明らかでない。そこで本研究では,一過性の局所的なストレッチ運動による動脈硬化リスクへの影響について検討するために,片脚に対する一過性のストレッチ運動が動脈硬化度および血流量に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】健常成人男性14名(年齢:21±1歳,身長:172±2 cm,体重:65±2 kg)を対象とした。ストレッチ運動は,右下腿三頭筋に対する他動的なスタティックストレッチング(ストレッチ脚:30秒×6セット,セット間休息10秒)を実施した。ストレッチ運動の強度は,疼痛のない範囲で全可動域を実施した。また,左脚は非ストレッチ脚とした。中心および末梢の動脈硬化度の指標として頸動脈-大腿動脈間(cfPWV)および大腿動脈-足首間(faPWV),全身の動脈硬化度の指標として上腕-足首間(baPWV)の脈波伝播速度をストレッチ運動施行前,直後,15分後,30分後に測定した。また,上腕および足首の収縮期血圧と拡張期血圧,心拍数も同時に測定した。さらに,超音波画像診断装置を用い,ストレッチ脚におけるストレッチ運動中および運動前後の後脛骨動脈の血管径と血流速度を測定し,血流量を算出した。統計処理は繰り返しのある二元配置分散分析法および一元配置分散分析法を用い,有意水準は5%とした。【結果】ストレッチ脚において,ストレッチ運動施行前と比較して,faPWVは直後および15分後で,baPWVでは直後,15分後,30分後で有意に低値を示した(P<0.05)。一方,非ストレッチ脚ではfaPWV,baPWVにおいて有意な変化が認められなかった。また,cfPWV,上腕および足首の収縮期血圧と拡張期血圧,心拍数にはストレッチ運動による有意な変化は認められなかった。ストレッチ脚の後脛骨動脈の血流量は,ストレッチ運動施行前と比較し,ストレッチ運動施行間のセット間休息時には増加し,また,ストレッチ運動後の血流量も増加傾向であった。【結論】健常な若年男性における片脚への一過性の局所的なストレッチ運動は,ストレッチされた部位の動脈硬化度を低下させる可能性が示唆された。また,一過性のストレッチ運動による動脈硬化度の改善には血流量の変化が関与している可能性が示唆された。