著者
大塚 俊之 根本 正之
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.107-114, 1997-08-30
被引用文献数
1

畜産や農業に伴う土壌の富栄養化が耕地水系に沿って分布する河川周辺雑草群落に及ぼす影響を明らかにすることを目的として, 茨城県新治郡の帆崎川において雑草群落の構造と土壌環境の調査を行なった。スギ植林地に近い上流部では土壌中の窒素および炭素含量は少なく, 植生はメヒシバやイヌタデなどの雑草が優占するものの, ツリフネソウなどの野草的な種も多く含んでおり多様性が高いことが特徴であった。これに対して水田地帯を流れる中流部では土壌中の窒素および炭素舎量は上流部の5倍以上あり, 好窒素的な一年草のミゾソバやカナムグラが寡占して多様性の低い群落が形成されていた。また下流部では護岸工事がなされており, 攪乱の強い中洲ではクサヨシが1種優占群落を形成していた。中流部付近にはシロザが純群落を作る豚糞堆積場があり, この土壌は中流部のさらに2倍程度の窒素と炭素を含み, C/N比が低かった。これらのことから豚糞堆積場からの有機物や水田に施用された化学肥料が, 降雨時に流出して土壌が富栄養化し中流部の群落の多様性を低下させたものと考えられた。従来から良く知られている都市河川と同じように, 農村地域集水域の河川植生の動態も農業や畜産の集約化に伴う人為的な影響を強く受けていることが示唆された。
著者
大塚 俊之 後藤 厳寛 杉田 幹夫 中島 崇文 池口 仁
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.43-54, 2003-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
45
被引用文献数
2

1.西暦937年,富士山の噴火の際に流出したとされる,剣丸尾溶岩流上には広い範囲にわたってアカマツのほぼ純林が形成されている.この群落は一次遷移系列上の先駆群落とみなされて来たが,その成因は明らかでない.このため,本研究では群落生態学的な現地調査と周辺の土地利用に関する文献調査からその起源を明らかにすることを目的とした.  2.標高約1030mに設置した永久方形区での群落調査から,アカマツの直径階分布は20-25cmのクラスにピークを持つ一山型で,その密度は高かった.また,階層構造としてはほぼアカマツだけの林冠層とソヨゴを中心とする亜高木・低木層の明瞭な二層構造となっていた.  3.アカマツの最大樹齢は90年で,その樹齢は直径サイズに関係なくほぼ80-90年生でそろっていた.  4.剣丸尾周辺の森林利用の歴史についての文献調査により,江戸時代から剣丸尾上の植生は入会地として住民に利用されていたことが明らかとなった.また明治時代には剣丸尾周辺には桑畑が広がっており,養蚕業のためにかなりの濫伐が行われたと考えられた.  5.その後,剣丸尾上の一部は1915年に恩賜林組合によって柴草採取区域に指定され適切な入会地管理がなされたため,これ以降に一斉にアカマツが侵入したものと考えられた.さらに1934年に部分林に再設定された際に雑木除去によるアカマツの天然更新施業が行われ,その後1960-70年代まではアカマツ林の林床植生は柴草として利用されていた.  6.このように剣丸尾アカマツ林は溶岩流出後の自然の一次遷移系列上にある先駆群落とは異なり,長年の人為的な攪乱により遷移が停滞していた立地に,攪乱停止後に成立したアカマツ林である.また1934年の雑木除去と1960-70年代までの下層植生の利用が,現在のアカマツ林の林分構造に大きく影響していた.
著者
大塚 俊之 横澤 隆夫 大竹 勝
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.95-107, 2008-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
29
被引用文献数
1

1. 富士北麓の青木ヶ原溶岩流上には,いわゆる青木ヶ原樹海と呼ばれるヒノキとツガを中心とする広大な針葉樹林が成立している.本研究は,永久方形区を用いて個体の成長や生残についての調査を行い,青木ヶ原樹海の森林構造とパッチ動態について明らかにすることを目的とした.  2. 青木ヶ原樹海内に0.25ha(50m×50m)の永久方形区を設置して2001年に樹高1.3m以上のすべての個体について毎木調査を行った.また,林床の相対光量子密度の測定と樹高1.3m以下の実生の分布調査も行った.2005年には個体の生残と成長に関する再調査を行い,さらに主要優占種において成長錐を抜いて樹齢を推定した.  3. 永久方形区内ではヒノキ(胸高断面積合計の45.4%)とツガ(26.3%)が優占し,両種とも逆J字型の直径階分布を持っていた.次に優占度の高いミズメ(3.9%)は,10-20cmのクラスにピークを持つ1山型の直径階分布を持っていた.ミズメ(0.0158y^<-1>)やミズナラ(0.0126y^<-1>)などの落葉樹のRGRDは非常に高かったが,ツガ(0.0041y^<-1>)とヒノキ(0.0056y^<-1>)のRGRDは全個体の平均値を下回った.全体では直径が小さいほど枯死率が大きくなり,5cm以下の個体では4%を超えていたが,ツガ(1.4%)とヒノキ(0.5%)の枯死率は低かった.  4. TWINSPNを用いて25個のサブコドラート(各100m^2)をツガパッチと落葉樹パッチの2つのグループに分割した・直径20cm以上のツガ個体のほとんどがツガパッチに分布しており,落葉樹は少なかった.ヒノキは両方のパッチに広く出現したが,直径が大きな個体はツガパッチのほうに分布する傾向があった.一方で,落葉樹パッチにはミズメやミヤマザクラなどの落葉樹が集中的に分布しており,さらに直径5cm以下のヒノキやツガが多く出現した.落葉樹パッチは,春に落葉樹の葉が展開するまでツガパッチに比べて林床が明るく,ツガパッチにはほとんど見られないヒノキとツガの実生が非常にたくさん出現した.  5. ツガパッチでは,ツガの最大樹齢が約330年でヒノキの最大樹齢が約220年であり,ヒノキよりもツガが先に侵入していた.一方で林冠に達するような直径が15cm以上の個体では,ヒノキよりもツガのほうがRGRDが低かった.落葉樹パッチではミズメの樹齢は60-70年で揃っており,針葉樹に比べてミズメのRGRDは非常に高かった.  6. 現在のツガパッチでは,ヒノキがツガよりも遅れて侵入し混交林を形成していた.また,細いサイズのツガやツガ実生が少ないことから,混交林はやがてヒノキ林へと遷移していくと考えられる。ミズメやミヤマザクラはヒノキ林の林冠を破壊するようなギャップにおいて先駆性パッチを形成すると考えられた.  7. 本来の冷温帯林の極相種であるミズナラは,本数は少ないが300年を越す非常に古い個体が散在した.青木ヶ原樹海内では,落葉樹を炭焼きに利用していたことが知られており,ミズナラの位置づけについては今後再検討する必要がある.
著者
木田 森丸 金城 和俊 大塚 俊之 藤嶽 暢英
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.85-93, 2017

過去20年の研究でマングローブ林は熱帯森林生態系でもっとも炭素賦存量の多い生態系のひとつであることが示されており、その生態学的役割が注目されている。マングローブ林は河川を通じて流域および沿岸海域とつながっており、河川中の溶存態の有機物(Dissolved Organic Matter, DOM)を鍵としてマングローブ林の炭素循環および生態学的役割を議論することは重要である。DOMは生態系を支える栄養塩や微量金属元素のキャリアーとして働き、沿岸域の豊かな生態系を下支えしている可能性があるが、その機能性や循環速度は組成(構成成分割合)に応じて変化することが予想される。そこで本研究では、DOMの多くの機能を担い、かつ微生物分解に対して難分解性とされるフミン物質の組成をDOMの質的評価法として取り入れることで、沖縄県石垣島吹通川マングローブ林流域におけるDOMの特性把握を試みた。源流から海にかけて採水試験した結果から、吹通川のフミン物質割合は源流から海にかけて減少する傾向を示し、フミン物質割合の低い海水との混合および林内土壌へのフミン物質の凝集沈殿が示唆された。また、吹通川源流水中のフミン物質割合は他の非有色水系河川に比べて高く(60.9〜75.9%)、マングローブ林を含む沿岸生態系へのフミン物質の供給源として重要な役割を果たしていることが示唆された。加えて、マングローブ林内で採取した表層0〜25 cmの土壌から超純水を用いて水抽出有機物(Water Extractable Organic Matter, WEOM)を逐次抽出し、WEOM溶液中のフミン物質割合を測定した。その結果、電気伝導率の低下に伴いWEOM溶液のフミン物質濃度は大きく増加し、フミン物質が液相に移行溶出されることが確認された。これらの結果は、海水塩の影響により、マングローブ林内土壌に難分解性のフミン物質が選択的に保持されることを示唆するものであり、マングローブ林土壌の有機炭素貯留メカニズム解明に向けた大きな糸口を示したと言える。
著者
根本 正之 大塚 俊之
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.26-34, 1998-05-06
参考文献数
16
被引用文献数
5

水田畦畔を含む農耕地周辺に自生する小型植物のムラサキサギゴケ, オオジシバリ及びヤブヘビイゴを植栽した試験区はおいて, これらの小型植物が8月上旬から10月上旬にかけて発生した雑草に及ぼす影響について検討した。1) 供試植物ぱいずれも多年生のほふく-偽ロゼット型の生育型を示すが, その葉群構造は異なった。オオジシバリの草高が最も高く, 他2種はほぼ同様の草高で推移した(Fig. 1, Table 1)。いずれも 4月中旬からほふく茎の伸長が旺盛となった。ほふく茎の伸長速度はヤブヘビイチゴが最大であった(Fig. 2)。ムラサキサギゴケは地表面を密に被覆し, その地上部現存量は最大であった(Table 1)。2) 供試植物のない対照区と比べて, 供試植物を植え付けた処理区ではいずれも発生した雑草の地上部乾重が有意に少なく, 供試小型植物はよる発生雑草の生育抑制効果が認められた(Fig. 3)。供試植物のほふく茎が一様に処理区内を覆った7月23日時点の, 処理区全体に占める緑葉部分の割合(%)と, 最終除草(8月9日)後に発生した雑草の地上部乾重との間にぱ負の相関が認められた(Fig. 4)。3) 試験圃場内に発生した雑草は39種でそのうち約80%は一年生雑草であった。すべての区において, 発生雑草中メヒシバの現存量が圧倒的に多かった(Table. 2, Fig. 5)。処理区ごとに求めた発生雑草の多様性指数ぱヤブヘビイチゴ区が最大で, ムラサキサギゴケ区で最小であった(Table 3)。