著者
大島 章子 伊藤 宗之
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

てんかんの遺伝性モデル動物スナネズミの発作は、ヒトにみられるような年齢依存的な発作形成過程を持つ。われわれは、スナネズミの発作形成初期に、発作誘因である床換えにより耳介のリズミカルな運動が出現し、その後、発作部位が拡大することを見出し、遺伝素因の上に加えられた外部刺激、前庭刺激後の後発射による耳介の動きの出現が、全身発作に至る発作形成の初期過程であるという仮説をたて、以下の実験を行った。耳介のリズミカルな運動の原因部位として、電気刺激により耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位を調べたところ、冠状縫合の側後方に存在した。一方、前庭刺激に応答する大脳皮質部位、前庭皮質の存在およびその位置を調べるため、前庭装置の解剖学的特徴を調べ、前庭刺激としての電気刺激を行うための手術手技を開発した。見出された前庭皮質の位置は、耳介の運動を誘発する大脳皮質部位と位置的に重なった。また、耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位の刺激条件を検討したところ、特定範囲内の刺激間隔で最低3発の低電流の矩形波で運動が誘発された。これらの結果は、上に述べたわれわれの仮説の可能性を空間的な、また電気生理学的な意味で支持する結果と考えられる。また、耳介の動きを誘発しうる大脳皮質部位へ投射している可能性のある細胞群が視床に見出されたが、その部位が、他の動物種で前庭皮質へ投射していると報告されている部位に対応していたことから、前庭反応と耳介運動誘発の二つの現象が、視床内で関連している可能性も考えられた。さらに、遺伝素因の可能性のある物質として、実験的なてんかん発作形成に関与しているP70蛋白について調べた結果、抗P70抗体と反応し、P70と等電点と分子量の似た蛋白が、神経細胞の主として核、およびゴルジ装置に存在することがわかった。これらの結果をもとに、スナネズミの発作の初期過程から抵闘値部位の拡大に至る発作形成機序、また、ヒトにみられる闘値の固体差についてさらに検討を進めうると考えられる。