著者
中山 敦雄 松木 亨
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製技術により、脳機能障害での神経細胞解析が可能になった。しかし自閉症は症例ごとに遺伝学的原因と背景が多彩で、コントロールiPS細胞・誘導神経細胞と比較しても神経細胞の表現型の差が原因遺伝子に由来するのか遺伝学的背景の差に由来するかはわからない。我々は標準iPS細胞にゲノム編集で既知の自閉症原因遺伝子変異を導入し、コントロールと遺伝学的背景に差がない自閉症モデル細胞の作製を試みた。 iPS細胞610B1株でNLGN4X遺伝子ノックアウトに成功したが、神経細胞への分化誘導が困難であった。別に2つのiPS細胞株で同様のノックアウトが完了しモデル細胞として解析する。
著者
岸川 正大 島田 厚良
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

心身障害児(者)は「早く年をとる」とも言われ、剖検例でも脳を含めて老化の徴候とも言うべき年齢不相応な形態学的肇化がしばしば見られる。そこで、愛知県コロニー脳及び組織保存機構に登録されている症例を含めて、10歳代18例、20歳代8例を含む15歳以上の36症例について、海馬、海馬傍回、青斑核でのAT8陽性の過剰リン酸化タウ蛋白(NFT、Neuropile threads)、抗ユビキチン抗体陽性像、ストレス蛋白(αBクリスタリン、Hsp27、Hsp70)の発現頻度などを検討した。その結果、AT8陽性像は10歳代でも16.7%、30歳代は50%に、40歳を過ぎるとほとんどの症例に過剰リン酸化タウの蓄積が見られた。福山型筋ジストロフィー症など、NFTが早期から出現することが知られている疾患を除外しても、10歳代で6.3%、20歳代で43%にAT8陽性像を認めた。また、抗ユビキチン抗体陽性像はAT8の所見に類似した像を呈する一方で、神経原線維変化とは別に雪の結晶類似の構造物(仮称:UPSS=Ubiquitin Positive Snow-like Structure)が広範に散見された。その本態はMicrogliaなのかSwollen oligodendrocyteなのかの鑑別が今後の検討課題として残った。一方、これら異常タウやUPSSなどが出現している症例でも老人斑は全く認められず、一般に見る高齢老人の脳とは少々異なっていた。また、αBクリスタリンは陽性像が見られるものの、Hsp27、Hsp70ではほとんど陰性で、症例の積み重ねと生化学的検索が必要である。
著者
大島 章子 伊藤 宗之
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

てんかんの遺伝性モデル動物スナネズミの発作は、ヒトにみられるような年齢依存的な発作形成過程を持つ。われわれは、スナネズミの発作形成初期に、発作誘因である床換えにより耳介のリズミカルな運動が出現し、その後、発作部位が拡大することを見出し、遺伝素因の上に加えられた外部刺激、前庭刺激後の後発射による耳介の動きの出現が、全身発作に至る発作形成の初期過程であるという仮説をたて、以下の実験を行った。耳介のリズミカルな運動の原因部位として、電気刺激により耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位を調べたところ、冠状縫合の側後方に存在した。一方、前庭刺激に応答する大脳皮質部位、前庭皮質の存在およびその位置を調べるため、前庭装置の解剖学的特徴を調べ、前庭刺激としての電気刺激を行うための手術手技を開発した。見出された前庭皮質の位置は、耳介の運動を誘発する大脳皮質部位と位置的に重なった。また、耳介の運動を誘発しうる大脳皮質部位の刺激条件を検討したところ、特定範囲内の刺激間隔で最低3発の低電流の矩形波で運動が誘発された。これらの結果は、上に述べたわれわれの仮説の可能性を空間的な、また電気生理学的な意味で支持する結果と考えられる。また、耳介の動きを誘発しうる大脳皮質部位へ投射している可能性のある細胞群が視床に見出されたが、その部位が、他の動物種で前庭皮質へ投射していると報告されている部位に対応していたことから、前庭反応と耳介運動誘発の二つの現象が、視床内で関連している可能性も考えられた。さらに、遺伝素因の可能性のある物質として、実験的なてんかん発作形成に関与しているP70蛋白について調べた結果、抗P70抗体と反応し、P70と等電点と分子量の似た蛋白が、神経細胞の主として核、およびゴルジ装置に存在することがわかった。これらの結果をもとに、スナネズミの発作の初期過程から抵闘値部位の拡大に至る発作形成機序、また、ヒトにみられる闘値の固体差についてさらに検討を進めうると考えられる。
著者
田畑 秀典
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ヒト進化過程において、脳は著しく巨大化し、ヒトの高度な精神活動を可能にしている。脳が巨大化した主要因として、脳室帯(VZ)から離脱した神経幹細胞がさらにその幹細胞性を維持しながら脳室下帯(SVZ)で自己複製を繰り返すことが挙げられる。我々は発生過程マウス大脳皮質において、SVZで分裂する集団が皮質外側部において内側部よりも多く存在することを報告した。このことから、マウスにおいてこの両者を比較することにより、SVZ分裂細胞を多く作る仕組みを解明でき、これによりヒトが進化過程で巨大脳を獲得したメカニズムに迫ることができると考えられた。マイクロアレイ、in situ hybridization、および子宮内電気穿孔法によるスクリーニングと、情報科学的な淘汰圧の解析を平行して行い、霊長類で特異的に淘汰圧が高まり、SVZ分裂細胞の産生を正に制御する分子を同定した。この分子は、マウスではSVZにまばらに発現細胞が散見されるが、霊長類(マーモセット)では強陽性細胞が密に存在する。この分子は膜結合型のリガンドとして機能し、隣接する細胞に未分化性を維持させるように働くことが予測されることから、この発現レベルの違いが、SVZの発達を決定すると考えられた。種間による発現の違いが転写調節領域の変化によるものなのかを確かめるため、ヒトおよびマウスのBACクローンから転写開始点周囲の配列を単離し、その制御下にLuciferaseを発現するベクターを構築した。これらを子宮内電気穿孔法によりマウス胎仔脳に導入し、発現強度を比較した結果、マウス脳においてもヒトの配列はマウスよりも強い転写活性を示すことが観察された。多種間ゲノム比較によりこれらをブロック分けし、責任領域を絞り込んだところ、第2イントロン上流側の極めて狭い領域がマウスとヒトの発現強度の違いに決定的な役割を果たすことが示された。
著者
飯尾 明生 中山 敦雄
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究はヒト自閉症高感受性遺伝子ニューロリギン4X(NLGN4X)について、自閉症での遺伝子発現の変化の有無、その発現の増減が自閉症発症の原因なのか結果なのか、その発現の増減を引き起こす非遺伝的背景は何なのか明らかにすることを目的としている。そこでNLGN4Xの発現制御機構について詳細に解析したところ、NLGN4Xの発現がプロモーターのCpGメチル化を介してMeCP2により調節されていること、ストレス依存的なmiR-23aによって翻訳抑制されていること、AS-NLGN4Xによって相補的に発現制御されていることが明らかとなり、エピジェネティックな発現制御を受けていることが示唆された。
著者
孫田 信一 小野 教夫 武藤 宣博 山田 裕一
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

均衡型染色体構造異常を有し、同時に遺伝性疾患を含む各種疾患、器官形成異常や発生異常などを示すマウスを系統的に作製し、切断点を指標にして各異常に関する遺伝子探索システムの確立を目指した。チャイニーズハムスターによる予備実験に基く方法にしたがって実施した。マウスを用いて4シーベルトのX線照射した雄との交配で26.9%の子獣に染色体構造異常をもつ65系統が得られ、これらのうちホモ接合体(一部ヘテロ接合体)で何らかの症状を示すものが得た(8.6%)。発育障害を含む諸症状、行動異常、不妊、発生及び器官形成異常などを発現する動物・系統を分離した。また構造異常のホモ接合体で能を含む器官形成異常、着床後早期の発生異常、2〜8細胞期における発生異常や発生停止などを示すものもかなり多いことが判明した。また、ゲノム解析を進めるため近交系マウスおよびチャイニーズハムスター(CH)のgenomic DNAを用いて定法によりゲノムライブラリーを作製した。これまでCHについては500以上のコスミドクローンをFISH法で染色体上にマッピングし、マウスでも同様にライブラリーを作製した。染色体2p23と4q19の相互転座を有し、ホモ接合体で侏儒症と学習記憶障害を示すCH系統と特定の発生異常、器官形成異常を示す転座2系統の動物を用いて切断点の遺伝子解析を実施した。前者の切断点近傍に成長ホルモン受容体遺伝子GHRが存在しその発現異常を認めたが、切断点とは一致しない。発生障害を示す他の2系統の遺伝子を含めその領域をかなり狭い範囲に決定したが、まだ遺伝子を特定するには至っていない。本研究システムを用いて各種疾患や発生異常に関わる遺伝子が多数発見され、それぞれの構造・機能が解明されれば、異種遺伝子間の相同性を利用して同一機能のヒト遺伝子が解析できる。
著者
孫田 信一 小野 教夫 武藤 宣博 島田 厚良
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

相互転座などの均衡型染色体構造異常を有し、そのホモ接合体やヘテロ接合体で各種疾患、発生異常、器官形成異常などを呈する系統を多数開発し、各種異常にそれぞれ関与する切断点遺伝子を探索するシステムの確立を目指した。まず、4.5シーベルトのX線照射雄との交配で得られる子獣では29.8%に染色体構造異常が見られ、そのホモ(またはヘテロ)接合体の中からこれまで種々の症状(発育障害、四肢形成異常、腎異形成、痙撃発作、行動異常、高発癌、早発老化、学習記憶障害など)を呈する12系統を分離した。構造異常を有する他の系統の約20.8%はホモ接合体で致死となり、2〜8細胞期を含む初期段階での発生停止、着床後早期の発生異常、器官形成異常などを示した。一方、マウス(およびチャイニーズハムスター)のDNAを用いて、定法によりゲノムライブラリーを作製し、マウスおよびハムスターゲノム由来の500以上のBAC及びコスミドクローンをFISH法で染色体上にマッピングした。さらに、相互転座ホモ接合体で発育障害と学習記憶障害を示す2系統、及び染色体13と16の相互転座ホモ接合体で特有の発生異常、器官形成異常を示す1系統のマウスを用いて、切断点遺伝子の解析を試みた。後者の切断点におけるBAC contigのFISH解析の結果、特定クローンが染色体16の切断点を挟むことが判明したので、遺伝子の分離と解析を図った。ホモ接合体で発育障害と学習記憶障害を示す2系統の遺伝子はかなり狭い範囲に特定したが、遺伝子決定には至っていない。マウス遺伝子から相同性を利用して同一機能のヒト遺伝子を特定することが容易になっている。染色体構造異常と各種症状や発生異常等を伴う動物系統について胚バンクとして系統的に保存していくならば、未知の遺伝子を含む多数の遺伝子の構造・機能の解析の有用な研究材料になるものと考える。
著者
中村 みほ
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度は当該研究の最終的まとめの段階であり、追加データの収集、研究成果のまとめ、成果発表を行った。1.ウィリアムズ症候群(以下WS)における顔認知:WS患者は定型発達成人に見られるような倒立顔処理が正立顔処理に比べて苦手である(すなわち顔倒立効果を認めない)とする報告と、定型発達者と変わらずに顔倒立効果を認めるとする報告が混在している。我々はその認知機能を詳細に調べたWS患者において、脳磁図および脳波により倒立効果の発現の有無を検討した。それにより、自験例においても顔倒立効果を認める例と認めない例の存在を明らかにし、その違いはWSに特徴的な視空間認知障害のレベルに依存する可能性があることを示唆した。(Nakamura et al. 2013)2.WS患者における社会性の認知発達:視点取得課題(ある物体を別の視点からみるとどのように見えるかを問う課題。社会性の発達と関連があるとされている。)を心的回転課題(物体を回転させるとどのように見えるかを問う課題。)との比較において検討した。WS患者においては精神年齢を一致させたコントロール群に比して両課題ともに低い成績を示した。また、WS患者において、精神年齢の増加に伴い心的回転課題の成績の改善がみられるのに対し、視点取得課題ではそれを認めなかった。心的回転課題は視空間認知機能と関連すると考えられるが、視点取得課題とは異なる発達過程を示すことが示唆された。Hirai et al. 2013)3.WSの社会性の認知発達:顔への注意の強さを視線追跡装置を用いて検討した。課題に無関係に画面上に現れる顔画像に対して、他の物体の画像と比べて注視する時間が長いことが客観的に確認された。(in preparation)
著者
三田 勝己 宮治 眞 赤滝 久美
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

「重症心身障害児」(以下,重症児と略す)とは重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複した人たちである。全国の重症児数は約36,000名と推計されており,そのうち2/3の約24,000名が居宅で家族によってケアされている。本研究は,重症児施設と居宅を通信回線で接続し,在宅ケアを支援するITシステムを開発し,その有用性を実証することを目指した。本年度は,在宅重症児の実態調査結果を踏まえて在宅支援システムの機能を決定し,これを実現できるシステムのハードおよびソフト開発を行い,さらに,主として技術的問題を明らかにするための試験運用を行った。本在宅支援システムは以下の7つの機能から構成された:音声情報機能,画像情報機能,バイタル情報機能,モニタリング機能,遠隔操作機能,自動収集機能,データベース機能。試験運用フィールドにはIT利用の有効性が高い地域として,北海道旭川市にある北海道療育園(重症児施設)が在宅支援を行っている地域を選んだ。運用のプロトコルとしては,居宅システムのみでのバイタル測定を1日1回実施した。測定項目は血中酸素飽和度,脈拍数,呼吸数,体温,血圧,心電図の6項目であった。これらは6時間毎にセンターシステムから自動収集された。また,週1回,センター(北海道療育園)からの接続により医師の電話診療を行った。その内容は健康状態や疾患の診察,日々測定されたバイタルデータに関する診断,生活に関する指導・相談を行った。以下,明らかとなった技術的問題の概要を述べる。(1)もっとも大きな問題はバイタルデータの自動収集機能がほとんど稼働せず,また,電話診療が時々できないことがあった。(2)居宅システムの電源ケーブル,接続ケーブルが多く,居宅内でのトラブルの原因になりやすいとの意見がでた。(3)ISDN回線が有線接続のため,特に居宅システムを居室間ですら移動できなかった。無線LANや携帯電話を利用したモバイル化の必要性が示唆された。(4)居宅からセンター(重症児施設)へ接続するためのセンター側の受け入れ体制がなく,特に急変時を考えると是非とも整備を要請される課題であった。