著者
大庭 大
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_312-2_335, 2019 (Released:2020-12-21)
参考文献数
35

本稿は、純粋手続き的正義の理論に焦点を当て、その理論的意義を明らかにするとともに、制度的考察までを射程に含む分配的正義の有力なアプローチとしてこれを提示することを目指す。純粋手続き的正義のアプローチがロールズ理論の体系において一貫性をもつことの論証を通じて、その理論的擁護可能性を示したのち、純粋手続き的正義のアプローチが制度・政策のパタン指定性について独自の視点を提供し、制度的構想を導く指針ともなりうることを示す。より細かくは、まず1 ~ 2節で、純粋手続き的正義について、ロールズの議論を分析・整理することでその特徴の精確な見取り図を提示する。純粋手続き的正義の異なる類型をみたのち、原理適用段階における正義の指令を統べるアプローチとして、準純粋手続き的正義の社会過程説を特定する。そのうえで3節では、パタン指定という論点を中心にロールズ的な純粋手続き的正義の分配制度上の含意を論じる。4節では純粋手続き的正義の非ロールズ的構想について検討する。
著者
大庭 大
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_246-2_270, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
38

社会保障構想の新たな潮流として 「事前分配 (pre-distribution)」 というアイディアを検討する。事前分配をめぐっては 「どのような政策を実施すべきか」 という実践的政策指針としての議論と, 「そもそも事前分配とは何か, どのようなものであるべきか」 という哲学的・規範的議論が混在している。本稿ではこの両方の位相における議論を扱い, 次のことを行う。第一に, 事前分配政策と既存の社会保障アプローチとの異同を明らかにし, 事前分配政策を社会保障のひとつのモデルとして提示する。第二に, J・ロールズの財産所有のデモクラシーを事前分配の政治哲学的構想を示すものとして位置づけ擁護する。本稿は事前分配の政策類型としての特徴を明確化すると同時に, それを評価するための視点としてどのような規範的構想が望ましいかを明らかにするものである。特に, 曖昧に語られている 「事前」 という言葉の意味に焦点を当てる。また, 本来つながっているはずでありながら分離して論じられがちな, 実践的政策提案の議論とあるべき政策をめぐる規範的考察の二つを接続し直すことも意図している。