著者
大川 清孝 大庭 宏子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.799, 2012-05-24

赤痢アメーバ感染症の原因は原虫のEntamoeba histolyticaであり,腸アメーバ症と腸外アメーバ症に分類できる.前者は赤痢様の激しい症状を示すアメーバ赤痢とアメーバ性大腸炎に分類できるが,現在ではこの分類にあまり意味がなく,両者を含めてアメーバ性大腸炎と呼ぶことが多い.囊子が経口摂取されることにより感染し,下部小腸で栄養型となり,大腸,特に盲腸で成熟し分裂,増殖する.その後粘膜に侵入し,壊死に陥らせ下掘れ潰瘍を形成する. 本邦での感染原因は発展途上国への旅行より性行為によるものが圧倒的に多い.男性同性間感染が多いが,最近では風俗店を介した異性間感染が増加している.多くは慢性に経過し,下痢,粘血便,腹部膨満感,腹痛などで寛解と再燃を繰り返す.劇症型とは,急速に大腸の広範な全層性壊死が進行し,腸管穿孔や多臓器不全を併発した死亡率の高い病態を言う.
著者
大川 清孝 大庭 宏子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.636, 2017-05-24

定義 1977年に白壁ら1)の「大腸結核のX線診断」という論文により“潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯”という用語が初めて記載された.その後一般的な使用には冗長的であったため萎縮瘢痕帯という表現が慣用的に用いられ,現在に至る2).白壁らは手術を施行し総合的に腸結核と診断した47例の肉眼所見,X線造影所見,病理組織学的所見などを検討した.その結果,腸粘膜またはリンパ節に乾酪壊死がみられ結核と確定診断できた症例と,非乾酪性肉芽腫を認めた,あるいは肉芽腫を認めなかった症例において,共通した肉眼所見として萎縮瘢痕帯を見い出した.すなわち,乾酪壊死を認めなくても,萎縮瘢痕帯を認めた場合には腸結核と診断できる可能性が高いと述べた.また,萎縮瘢痕帯を示す結核以外の疾患はほぼないことも根拠とした.萎縮瘢痕帯とは炎症性ポリープの多発,潰瘍瘢痕の多発,萎縮した粘膜などで構成される区域性領域であり,治癒傾向の著明な腸結核病変を意味する3).
著者
大川 清孝 上田 渉 青木 哲哉 大庭 宏子 宮野 正人 小野 洋嗣 中内 脩介 山口 誓子 倉井 修
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.981-990, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
16
被引用文献数
2

【背景・目的】他疾患との内視鏡的鑑別診断を行うために,カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の内視鏡像の特徴を明らかにすることは意義があると考えられる.【方法】7年間に当院で経験した両疾患について,臨床像,罹患部位,内視鏡像を後方視的に検討し比較した.内視鏡像を検討できたのはカンピロバクター腸炎43例とサルモネラ腸炎7例であった.【結果】両疾患の臨床像は類似しており差はなかった.罹患部位は下行結腸~直腸についてはカンピロバクター腸炎で有意に高率であった.大腸の内視鏡所見は,両疾患とも粘膜内出血と浮腫が特徴であった.大腸の潰瘍出現率はサルモネラ腸炎が29%で有意に高かった.回盲弁の潰瘍出現率はカンピロバクター腸炎が45%で有意に高かった.【結論】両疾患における大腸内視鏡像の特徴は粘膜内出血と浮腫であり,両疾患の鑑別には回盲弁の潰瘍の有無と大腸の潰瘍の有無が有用である.
著者
上田 渉 大川 清孝 宮野 正人 藤井 英樹 大庭 宏子 山口 誓子 青木 哲哉 倉井 修 小野寺 正征
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.2161-2168, 2016

<p>潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)患者に合併するサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症の大部分は,ステロイドや免疫抑制薬の治療歴がある.今回ステロイド投与歴がないにも関わらずCMV再活性化を生じ,治療経過でCMV感染症を発症したため抗ウイルス治療を要したUC患者2例を経験した.1例目は66歳で,再燃時大腸内視鏡検査では発赤,浮腫,びらんのみだが,既にCMVの再活性化を呈していた.ステロイド治療で一旦軽快したが,その後CMV感染症を合併し抗ウイルス治療を要した.2例目は75歳で,再燃時大腸内視鏡検査で浮腫,びらん,小潰瘍のみであったが既にCMV再活性化を生じていた.ステロイドとタクロリムスで一旦軽快したが,CMV感染症を合併し抗ウイルス療法を要した.ステロイド投与歴にとらわれず,高齢者UC患者の再燃時には典型的な内視鏡画像を欠いてもCMVの再活性化を疑いステロイド以外の治療を考慮すべきである.</p>
著者
佐野 弘治 末包 剛久 上田 渉 大庭 宏子 青木 哲哉 大川 清孝
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.224-228, 2012 (Released:2012-04-03)
参考文献数
9

症例は43歳女性.17年前に前置胎盤で帝王切開術を受けている.某年7月から下痢と血便があり,前医を受診した.翌月に大腸内視鏡検査(CS)を施行し,直腸に隆起性病変をみとめたため,精査目的で当科を受診した.CSでは,横行結腸中央部に狭窄を伴う表面顆粒状隆起性病変,S状結腸に粘膜下腫瘍様隆起,下部直腸に表面顆粒状の隆起性病変がみられた.腹部造影CT検査では,横行結腸に壁肥厚と壁内部に低吸収域がみられた.子宮は肥大し内部に低吸収域が多発し,子宮背側周囲に多胞性嚢胞がみられたため,子宮内膜症が疑われた.注腸検査では,横行結腸中央部に約6cmにわたる狭窄と鋸歯状の陰影欠損,S状結腸に壁の伸展不良,直腸に壁のひきつれと隆起を認めた.2ヵ月後CSを行い,横行結腸中央部,下部直腸からの生検で腸管子宮内膜症と診断した.横行結腸に病変をみとめた腸管子宮内膜症は,本邦では2例目で非常に稀であり,文献的考察を加えて報告する.