著者
小田 綾 吉田 啓太 向井 友宏 高橋 珠世 好中 大雅 大植 香菜 向井 明里 神田 拓 尾田 友紀 入舩 正浩
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-52, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
11

核磁気共鳴画像法検査は,診断上必要とされることもあるが,検査に時間がかかり,激しい騒音を伴う.そのため,検査中に安静を保つことが難しい患者ではプレパレーションを行った後に検査を行うこともあるが,知的障害者では行えない場合も多い.診断価値のある画像を得るため,深鎮静下で検査を行うことがあるが,撮影中に呼吸停止を起こすことも考えられる.さらに患者が肥満を伴っている場合は重篤な合併症に繋がる可能性もあることに加え,持ち込み可能なモニター機器は限られている.今回,われわれは,肥満を伴う知的障害者に対し静脈内鎮静法に物理的手法を併用することで,深鎮静を回避しMRI検査を安全に行いえた症例を経験した.症例は21歳男性,知的障害とてんかんおよび肥満を有しており,舌海綿状血管腫疑いのため静脈内鎮静下MRI検査が予定された.本院では,MRI室で使用できるモニタリング機器は,パルスオキシメータのみであり,カプノメーターも使用しない予定であったため,深鎮静下での管理は回避し,ミダゾラムを用いた意識下鎮静法と,抑制具や固定器具を使用した物理的手法による行動調整法を併用した.検査中に呼吸抑制や舌根沈下はみられず,問題なく終了した.肥満を伴う知的障害者に対しミダゾラムを使用することで,適度な鎮静作用と健忘効果が得られ,抑制具や固定器具使用による不快な記憶が残りにくくなり,安全かつ適切なMRI検査が可能となることが示唆された.
著者
大植 香菜 原田 佳枝 兼松 隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.93-97, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
43

肥満,特に内臓脂肪型肥満は,糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症リスクを高め,病態の進展を助長する.肥満は,脂肪の蓄積と消費のバランスの崩れによって引き起される.よって,脂肪細胞における脂肪の蓄積や分解の分子基盤を明らかにすることは,複雑な生体のエネルギー代謝を理解する一助となる.21世紀に入ってこの調節メカニズムの解明研究が飛躍的に進んだ.その中で,白色脂肪細胞は余剰エネルギーの単なる貯蔵庫ではなく,アディポカインの産生などを介して身体の恒常性維持に多様な機能を発揮する重要な臓器だと分かった.褐色脂肪細胞は,ミトコンドリアにおける非ふるえ熱産生系を介してエネルギーを熱として放散させる体熱産生に特化した細胞である.最近,その活性制御と肥満との関係が重要だと分かってきた.さらに,白色脂肪組織の中に褐色脂肪細胞様の第3の脂肪細胞が報告された.これは,ベージュ脂肪細胞と呼ばれ,寒冷刺激などによって白色脂肪組織の中から分化(browning)してくる新たな体熱産生細胞として注目されている.交感神経系の活性化は,脂肪分解を促進し非ふるえ熱産生を増加させてエネルギー消費を昂進させる.すなわち肥満を抑制する方向に傾く.本稿では,交感神経活動(アドレナリンβ受容体)の活性化によっておこる脂肪分解の分子メカニズムを,我々が最近明らかにした脂肪分解を負に制御する分子を交えて紹介する.そして,その分子が褐色脂肪細胞における非ふるえ熱産生機構にどのように関わるかを概説する.