著者
高木 博史 大津 厳生
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

大腸菌にはシステイン(Cys)をO-acetylserine sulfhydrylase A(OASS-A)によりO-acetylserine(OAS)とSO_4^<2->から合成する経路1と、OASS-BによりOASとS_2O_3^<2->から生成するsulfocysteineを介して合成する経路2が存在する。これまでに経路1の制御機構の解除を中心としたCys生産菌の育種が続けられてきたが、経路1だけでは合成系の強化にも限界がある。一方、経路2はsulfocysteineからCysへの還元に関わる酵素やその制御機構が未解明であるが、経路1と比べ硫黄同化経路でのエネルギー消費が少ないため、その知見を発酵生産へ応用することで、Cys生産性の向上が期待できる。まず、経路1のOASS-A遺伝子(cysK)と経路2のOASS-B遺伝子(cysM)を破壊した二重欠損株を作製したところ、予想通りCys要求性を示したことから、大腸菌のCys生合成経路には1と2しか存在せず、二重欠損株ライブラリーを用いた解析が可能であることが判明した。現在、Keio collectionとcysK破壊株を接合させた二重欠損株ライブラリーを用いて、Cys要求を示す菌株を単離し、新規経路に関与する遺伝子の探索を行なっている。また、すでに高等動物において、glutaredoxin(Grx)がsulfocysteineをCysに還元する反応を触媒することが報告されている。そこで、大腸菌に存在する酸化還元酵素がsulfocysteineからCysへの還元活性を示すかどうかについて評価した。9種類の酸化還元酵素にHisタグを融合した組換え酵素を精製し、酵素活性を測定した。その結果、Grx1,2,3はsulfbcysteineのCysへの還元を触媒することが明らかになった。さらに、in vivoでの効果を確認するために、これら酸化還元酵素をそれぞれ過剰発現させたCys生産菌を構築し、S_2O_3^<2->を硫黄源としたCys生産実験を行った。その結果、Grx1及びGrxと相同性の高い還元酵素NrdHの過剰発現株では、Cys生産量が有意に増加(20-40%)しており、これらの還元酵素の過剰発現がCys発酵生産に有効であることが示された。