著者
大澤 智恵子 網本 和 佐藤 信一 安保 雅博 宮野 佐年
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.D0524-D0524, 2004

【目的】近年、高齢者においても食道癌根治術の適応とされる傾向がある。高齢者は呼吸機能の低下から術後肺合併症の発生率が高いと報告され、術前の呼吸理学療法は重要とされている。また、合併症の発生により術後在院日数は長期化するとの見解が一般的である。今回、術後肺合併症と術後在院日数に影響を与える要因を呼吸機能、術前理学療法の観点より分析、高齢群と若年群とで比較し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】1998年から2003年に当院で食道癌根治術を行い術前または術後から理学療法を開始した101名を高齢群(65歳以上)と若年群(64歳未満)とに分類した。さらに呼吸機能の影響を明確にするため、双方より術後肺合併症への影響が強いとの報告が多い要因である腫瘍進行度(stage)、術前アルブミン、術式(開胸・開腹・内視鏡の有無・再建経路)が同じであるペアを29組作成、それぞれ高齢群29名(男性25名、女性4名、平均年齢70.6±5.1歳)と、若年群29名(男性26名、女性3名、平均年齢56.9±4.7歳)を対象とした。高齢群と若年群において(1)%VC(2)一秒率(3)PF(4)V50/V25(5)術前理学療法を肺合併症へ影響を与える要因として、同様に(1)肺合併症(2)既往(3)術前理学療法の実施を術後在院日数へ影響を与える要因として選択した。これらよりSPSSを使用してロジスティック回帰分析を行い、各々に有意に影響を与える要因の抽出を、危険率5%の有意水準にて行った。<BR>【結果】術後肺合併症に有意に影響を与える要因として、若年群では%VC(odds比0.881)が抽出されたが、高齢群では抽出されなかった。また、術後在院日数においては若年群では術前理学療法(odds比18.597)が抽出されたが高齢群では有意な要因は抽出されなかった。<BR>【考察】若年群において肺合併症へ影響を与える要因として%VCが抽出された。これは手術時の全身麻酔により残気量が減少して無気肺が発生するが、肺活量の予備能力が大きい場合には、それを代償する能力が強く、肺合併症予防に有効であるためと考えられる。また、同じく若年群において術後在院日数へ影響を与える要因として術前理学療法が抽出されたが、術前理学療法でのオリエンテーションや退院への目的意識の形成、肺合併症からの回復に術前理学療法が有用であることが示唆された。一方、高齢群において肺合併症や術後在院日数に影響を与える要因が抽出されなかった理由として、高齢者は加齢に伴う各臓器の機能・予備能力の低下や暦年齢と身体年齢の乖離、個人差の顕性化よりわずかな負荷でも合併症のトリガーとなる可能性が高いことが考えられる。従って、高齢者は肺合併症や術後在院日数への影響要因が多様で偏りがなく、若年者と比較して術後経過の予測が困難であることが示唆された。