著者
平野 和宏 木下 一雄 河合 良訓 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1413, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】近年,機能解剖学に関する報告が認められるも,深層筋における報告は少なく,その知見は十分とは言い難い。内転筋群は大きな筋群であるが,筋電図を用いた大内転筋の機能についての報告は散見されるも,それ以外の筋に関しては報告がほとんど認められず,その機能については明確になっていない。骨格筋の機能を理解するには,解剖学的観察は有効な手段である。その利点は,関節角度の変化に伴う筋の短縮や伸張の度合いを3次元的に観察できるため,筋の作用が理解可能な点である。本研究では,解剖学的観察所見を基に,恥骨筋,長内転筋,短内転筋(以下;3筋)の回旋作用について検討することを目的とした。【方法】当大学解剖学講座に提供された,肉眼的に股関節に明らかな障害のない献体3体5肢(男性2名,女性1名,73歳~78歳)を用いた。献体の固定方法は,厚生労働大臣の承認する死体解剖資格取得者により,アルコール36%,グリセリン13,5%などを含む混合固定液を大腿動脈から注入し固定した。骨盤は恥骨結合および仙骨を切断し,下肢は膝関節から切断,表皮及び結合組織,脈管系,表層筋を除去して3筋を剖出した実験標本を作製した。作製した実験標本を用いて股関節中間位における3筋の3次元的な走行を確認し,股関節中間位からの他動的な股関節内旋・外旋運動に伴う筋の伸張・短縮を観察した。尚,解剖学的観察においては,死体解剖資格を有する指導者のもと実施した。【倫理的配慮】本研究は,当学の倫理委員会の承認を得て施行した。【結果】各筋の起始停止として,恥骨筋は恥骨上枝から起始し,小転子のすぐ遠位の恥骨筋線に停止,長内転筋は恥骨稜の下部から起始し,大腿骨粗線に停止,短内転筋は恥骨下枝から起始し,恥骨筋線および大腿骨粗線近位部に停止しており,3筋ともに恥骨から起始し,大腿骨の後面へ停止していた。走行として3筋は内旋の回転軸と直交に近い走行であった。3筋は恥骨から起始し,大腿骨の後面へ停止していることから,観察のみでは外旋作用を持つと考えられたが,股関節中間位から他動的に内旋すると3筋は短縮し,外旋すると伸張した。頭側から尾側方向にて起始停止の位置関係を観察すると,内旋で起始停止は近づき,外旋で起始停止は離れた。また,内旋時に3筋は大腿骨に巻き込まれるように短縮することが確認された。さらに,股関節内旋には内転が伴い,内転を伴わない内旋を行うと,頚部と臼蓋がimpingementを起こしやすいことが確認された。【考察】現在,身体運動への個々の骨格筋の寄与は,徒手筋力検査法(Manual Muscle Testing;以下MMT)における知識が一般的である。しかしながら,骨格筋は3次元的な走行を持っているため,関節角度の変化やOpen Kinetic Chain(開放運動連鎖 以下;OKC)とClosed Kinetic Chain(閉鎖運動連鎖運動 以下;CKC)の違いによっても関節に及ぼす機能は変化する場合がある。MMTにおける股関節内旋筋は中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋とされている。関節の回転トルクを発揮する場合,関節の回転軸に直交する筋走行ならば強い回転トルクを発揮できるが,回転軸に平行する筋走行では回転トルクは発揮できない。中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋は股関節屈曲位であれば強い内旋トルクを発揮するのには有利な走行であるが,股関節中間位では回転軸に平行する走行となるため,内旋トルクを発揮するには不利な形態である。一方,3筋は内旋の回転軸と直交に近い走行であるため,内旋トルクを発揮するのに有利な形態であり,今回の結果からも他動的な内旋時に3筋の短縮が確認された。以上の事から,3筋は股関節中間位における内旋の機能があると考える。しかし,内旋時に3筋は大腿骨に巻き込まれるように短縮することが確認されており,大腿骨側が動くOKCよりは,骨盤側が動くCKCのときに内旋に作用しやすいと考えられる。今回,股関節中間位からの他動的な内旋を行ったところ,内転を伴いながら内旋することが確認された。肩関節であれば骨頭から直接長軸方向に上腕骨が伸びているため,軸回転としての内外旋が可能であるが,股関節は頚体角と大腿骨頚部が存在することや,骨頭と臼蓋の関係からも内転を伴わない内旋を行うと,頚部と臼蓋がimpingementを起こしやすくなることを確認しており,これらのことから生理的な動きとしては内転を伴いながら内旋するものと考える。この複合運動は,実際の動作としてはknee inを連想させるものであった。【理学療法学研究としての意義】今回,その機能が明確とは言えない恥骨筋,長内転筋,短内転筋の3筋の股関節回旋作用について,解剖学的観察を用いて検討した。骨格筋の機能を理解することは,精度の高い理学療法介入の一助になると考えられ,理学療法学研究としての意義があると考える。
著者
草野 みゆき 春原 則子 渡辺 基 百崎 良 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.601-608, 2012-12-31 (Released:2014-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

慢性期失語症患者に対し短期間の集中的な言語訓練を実施し, その手法および効果について検討した。訓練は毎日40分×2回, 10日間個別に実施した。内容は 1) テーマを指定したスピーチ, 2) 症例ごとに設定した機能訓練, 3) PACE であった。また, 病棟スタッフとのコミュニケーション課題も設定した。介入前後に, SLTA, SLTA-ST (呼称) , Token Test, 失語症構文検査および日常生活上のコミュニケーション活動の状態に関する家族へのアンケート調査を行った。介入後, SLTA「聴く」以外で有意な改善を認め, 3 ヵ月後の評価でも6 項目中5 項目で成績は維持または改善がみられた。慢性期の失語症患者に対しても, その時点の言語機能の評価に基づいた集中的な介入を行うことによって, 言語機能や日常コミュニケーション能力に改善が得られることが示唆された。
著者
渡邉 修 秋元 秀昭 福井 遼太 池田 久美 本田 有正 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-8, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
11

【はじめに】交通事故や転倒転落を主な原因とする外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)は、とくに中等度から重度の場合、後遺する身体障害および高次脳機能障害により、介護する家族の負担は深刻である。しかし、外傷後の経過とともに、これらの障害は、改善していくことから、家族の介護負担感も軽減していくと考えられる。本研究は、TBI後、10年以上が経過した事例について、その家族の介護負担感を調査した。【対象および方法】TBI後、10年以上が経過した344例の患者の家族に、質問紙によるアンケート調査を行った。344例(男性289例、女性55例)は、受傷時平均年齢は24.0±13.3歳、現在の平均年齢は、43.6±12.3歳、TBIからの平均経過年数は、19.6±7.5歳であった。【結果】現在、296例(86.0%)が家族と同居していた。このうち、34例(全体の9.9%)が配偶者と同居していた。単身者は48例であった。バーセルインデックス(barthel index;BI)は、平均89.3±19.3で、日常生活が自立しているとされる85点以上は、270例(78.5%)であった。認知行動障害とZarit介護負担尺度は正の相関を認めた。一方、BIとZarit介護負担尺度には相関は認められなかった。就労群の受傷時年齢は非就労群に比し若年であった。そして、現在の年齢も、就労群のほうが若年であった。一方、介護負担感は、有意に就労群のほうが低かった。外出頻度別に介護負担感を比較すると、高頻度外出群のほうが、介護負担感は低かった。【結語および考察】受傷後、10年が経過しても介護する両親(あるいは主に妻)の負担感が大きい。介護負担感と認知行動面の障害には正の相関があり、さらに介護負担感には有意に就労の有無、外出頻度が関連していた。社会性の確立こそがTBIで表れやすい認知行動障害を改善に導く。患者ごとにそれぞれの目標に沿って、地域リハビリテーション、職業リハビリテーションを提供していくことが、家族の介護負担感を軽減することになると考えられる。
著者
中島 卓三 木下 一雄 伊東 知佳 吉田 啓晃 金子 友里 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0737, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 我々は人工股関節全置換術(以下THA)後の靴下着脱動作に関与する機能的因子について検討している。靴下着脱動作は上肢・体幹・下肢の全身の複合的な関節運動であり、先行研究では靴下着脱動作における体幹の柔軟性の影響を明らかにすることが課題であった。THA患者の靴下着脱には脱臼防止のために股関節を屈曲・外転・外旋で行う長座位開排法(以下 長座位法)と端座位開排法(以下 端座位法)があるが、両法における脊柱の分節的可動性の違いを明らかにした報告はない。本研究の目的は、THA患者での検討の予備研究として、健常成人を対象に、靴下着脱肢位の違いによる脊柱の分節的可動を明らかにするとともに、靴下着脱時の脊柱分節性をより反映しうる評価方法を検討することである。【方法】 対象は健常男性20名(平均年齢31.6±6.3歳,身長172.4±4.6cm,体重65.8±7.0kg)、靴下着脱方法は長座位法・端座位法の2肢位で行った。体幹柔軟性の評価は一般的に使用されている長座位体前屈(以下 LD)と、今回新たな評価方法として下肢後面筋の影響を排除した端座位で膝・股関節屈曲90度、腕組みの状態から骨盤を後傾し体幹を屈曲させ肩峰と大転子を近づけるよう口頭指示して行う方法(SF)で評価した。測定にはスパイナルマウス(Index社製)を使用し、長座位法・端座位法・LD・SFの4肢位について、Th1~Th12までの上下椎体間が成す角度の総和を胸椎彎曲角、L1~L5までの上下椎体間が成す角度の総和を腰椎彎曲角、仙骨と鉛直線が成す角度を仙骨傾斜角として計測した。脊柱後彎(屈曲)および仙骨前傾は正、脊柱前彎(伸展)および仙骨後傾は負で表記した。長座位法・LDは安静長座位との差を、端座位法・SFは安静端座位との差を算出した。統計処理にはSPSS(ver19)を使用し、長座位法と端座位法およびLDとSFの相違を確認するためにWilcoxonの符号付き順位和検定を用い、靴下着脱動作それぞれとLD・SFとの関連にはSpearmanの順位相関係数を求め検討した。【説明と同意】 本研究は、当大学倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】 各測定値の平均は胸椎彎曲角(長座位法:端座位法:LD:SF=37.65±23.54度:44.45±8.89度:47.10±31.40度:64.55±18.03度)、腰椎彎曲角(41.00±9.44度:32.25±7.77度:44.80±13.71度:36.75±6.74度)、仙骨傾斜角(-18.30±5.00度:-16.75±9.04度:-5.45±10.84度:-19.20±7.33度)であった。長座位法と端座位法の違いでは腰椎彎曲角・仙骨傾斜角で有意差が認められ(p<0.01)、LD とSFの違いでは全ての項目で有意差が認められた(胸椎彎曲角・仙骨傾斜角:p<0.01、腰椎彎曲角:p<0.05)。また長座位法とLD・SFの関係では、LDの仙骨傾斜角(rs=0.77、p<0.01)で相関を認められた。端座位法とLD・SFの関連性では、SFの腰椎彎曲角(rs=0.72、p<0.01)・仙骨傾斜角(rs=0.52、p<0.05)で相関を認めた。【考察】 着脱肢位の違いによる脊柱の分節性では腰椎彎曲角・仙骨傾斜角が異なっており、下部体幹の分節性に違いがみられた。宮崎ら(2010)は、LDはSLRを代表とするハムストリングスや股関節の柔軟性を反映し、脊柱の柔軟性まで反映し難いと報告している。今回の結果からも長座位法は下肢の柔軟性の影響により、腰椎の後彎・仙骨の後傾の可動性が必要であると考えた。しかし、THA患者の場合では腰椎前彎、股関節屈曲制限を呈することが多いため、胸椎の後彎やその他の部位での代償が必要であると考えられた。一方、体幹柔軟性の評価方法の比較ではLDとSFは胸椎・腰椎・骨盤すべてにおいて異なった分節性であることが確認された。また、長座位法とLDの仙骨傾斜角で相関を認め、端座位法とSFの腰椎彎曲角・仙骨傾斜角で相関を認めた。LDは下肢の柔軟性の影響により仙骨の分節性を反映する評価方法であると考えられた。一方、SFに関しては端座位での腰椎・仙骨の分節性を反映し得る体幹柔軟性の評価方法であると考えられた。しかし、いずれの結果も健常人での比較であるため、股関節やその他の部位による多様の運動方略を持ち合わせていると考えられる。今後は股関節や腰椎の可動制限を認めるTHA患者を対象として測定を行い、着脱肢位の違いによる体幹分節性の違いを明らかにし、体幹の柔軟性を反映しうる簡便な評価方法を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 体幹柔軟性評価としてLDとSFは脊柱分節性に違いがあった。靴下着脱肢位の違いによって、その評価方法は使い分ける必要があると考えられた。
著者
山本 一真 大熊 諒 岩井 慶士郎 渡邉 修 安保 雅博
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2020-12-15

近年,脳卒中や脳外傷による後天性脳損傷者の自動車運転再開支援が全国の医療機関などで行われるようになり,実車での評価前のスクリーニングとして神経心理学的検査が実施されている.しかし,失語症者の場合は実施できる神経心理学的検査が非言語性のものに限られるため,運転再開に至る机上検査結果の基準が示しにくいのが現状である.そこで今回,脳損傷後の失語症例で自動車運転を再開できた再開例と再開できていない非再開例の「病巣」「失語症のタイプ」「SLTA(標準失語症検査)の結果」を比較し,運転を再開できた失語症者の傾向について予備的分析を実施した.結果,失語症者の運転再開例の脳損傷範囲や失語の重症度には幅がみられたが,病巣は前頭葉が多く,タイプはブローカ失語が多かった.そのことから,失語症者の運転再開には聴覚的理解がある程度保たれており,自身の病態を認識していることの必要性が示唆された.
著者
平野 和宏 木下 一雄 千田 真大 河合 良訓 上久保 毅 安保 雅博
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.356-363, 2010-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
36

【目的】本研究の目的は,解剖学的観察を基に,MRIを用いて腸骨筋の機能を科学的に検証することである。【方法】実習用献体4体8肢を用いて大腰筋と腸骨筋の走行を確認した。腸骨筋前部線維は,腸腰筋腱とは別に筋線維のまま直接小転子と大腿骨に停止していた。他動的に大腿骨を操作し股関節を屈曲すると,初期屈曲では腸骨筋前部線維が短縮した。この所見を基に,健常成人11名を対象として股関節屈曲30°と屈曲90°の2条件の運動後,MRIのT2値を用いて大腰筋と腸骨筋前部・中部・後部それぞれの部位の筋活動に差があるか検討した。なお,T2値は安静時のT2値に対して運動後のT2値をT2値増加率として表した。【結果】股関節屈曲30°では,腸骨筋前部が大腰筋ならびに腸骨筋後部より有意にT2値増加率が高値を示した。屈曲90°では各部位間に有意差は認められなかった。各部位にて屈曲30°と屈曲90°のT2値増加率を比較すると,全ての部位にて屈曲90°のT2値増加率が有意に高値を示した。【結論】腸骨筋前部線維は股関節初期屈曲に作用している結果となり,屈曲角度の少ない動作は,腸骨筋前部線維が担っている可能性が示唆された。
著者
安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.3-9, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
12

リハビリテーション科医と作業療法士は似ているところがある.何をやっているのかわからず,世間的にほとんど認識されていないところである.だから,需要が十二分にもありながら,供給が著しく足りない,なんともアンバランスな不人気な職種でもある.だから,低迷する要因にもなっている.ブルー・オーシャン(競争相手のいない未開拓の市場)であることを自覚し,時代の流れを鋭利に感じ,患者さんのためにリハビリテーション医療を戦略的・革新的に行うべきである.
著者
原 貴敏 垣田 清人 児玉 万実 土井 孝明 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.228-233, 2014 (Released:2014-05-10)
参考文献数
16

Alien hand syndrome (AHS) is a rare neurologic disorder in which movements are performed without conscious will. Cognitive rehabilitation is usually first considered for treating AHS. However, we proposed different modalities for the treatment. This is the first case report showing therapeutic effects of the NEURO-15 program that consists of low-frequency repetitive transcranial magnetic stimulation and intensive occupational therapy on AHS symptoms and upper limb dysfunction caused by a stroke one year and three months before. A 68-year-old male developed right upper limb palsy secondary to cerebral infarction on the medial side of the left frontal lobe. On admission, he exhibited disturbed skilled motor behavior, compulsive grasping of the right upper limb, and dissociated behavior of the right hand independent from the left. The right hand interfered with the actions executed by the left hand. The left hand restricted the right hand in its actions by holding it. Six months after the onset, his Activities of Daily Living improved and he was discharged from hospital to home. However, his compulsive grasping of the right upper limb symptoms remained, and he underwent NEURO-15 one year and three months after the onset. His right upper limb function improved. Compulsive grasping of the right upper limb disappeared, and the contradictory action of the right upper limb was rarely seen. These results suggested that NEURO-15 influenced the neural network including the primary motor cortex and supplementary motor area.
著者
百崎 良 岡田 昌史 奥原 剛 木内 貴弘 緒方 直史 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.606-613, 2018-07-18 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目的:本研究の目的は日本におけるリハビリテーション医学領域の研究登録状況を調査し,今後のリハビリテーション医学研究のあり方について検討することである.方法:UMIN-CTR(2005年以降)の登録データを用い,リハビリテーション医学領域の介入研究を網羅的に検索した.研究デザインや結果公開状況,登録時期などのデータを収集し,検討を行った.結果:21,410件のデータより,529件の研究が抽出された.研究デザインは並行群間比較が54%と最も多く,有効性の検討を目的とした研究が65%と多かった.比較試験の86%はランダム化がなされており,53%はブラインド化がなされていた.研究開始前の事前登録は50%あり,事後登録研究に比べ,結果の公開割合が少なかった.結論:研究登録数は経年的に増加していたが,研究の透明性を確保するためにも事前登録を心がける必要があると考えられた.リハビリテーション医学領域においても臨床研究を適切に計画・登録できる医療者のさらなる育成が重要だと考えられた.
著者
角田 亘 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.340-345, 2016 (Released:2016-09-23)
参考文献数
11

我々は,反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation; rTMS)を,脳の可塑性を高めるための介入(neural plasticity enhancer)と位置づけ,低頻度rTMS と集中的作業療法の併用療法(NEURO プロトコール)を脳卒中後上肢麻痺に対して行ってきた.2015 年3 月の時点で,すでに1,700 人以上の患者が15 日間の併用療法を施行されているが,結果として,本併用療法は安全に導入され,これにより麻痺側上肢運動機能が改善することが確認されている.さらに我々は,治療成績を向上させるためにtheta burst stimulation,レボドパ,アトモキセチン,ボツリヌス毒素注射などもプロトコールに応用している.今後は,rTMS によるneural plasticity enhancement が脳卒中リハの中核になるものと期待される.
著者
後藤 杏里 佐々木 信幸 菅原 英和 角田 亘 安保 雅博
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.242-247, 2008-04-18
被引用文献数
1

We report a 47-year-old right-handed male patient with pure word deafness after suffering an intracerebral hemorrhage. He had been working as a high school teacher before the onset of his stroke. He was emergently admitted to our hospital due to left putaminal hemorrhage and treated conservatively after admission. The patient's neurological findings showed that although his auditory comprehension was severely impaired, he was still able to communicate using written language. Pure-tone audiometry didn't detect any sensorineural hearing impairment. After the diagnosis of pure word deafness was clinically made, we educated the patient and his family, as well as the associated medical staff at our department, about this condition so that they could understand his pathological situation. In addition, we introduced a rehabilitation program for lip-reading and showed him a technique for using articulatory voice production in usual conversation. As a result of our attempts, he developed the ability to communicate using lip-reading skills after 2 months of rehabilitation and successfully returned to his previous work because of the communicative competence he acquired. We also make some proposals for helping other patients with auditory agnosia to return not only to their regular daily activities but also to return to gainful employment, as patients with this condition seem to have special difficulties benefiting from the present welfare service system in Japan.
著者
長谷川 雄紀 岡本 隆嗣 安東 誠一 前城 朝英 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.623-629, 2019-08-16 (Released:2019-09-26)
参考文献数
20

脳腫瘍はさまざまな機能障害を引き起こし日常の活動や参加を制限する.脳血管疾患などと同様にリハビリテーション医療の役割の重要性は認識されているが,回復期リハビリテーションにおける入院管理の検討は不十分である.過去の報告や当院に入院した脳腫瘍患者に関するデータをもとに回復期リハビリテーション病棟における留意点や対応の検討を行った.良性の髄膜腫が多く,全体として入院リハビリテーション治療での有意な機能的改善を認めたが,合併症の治療や検査で急性期病院への転院を要することがあった.機能や生命の予後を考慮した入院リハビリテーション治療だけでなく,検査や合併症,後療法日数の管理などで急性期病院との連携や退院後支援を含めた包括的リハビリテーション医療体制の構築が望まれる.
著者
武原 格 一杉 正仁 渡邉 修 林 泰史 米本 恭三 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.247-252, 2016-03-18 (Released:2016-04-13)
参考文献数
14
被引用文献数
11 8

はじめに:脳損傷者の自動車運転再開に必要な高次脳機能の基準値の妥当性を検証するために実態調査を施行した.方法:2008年11月~2011年11月までに東京都リハビリテーション病院に入院し運転を再開した脳損傷者を基準値群,2011年12月~2012年11月まで同院に入院し運転を再開した脳損傷者を検証群とした.検証群の高次脳機能検査結果より暫定基準値の妥当性を検討した.結果:基準値群は29名,検証群は13名であった.検証群のうち高次脳機能検査結果がすべて基準値内である脳損傷者は9名(69.2%)であった.暫定基準値を下回った高次脳機能検査項目は,1名はMMSEおよびTMT-A,1名はWMS-Rの視覚性再生および視覚性記憶範囲逆順序,2名はWMS-Rの図形の記憶であった.結論:机上検査結果は運転再開可否の目安となるが絶対的基準とは言えず,症例ごとに運転再開の安全性について検討すべきである.
著者
下地 大輔 樋口 謙次 宇都宮 保典 細谷 龍男 安保 雅博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101003-48101003, 2013

【はじめに,目的】 これまで保存期慢性腎臓病(保存期CKD)患者は,腎保護の観点から日常生活活動や運動が制限されてきた.海外の先行研究では,保存期CKD患者では腎機能低下とともに運動耐用能の低下を生じ,同年代の健常成人に比べても運動耐用能が低下していると報告されている.近年では保存期CKD患者の疾病進行過程における心血管病(CVD)発症リスクとの関連も報告されており,今後は運動耐用能の低下や合併症などの予防に目を向ける必要がある.2009年に出されたCKDガイドラインでは,CKD患者における身体活動量の低下はCVDによる死亡のリスクに繋がるとしており,CKD患者における運動療法や身体活動量の重要性が示唆されている.しかし,本邦において保存期CKD患者の運動耐用能と腎機能,身体活動量との関係性を検討した報告は見られない.そこで,本研究では保存期CKD患者における運動耐用能を測定し,腎機能と身体活動量の面から検討することを目的とする.【方法】 対象は当院腎臓病・高血圧内科に外来通院している保存期CKD患者11名(男性3名、女性8名、年齢49.8±7.1歳、Body Mass Index23.1±4.5kg/m2、e-GFR:51.3±20.0 ml/min/1.73m2、CKDステージ2:4名,ステージ3:5名,ステージ4:2名である.既往に心筋梗塞や脳卒中などのCVD発症を有する患者と糖尿病を有する患者は除外した.運動耐用能の指標として,最高酸素摂取量(peakVO2)を用いた.peakVO2は自転車エルゴメーターを使用した心肺運動負荷試験を行い,ramp負荷(20watt/min)によるbreth by breth法にて算出した.身体活動量は国際標準化身体活動質問票ロングバージョン(IPAQ-LV)を用い,1週間の身体活動量を算出した.身体活動量の指標として,「健康推進のための運動指針2006(厚生労働省)」で推奨されている1週間の中等度(3METs)以上の活動時間により算出されるエクササイズを用い,身体活動量を構成する運動と生活活動それぞれに分類した. 統計解析として,peakVO2とe-GFR,身体活動量と生活活動,運動それぞれのエクササイズにPearsonの積率相関係数を用いて検証した.有意差判定基準は5%未満とし,統計解析にはSPSS Ver20.0を使用した.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当大学倫理委員会の承認を得て実施し,対象者に研究の目的と方法を説明し,同意を得て行った.【結果】 運動耐用能の指標であるpeakVO2は25.2±6.9ml/min/kg,身体活動量は15.1±15.0エクササイズ/週,身体活動量を構成する生活活動が6.2±5.2エクササイズ/週,運動は9.0±14.0エクササイズ/週であった.eakVO2とe-GFRの相関係数はr=0.35であり,peakVO2と身体活動量の相関係数はr=-0.55であった。身体活動量を構成する生活活動と運動のpeakVO2との相関係数はそれぞれr=-0.41,r=0.66(p<0.05)であった.【考察】 保存期CKD患者における運動耐容能に関する因子として,これまで腎機能の指標であるe-GFRとの関係性が報告されていたが,本研究の結果から,peakVO2と最も相関係数が高かったのは身体活動量を構成する運動のエクササイズであった.このことから,保存期CKD患者の運動耐用能を規定する因子は腎機能に加え,身体活動量の中でもレジャーやレクリエーション活動を伴う運動である傾向が示された.今回,IPAQ-LVにて日常生活の身体活動量を評価した対象者のうち,「健康推進のための運動指針2006」の中で推奨されたエクササイズレベルを越えていたのは11名中2名のみであった.身体活動量の低い保存期CKD患者では腎機能に関わらず運動耐用能が低下していると考えられ、今後は更に症例数を増やして検討していくことが必要である. 運動耐用能は生命予後にも関連する指標であり,今後は保存期CKD患者に対する早期からの運動療法や運動習慣の改善を目指した活動が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】 保存期CKD患者に対する運動耐用能低下の原因を検討することは理学療法領域における予防医学の拡大・発展に寄与すると考えられる.
著者
吉田 啓晃 木下 一雄 平野 和宏 中山 恭秀 角田 亘 安保 雅博 河合 良訓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3040, 2009

【目的】<BR>人工股関節全置換術症例は、下衣更衣動作や靴下着脱動作の獲得に難渋することが多い.その際、股関節屈曲・外転・外旋の複合的な可動域の拡大が求められる.臨床経験上、このような動作時に大転子後面の痛みを訴える場合があるが、我々が渉猟しえた範囲では、疼痛因子を検証した報告は見当たらない.今回、股関節の局所解剖を行い、股関節後面とくに股関節深層外旋筋の構造を観察した.股関節屈曲・外転・外旋運動において、外旋筋の一つである大腿方形筋の伸張が制限因子となりうるという興味深い知見を得たので報告する.<BR>【対象と方法】<BR>東京慈恵会医科大学解剖学講座の解剖実習用献体2体4肢(78歳男性、84歳女性)を対象とした.ホルマリン固定した遺体の表皮及び結合組織、脈管系、表層筋を除去し、深層外旋筋と呼ばれる梨状筋、上・下双子筋、大腿方形筋、内・外閉鎖筋筋と関節包を剖出した後、大腿骨は骨幹部1/2で切断した.遺体は観察側を上にして側臥位に固定し、股関節を他動的に屈曲、外転、外旋させた時の外旋筋群の伸張の程度を観察した.尚、肉眼で観察する限りでは4関節ともに股関節の変形は認められなかった.<BR>【結果】<BR>股関節中間位(解剖学的肢位)からの外旋に伴い深層外旋筋群はすべて弛緩した.一方、屈曲に伴い梨状筋及び大腿方形筋が伸張され、外転に伴い梨状筋、上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが大腿方形筋、外閉鎖筋は伸張された.複合的な運動では、屈曲位からの外転では梨状筋や上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが、大腿方形筋は伸張され、さらに外旋が加わると大腿方形筋は最大限に伸張され、筋線維が切れる程であった.とくに大腿方形筋を上下部の二等分した場合の下部の線維で顕著であった.<BR>【考察】<BR>骨盤と大腿骨の相対的な位置関係と筋の走行により、股関節に関する筋の作用や筋による関節運動制御は多様に変化する.解剖学書での筋の作用より、解剖学的肢位からの屈曲は梨状筋・内閉鎖筋・大腿方形筋が、また外転は大腿方形筋と外閉鎖筋が関節運動を制御すると考えられる.その中で屈曲・外転ともに制御するのは大腿方形筋であり、屈曲と外転の複合的な運動では大腿方形筋が伸張されたという今回の結果を裏付ける.さらに屈曲・外転位からの外旋では、外旋筋とされる大腿方形筋が伸張された.外転位からの外旋は、大転子後面を背側から尾側に向ける運動であり、大腿方形筋の停止部を遠ざけるため、とくに大腿方形筋の下部線維が伸張されたと考えられる.<BR>変形性股関節症による人工股関節全置換術症例では、手術の展開において大腿方形筋は温存されることが多いが、術中操作により過度のストレスがかかり、術後の関節運動時に大転子後面に痛みが生じることも予想される.今後は術中の様子も含めて、関節運動時の疼痛因子を検討する必要がある.
著者
藤田 吾郎 大髙 愛子 浦島 崇 中村 高良 中山 恭秀 小林 一成 安保 雅博
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11724, (Released:2020-05-21)
参考文献数
36

【目的】先天性心疾患術後遠隔期の学童期から青年期の患者と健常者の健康関連QOL(以下,HRQOL)を比較し,HRQOL と運動耐容能や身体活動状況との関係を検討する。【方法】対象は先天性心疾患患者22 例と健常者22 例。HRQOL,運動耐容能,身体活動水準,運動習慣を評価し,両群のHRQOL の比較と,各指標との関連を分析した。【結果】HRQOL 尺度のうち,先天性心疾患群の身体的幸福感(以下,PW)が有意に低かった(p <0.05)。先天性心疾患群において,PW と嫌気性代謝閾値の間に相関を認めたが(rs = 0.472,p <0.05),最高酸素摂取量にはなかった。また身体活動水準とPW の間には相関があり(rs = 0.504,p <0.05),運動習慣のある先天性心疾患患者は習慣がない患者に比べてPW が高かった(p < 0.05)。【結論】先天性心疾患患者のHRQOL は嫌気性代謝閾値レベルの運動耐容能や身体活動状況と関連がある。
著者
梅森 拓磨 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.201-207, 2019 (Released:2019-10-05)
参考文献数
18

目的:前方リーチ動作における下部体幹の運動は,姿勢制御のために肩関節屈曲運動に先行して,運動を行う反対側に体幹側屈運動が起こると言われている.一方で,運動を行なっていない側の鎖骨,肩甲骨からなる肩甲帯を含む上部体幹の動きについての報告は渉猟した限り認めない.今回,健常成人男性の前方リーチ動作ではリーチ動作を行なっていない側の肩甲帯がどのように動いているかを解析し,その結果をもとに,運動を行なっていない側の肩甲帯の動きについて,体幹運動の影響の違い,および利き手と非利き手による違いを姿勢制御の観点から検討することである. 方法:右利き健常男性6 名(年齢平均27.8 ± 2.5 歳)の前方リーチ動作時の非運動肢肩甲帯挙上角度を三次元動作解析装置にて測定した.各組み合わせ(利き手・近位条件,非利き手・近位条件,利き手・遠位条件,非利き手・遠位条件)について,フリードマン検定を用いて統計解析を行った. 結果:到達時では,非利き手・遠位条件群に,最大角度では利き手・遠位条件群にそれぞれ有意差を認めた. 考察:非運動肢肩甲帯を用いて姿勢評価定量的に行える可能性があること,また,損傷側や運動麻痺側が利き手か非利き手かによって,到達する上肢機能のレベルが異なることが示唆された.
著者
猪飼 哲夫 米本 恭三 宮野 佐年 小林 一成 福田 千晶 杉本 淳 安保 雅博
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.569-575, 1992-07-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
32
被引用文献数
10 9

脳卒中片麻痺患者にともなう肩関節亜脱臼の座位におけるX線学的評価を行い,経時的変化について検討した.骨頭下降率とAHI(肩峰骨頭間距離)比の間には有意の相関を認めた.胸椎部の側弯は亜脱臼群の約4割に認められ大多数は麻痺側凸を呈していたが,肩甲骨の下方回旋はわずか1例のみであった.肩関節痛とROM制限は亜脱臼群に多く,6ヵ月以上経過した症例に特に多く観察された.初診時にBrunnstrom stageがIII以上の症例に,また片麻痺の回復によりstageが上がってくる症例に亜脱臼が改善する傾向が認められた.亜脱臼が改善する症例が存在することは,早期の亜脱臼に対して,ポジショニングや筋促通の必要性が示唆された.
著者
五十嵐 祐介 平野 和宏 鈴木 壽彦 田中 真希 石川 明菜 姉崎 由佳 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100131, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は整形外科疾患において代表的な疾患であり、関節軟骨の変性や骨棘形成など様々な臨床症状を呈する。膝OAの増悪には多くの因子が関与しており、主に肥満や膝関節の安定性、膝関節屈曲及び伸展筋力、膝関節のアライメント、歩行時におけるlateral thrustなどとされている。一方、膝OAの進行予防に関する因子として、膝OA患者の歩行や階段昇降などの動作時に膝関節屈曲筋力と伸展筋力の比であるH/Q (ハムストリングス/大腿四頭筋)比を筋電図で検討した結果、各筋のバランスが膝OA進行予防に重要であるとの指摘がされている。しかし、膝OAの増悪因子と考えられるlateral thrustと膝関節屈曲筋力、伸展筋力のバランスを表すH/Q比との関連を検討した報告は見当たらない。そこで今回、当大学附属4病院にて共通で使用している人工膝関節全置換術患者に対する評価表から、術前評価のデータを使用し、後方視的にlateral thrustとH/Q比との関係を検討することとした。【方法】対象は2010年4月から2012年8月までに当大学附属4病院において膝OA患者で人工膝関節全置換術の術前評価を実施した199肢(男性:33肢、女性:166肢、平均年齢74.1±7.3歳)とした。測定下肢は手術予定側及び非手術予定側に関わらず膝OAの診断がされている下肢とした。筋力の測定はHand-Held Dynamomater (ANIMA社製μ-tas)を使用し、端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できるよう専用の測定台を作成し、ベルトにて下肢を測定台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうち最大値を下腿長にてトルク換算し体重で除した値を使用した。また、lateral thrustの有無は各担当理学療法士が歩行観察により評価した。統計学的処理はlateral thrust有群(以下LT有群)と無群(以下LT無群)の2群に分け屈曲筋力、伸展筋力、H/Q比をそれぞれ対応のないt検定にて比較した。【倫理的配慮】本研究は、当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】LT有群95肢(男性:22肢、女性:73肢、平均年齢74.1±7.4歳、平均伸展筋力99.9±42.2Nm/kg、平均屈曲筋力30.1±15.83Nm/kg、平均H/Q比0.34±0.23)、LT無群104肢(男性:11肢、女性:93肢、平均年齢74.5±6.5歳、平均伸展筋力95.5±47.9 Nm/kg、平均屈曲筋力35.4±21.5 Nm/kg、平均H/Q比0.44±0.38)となり、屈曲筋力とH/Q比において2群間に有意差を認めた(p<.05)。【考察】LT有群は、LT無群と比較し屈曲筋力及びH/Q比にて有意に低値を示した。lateral thrustに対し筋力の要因を検討したものでは、大腿四頭筋の最大筋力値が高いほどlateral thrustが出現しにくいという報告や、一方で大腿四頭筋の最大筋力値はlateral thrustの出現に関与しないという報告もあり、筋力の観点からは統一した見解は未だ示されていない。今回の結果にて有意差は認められなかったが伸展筋力ではLT有群の平均値がLT無群よりも高値であったことや、屈曲筋力にて有意差が認められたことは先行研究と同様の傾向を示すものはなく、lateral thrustを単一の筋力のみで検討するには難しいのではないかと考える。本研究でlateral thrustとH/Q比において有意差が認められたことより、各筋力の最大値以外にも比による筋力のバランスという観点も重要であり、lateral thrustが出現している膝OA患者に対するトレーニングとして、最大筋力のみでなく主動作筋と拮抗筋のバランスを考慮したアプローチも重要であると考える。今後はlateral thrustとH/Q比の関係を更に検討するために、歩行時における各筋の活動状態やlateral thrustの程度、立脚期における膝関節内反モーメントなどの評価にて考察を深めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、最大筋力でのH/Q比がlateral thrustの出現に関与する一因である可能性が示唆され、理学療法研究として意義のあることと考える。今後、更に考察を深めていくことでlateral thrust の制動に効果的なH/Q比の検討につなげていきたい。