著者
宮野 佐年
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.301-306, 1995-05-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1
著者
大熊 るり 藤島 一郎 武原 格 水口 文 小島 千枝子 柴本 勇 北條 京子 新居 素子 前田 広士 宮野 佐年
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.21-27, 1999-12-30 (Released:2019-06-06)
参考文献数
15

【目的】梨状窩の形状に個人差があることに注目し,誤嚥との関連について,内視鏡的嚥下検査(VE)および嚥下造影(VF)所見を用いて検討した.【対象・方法】1997年4月~98年3月の1年間にVFおよびVEを行った患者82名のうち,VFにて明らかな嚥下反射の遅延または造影剤の著明な梨状窩への残留を認めた31名(球麻痺14名,仮性球麻痺17名)を対象とした.内視鏡を経鼻的に挿入して梨状窩を観察し,録画したものを計測した.咽頭後壁正中部から梨状窩の外側端までの距離が最大となる距離を長径,長径と直交する形で梨状窩の内側縁と外側縁の間隔が最大となる距離を短径とし,短径/長径の値を求めた.この値が大きいほど梨状窩の幅が広いことを示し,小さいほど幅が狭いことを示す.【結果】披裂喉頭蓋皺襞の腫脹が著明な症例が6名あり,これらは最も梨状窩の幅が狭い症例とも考えられたが,計測困難なため比較の対象からは除外した.また梨状窩の形状に左右差が認められる症例が9名あった.短径/長径の値について,VF所見上の誤嚥あり群(14名)と誤嚥なし群(11名)とで比較した.左右差のある場合は値の大きい側を用いて比較すると,誤嚥あり群では平均0.296,なし群では0.370と,誤嚥なし群で有意に値が大きかった(p<0.05).すなわち,誤嚥のない症例は誤嚥のある症例と比べて梨状窩の幅が広いと考えられた.【考察】梨状窩の幅が広いと,嚥下反射の遅れや嚥下後の咽頭残留があっても,梨状窩に食塊が貯留できるスペースがあるため,気道への流入を防ぐのに有利と思われた.梨状窩の形状に個人差がある原因として,一つには生来の個体差が挙げられるが,咽喉頭粘膜,特に披裂部の腫脹が大きく影響していると思われた.内視鏡で梨状窩の形状を観察することは,誤嚥の危険性を予測する上で有用であると考えられた.
著者
西 将則 武原 格 猪飼 哲夫 宮野 佐年
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.243-248, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
9
被引用文献数
4 7

経鼻経管栄養チューブ(以下NGチューブ)が嚥下に与える影響について検討した.対象は健常成人15名.1)NGチューブなし,2)8 Fr NGチューブ留置,3)14 Fr NGチューブ留置,それぞれの状態でバリウム溶液5 ml,ゼラチンゼリーと寒天ゼリーを5 gずつ摂取し,嚥下造影検査(以下VF)にて各状態の嚥下動態を比較検討した.またNGチューブ留置による自覚症状をNumerical rating scaleにて評価した.NGチューブ留置によって全ての被検者が違和感および嚥下困難を訴えた.NGチューブの口径が大きくなるにつれゼリー摂取時の嚥下回数が増加した.NGチューブ周囲に食塊が残留する例や通過した食塊がチューブに沿って逆流する例も認めた.NGチューブの留置は嚥下に悪影響を及ぼし,口径の大きいものほどその影響が強いことが証明された.本研究は嚥下機能に問題のないものを対象に行ったが,嚥下障害患者においてはNGチューブの留置により誤嚥の危険性が高くなることが容易に推察され,経口摂取はNGチューブを抜去して行うことが望ましい.
著者
岡本 隆嗣 橋本 圭司 大橋 正洋 宮野 佐年
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.868-874, 2004-12-18
参考文献数
25

2000年5月から2003年11月までに,当院入院しリハビリテーションを行った蘇生後脳症患者14名(男性13名,女性1名,平均年齢45.3歳)の機能予後および問題点を,当院入院時データより検討した.発症から入院までの期間は264±294日であった.家族の介護負担感の観点から,発症より1.5~6.5年経過した2004年5月現在の監視の程度をSupervision Rating Scale (SRS)により評価し,自立~部分監視(SRS 1~7)であった6名を予後良好群,常時監視(SRS 8~13)が必要であった8名を予後不良群とした.診療録より後方視的に,Japan Coma Scale(以下JCS)3桁持続期間,脳画像所見でのびまん性脳萎縮の有無,神経心理学的検査,Functional Independence Measure (FIM),当院退院時の転帰,現在の社会参加状況,障害者手帳取得状況について検討を行った.2群間の比較で,JCS 3桁持続時間,びまん性脳萎縮の有無,Mini-Mental State Examination(以下MMSE),Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised(以下WAIS-R),FIM運動・認知でそれぞれ有意差を認めた.リハ病院入院時における,予後予測因子として,これらは有用であると考えられた.予後良好群では,退院後,社会復帰可能となった例が多く見られた.予後不良群では,入院中,神経心理学的検査を施行できない例がみられ,またFIM認知項目は入院中に有意な改善を認めなかった.また身体・認知の両方とも障害されている例が目立ち,退院時と1.5~6.5年経過時の監視程度はほとんど変わらず,手帳・介護保険でのサービスを多く利用していた.
著者
北地 雄 鈴木 淳志 原島 宏明 宮野 佐年
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.1023-1026, 2014 (Released:2015-01-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1

〔目的〕集中的なリハビリテーションが行われる回復期病棟入院時の脳卒中者に対し,リハビリテーションに対するモチベーションを調査し,その関連因子を抽出することによって,より円滑で効果的なリハを提供する一助を得ること.〔対象〕脳卒中者23名.〔方法〕モチベーションはリハビリテーションに対する期待度を聴取することで評価し,それと身体機能面,心理・精神的側面,社会的側面およびQOLとの関連を相関分析と回帰分析を用い調査した.〔結果〕モチベーションは日常生活動作能力や自立度,良好なコミュニケーション能力や気分,およびバイタリティと関連し,特に日常生活自立度と気分が重要であった(R2=0.524).〔結語〕日常生活自立度の向上,良好なコミュニケーション,および心理的ケアがモチベーションを向上させる可能性が示唆された.
著者
渡辺 修 米本 恭三 宮野 佐年 小林 一成 河井 宏之 大熊 るり
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.48-52, 1998-01-18
被引用文献数
2

We report a case of cerebral contusion in a patient with ventricle peritoneal shunt(VP shunt) caused by a simple fall. Described is a 50-year-old man admitted with left thalamic hemorrhage with resultant severe consciousness disturbance and right hemiparesis. Although his general condition and consciousness were improved after conservative treatments, two weeks later decrcased mental status and anisocoria were noted. Head computed tomography(CT) scan revealed hydrocephalus which needed VP shunt following emergent ventricular shunting. After that, intensive rehabilitation programs were started. Independent ambulation was not achieved, however he was enable to transfer with minimal assistance. CT scan showed that the size of ventricular system was extremely reduced, which is so called "slit like ventricle." During transfer from his bed to the chair he fell and his head hit the bed. Immediately after that, he fell into deep coma state. CT scan showed left subdural hematoma, contusion and diffuse brain swelling. Overdrainage is a rare complication in VP shunt, however it caused a catastrophic event followed by traumatic brain injury.
著者
岡本 隆嗣 橋本 圭司 大橋 正洋 中地 照子 石井 明美 宮野 佐年
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.678-685, 2004-10-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 6

当院で入院の多数を占める脊髄損傷,脳外傷,変形性股関節症患者のHRQOLおよび費用対効果を,EuroQOLを用い調査した.対象は2003年7月~12月に30日以上入院し,質問が理解可能で,重度の合併症がない111名である.調査内容は(1)入退院時FIM,(2)入退院時EuroQOL,(1)5項目法(5 Dimension,以下5D),(2)視覚評価法(Visual Analogue Scale,以下VAS),(3)5Dで問題がある人の割合,(3)費用効用分析,とした.結果は,脳外傷・脊髄損傷はFIMが有意に改善し,5D・VASは,3疾患とも有意に改善した.5D各項目では,脳外傷・脊髄損傷は各項目とも全体的に問題を感じている人の割合が減少し,変形性股関節症では,特に痛み・不安の項目で減少がみられた.診療報酬より算出した入院中の医療費は,脳外傷146.2±50.4万円,脊髄損傷182.2±79.0万円,変形性股関節症138.9±40.7(手術料含むと285.6±71.1)万円であった.患者の状態が退院後も変化しないと仮定した場合の1質調整生存年(Quality adjusted Life Year;QALY)獲得のための医療費は,脳外傷43.1±12.4万円,脊髄損傷42.5±55.1万円,変形性股関節症47.8±48.7(手術料含むと93.2±84.7万円)であった.本調査で,リハビリテーション前後での効用値の有意な増加を確認することができ,3群とも費用効果ありと考えられた.
著者
川井 謙太朗 中山 恭秀 吉田 啓晃 宮野 佐年
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0799, 2006

【目的】肩甲胸郭関節は肩関節において、最も中枢部に位置する重要な関節である。腱板機能の重要性は知られているが、腱板が機能するためには基盤となる肩甲胸郭関節の安定性が重要である。また、肩甲胸郭関節は安定化機構に加えて、上肢運動連鎖として機能する重要な関節である。肩甲上腕関節に関与する主要筋力と握力との関連性については、廣瀬らにより報告されているが、肩甲胸郭関節に関与する筋群(前鋸筋・菱形筋・僧帽筋など)との関連性については、一切報告なされていない。そこで、Hand-held Dynamometer(以下HHD)を使用し、肩甲胸郭関節に主に関与する筋群を計測し、握力との関連性を検討することを目的とした。尚、事前に検者内信頼性に優れた検査であることを確認した。<BR>【方法】当大学倫理委員会の承諾を得て、十分に研究の目的を説明した後、実験に対し同意を得た教職員を対象とした。健常女性20歳代~60歳代の各年代20名ずつ、計100名(200肩)、利き手が右手の人とした。測定項目はMMTに基づき、肩甲骨外転と上方回旋、肩甲骨内転、肩甲骨下制と内転、肩甲骨内転と下方回旋の4動作とした。抵抗を加える部位、HHDの測定パットの位置は、MMTの段階5の徒手抵抗位置と同様とし、break testとした。握力は、握力計(松宮医科精器製作所HAND DYNAMO METER KIRO)を使用し、足幅を肩幅に開いた立位、体側垂下式にて測定した。尚、左右各々3回の平均値を採用した。<BR>【結果】握力と肩甲胸郭関節に主に関与する筋力との相関関係をPearsonの積率相関係数(p<0.001)にて求めた結果、全ての動作において、握力と正の相関が認められた。肩甲骨外転と上方回旋(右:r=0.63 左:r=0.61)、肩甲骨内転(右:r=0.38左:r=0.36)、肩甲骨下制と内転(右:r=0.33 左:r=0.31)、肩甲骨内転と下方回旋(右:r=0.35 左:r=0.39)。肩甲骨外転と上方回旋に関しては、握力と有意な正の相関が認められた。<BR>【考察】本研究では、握力と全ての筋力との間に正の相関が認められたことより、握力から肩甲胸郭関節に主に関与する筋力が予測できることが確認された。また、肩甲骨外転と上方回旋筋群のみに有意な正の相関が認められた。廣瀬らは、握力と肩甲上腕関節に関与する主要筋力との関係を調べ、肩関節屈筋群のみに有意な相関が認められたと報告している。肩関節屈曲時の計測において肩甲胸郭関節は、前鋸筋の作用により肩甲骨を胸郭に固定させ安定性を高めている。勿論、僧帽筋・菱形筋などの筋群も安定性向上のため機能しているが、前鋸筋に比べると弱い。つまり、廣瀬らの計測した肩関節屈筋群と、本研究の肩甲骨外転と上方回旋筋群(前鋸筋など)は同様の動作で測定するため、類似した結果が得られたと考える。
著者
宮野 佐年
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.235-240, 1988-03-10

はじめに 立つことにより両上肢が自由に使えるようになって,人間が現在のように進歩したといっても過言ではない.しかし,一旦,下肢に障害をきたし,歩けなくなってしまうと,上肢を犠牲にしてもなんとか歩きたいという願いがつよくなる. 歩行を補助するものとして,杖,松葉杖,歩行器などがあるが,これらは,いずれも上肢で操作しなければならず,歩行するためには,上肢の自由を失ってしまう. しかし,上肢の自由を犠牲にしても,立って歩くことは移動能力を高め,本人のQOLを向上させるために,非常に執着を持つことは自然の理であろう.杖の起源は不明であるが,有史以前にすでに,闘いや,食物を取るための棒が疲れたときの身体の支えや下肢の怪我や痛みのあるときに歩行の補助具として使われていたと考えられる.歴史的には,BC2830年に上端が二またに分かれた木片に寄り掛かっている人の絵が見られたものが最初である. 古代エジプトでは,権力の象徴として,杖を使っていたことが,古墳からうかがうことができる.中世において,羊飼いや巡礼者は長い杖を持って歩き,身体の支えや武器として使った.また,フランスの貴婦人が杖を愛用したのは11世紀頃であったが,18世紀には,紳士が杖を使うようになり,特に医師のシンボルに近いものにまでなった.今回は,歩行の補助具としての杖・松葉杖を中心に述べる.
著者
北地 雄 鈴木 淳志 原島 宏明 宮野 佐年
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.995-1000, 2014 (Released:2015-01-21)
参考文献数
40
被引用文献数
1

〔目的〕リハビリテーションの阻害因子である脳卒中後の抑うつとアパシーに関連する因子を抽出し,より円滑で効果的なリハを提供する一助を得ること.〔対象〕亜急性期脳卒中者23名.〔方法〕抑うつとアパシーをそれぞれCES-Dとやる気スコアを用い評価した.身体機能面,心理・精神的側面,社会的側面,およびQOLとの関連は相関分析と回帰分析を用いた.〔結果〕抑うつ症状,アパシーともに約35%に認められた.どちらも心理・精神的側面およびQOLと関連した一方で,アパシーのみが身体機能面,社会的側面と関連した.回帰分析から,抑うつには心理・精神的側面,アパシーには年齢が強く影響することが示された.〔結語〕高齢であり,心理・精神的変調が示唆される脳卒中者のリハの進行には,特に配慮を要することが示唆された.
著者
北地 雄 原島 宏明 宮野 佐年
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.95-99, 2013 (Released:2013-04-11)
参考文献数
15
被引用文献数
1

〔目的〕Functional Balance Scale(以下,FBS)の構成要素を明らかにすること.〔対象〕脳血管疾患後の片麻痺者59名.〔方法〕FBSの評価値に対して因子分析をおこない,分類された因子ごとにその妥当性を検討した.〔結果〕FBSは動的バランス,静的バランス,および粗大下肢筋力に分類され,これらの構成要素には身体機能や動作能力との関連性が認められた.〔結語〕FBSの従来の有用性を保ちつつ,今回の分類を用いることで,さらに詳細な評価が可能となることが示唆される.
著者
猪飼 哲夫 米本 恭三 宮野 佐年 小林 一成 福田 千晶 杉本 淳 安保 雅博
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.569-575, 1992-07-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
32
被引用文献数
10 9

脳卒中片麻痺患者にともなう肩関節亜脱臼の座位におけるX線学的評価を行い,経時的変化について検討した.骨頭下降率とAHI(肩峰骨頭間距離)比の間には有意の相関を認めた.胸椎部の側弯は亜脱臼群の約4割に認められ大多数は麻痺側凸を呈していたが,肩甲骨の下方回旋はわずか1例のみであった.肩関節痛とROM制限は亜脱臼群に多く,6ヵ月以上経過した症例に特に多く観察された.初診時にBrunnstrom stageがIII以上の症例に,また片麻痺の回復によりstageが上がってくる症例に亜脱臼が改善する傾向が認められた.亜脱臼が改善する症例が存在することは,早期の亜脱臼に対して,ポジショニングや筋促通の必要性が示唆された.
著者
木下 一雄 中村 高良 中村 香織 佐藤 信一 安保 雅博 宮野 佐年
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0734, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】臨床で膝立ち位は股関節周囲筋の訓練に多用されている。しかし、我々が渉猟した限り先行研究ではその有効性を報告したものはない。今回、我々は膝立ち位の筋活動の特性を明確にし、股関節周囲筋の有効な訓練方法を見出すため、安静膝立ち位における体幹筋と大殿筋との筋活動の関係に着目し研究を行った。尚、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【方法】対象は下肢、体幹に既往のない健常者30名(男性12名、女性18名、平均年齢23.73±2.63歳)。測定姿勢は安楽な膝立ち位で両足部間を肩幅・両上肢下垂位・足関節底屈位・股関節回旋中間位とした。測定中は前方の目標点を注視し、20秒間の保持を指示した。被検筋は、脊柱起立筋、腹直筋、大殿筋、中殿筋、大腿直筋、半腱様筋とし、日本光電社製の筋電図機器を使用し、sampling周波数1kHzにて筋積分値を求め、安定した3秒間の3標本を抽出し平均値を算出した。その上で各筋5秒間の最大随意収縮時の筋電図を2回測定し、各回の中心3秒間を抽出し平均を求め、膝立ち位の各筋の相対的IEMG(%IEMG)を算出した。比較検討は脊柱起立筋と腹直筋の%IEMGの比率(脊柱起立筋%IEMG/腹直筋%IEMG)を体幹筋活動比とし以下の3群に任意に分類して行った。体幹筋活動比が0~1未満の比較的に腹直筋の筋活動が優位な群(N=14以下;腹筋・協調群)、体幹筋活動比が1~2.2未満の比較的に脊柱起立筋の筋活動が優位な群(N=9以下;背筋・協調群)、体幹筋活動比が2.2以上で脊柱起立筋の筋活動が特に優位な群(N=7以下;背筋・優位群)とし、3群間の大殿筋の%IEMGを比較した。統計処理は一元配置分散分析を用いた。【結果及び考察】3群間において腹筋・協調群、背筋・優位群、背筋・協調群の順で大殿筋の%IEMGは高い傾向を示した。脊柱起立筋、大殿筋は身体重心の前方制動をする。腹筋・協調群は脊柱起立筋の筋活動を抑えることで同じ前方制動筋の大殿筋の活動が高まったと考える。一方、筋活動様式から背筋・優位群は脊柱起立筋の過度な筋活動で体幹を制御し、背筋・協調群は体幹筋の同時収縮で体幹を固定しているため、大殿筋の筋活動が減じたと考える。したがって、主に腹直筋を働かせた体幹の姿勢制御を誘導することが大殿筋の筋活動有効であると示唆されるが、身体重心を後方化し過度に腹直筋を働かせ姿勢固定する場合もあり、姿勢と重心位置の評価を含めて筋活動の特性を検討が必要である。【まとめ】安静膝立ち位の体幹筋活動比と大殿筋の筋活動の関係を検討した。腹筋・協調群において大殿筋の筋活動が高い傾向を示した。よって、大殿筋の筋活動を高めるには主に腹直筋を働かせた体幹筋の協調性を誘導することが有効であると示唆された。今後、姿勢と重心位置の評価を加えた測定方法の再検討が課題である。
著者
冨田 祐司 宮野 佐年 渡辺 修 大橋 正洋 片桐 伯真 久保 義郎
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.9, pp.593-598, 1999-09-18 (Released:2009-09-04)
参考文献数
21
被引用文献数
3 4

脳外傷患者の社会復帰を検討する際の指標としてのWAIS-Rの有用性について検討した.対象は, 55歳以下, 実用的な屋外歩行が可能で, 失語症がない重症脳外傷患者60例である.社会復帰状況を, 就労群と福祉的就労を含む非就労群に分け, 各知能指数と11の下位検査について検討した.就労群で言語性知能指数 (VIQ) 90.4±14.6, 動作性知能指数 (PIQ) 80.5±14.2, 非就労群でVIQ82.3±14.2, PIQ62.3±13.0で, 非就労群のPIQの低下が顕著であった.判別分析を行うと, PIQとその下位検査の絵画配列と符号が両群の判別に有用であった.これらは社会的能力をよく反映し, 重症脳外傷患者の社会復帰を知的側面から検討する場合, 有用な指標になる.
著者
猪飼 哲夫 辰濃 尚 宮野 佐年
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.828-833, 2006 (Released:2006-12-29)
参考文献数
15
被引用文献数
20 27

バランス機能は歩行能力に影響する因子の一つと考えられる.そこで歩行能力の代表的な評価法である最大歩行速度 (Maximum Walking Speed: MWS) と各種バランス検査を,若年者群と高齢者群で検討した.身長は若年者群ではMWS, Functional reach (FR),タンデム肢位での重心動揺,Timed Up and Go test (TUG) と相関したが,高齢者群では関係は認められなかった.若年者群ではMWSは,タンデム肢位外周面積,TUGと相関したが,これは身長の影響によると考えられた.高齢者群ではMWSは,FR,タンデム肢位総軌跡長,TUGと相関した.高齢者では歩行能力は静的・動的両者のバランス機能に影響されることが示唆された.
著者
大澤 智恵子 網本 和 佐藤 信一 安保 雅博 宮野 佐年
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.D0524-D0524, 2004

【目的】近年、高齢者においても食道癌根治術の適応とされる傾向がある。高齢者は呼吸機能の低下から術後肺合併症の発生率が高いと報告され、術前の呼吸理学療法は重要とされている。また、合併症の発生により術後在院日数は長期化するとの見解が一般的である。今回、術後肺合併症と術後在院日数に影響を与える要因を呼吸機能、術前理学療法の観点より分析、高齢群と若年群とで比較し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】1998年から2003年に当院で食道癌根治術を行い術前または術後から理学療法を開始した101名を高齢群(65歳以上)と若年群(64歳未満)とに分類した。さらに呼吸機能の影響を明確にするため、双方より術後肺合併症への影響が強いとの報告が多い要因である腫瘍進行度(stage)、術前アルブミン、術式(開胸・開腹・内視鏡の有無・再建経路)が同じであるペアを29組作成、それぞれ高齢群29名(男性25名、女性4名、平均年齢70.6±5.1歳)と、若年群29名(男性26名、女性3名、平均年齢56.9±4.7歳)を対象とした。高齢群と若年群において(1)%VC(2)一秒率(3)PF(4)V50/V25(5)術前理学療法を肺合併症へ影響を与える要因として、同様に(1)肺合併症(2)既往(3)術前理学療法の実施を術後在院日数へ影響を与える要因として選択した。これらよりSPSSを使用してロジスティック回帰分析を行い、各々に有意に影響を与える要因の抽出を、危険率5%の有意水準にて行った。<BR>【結果】術後肺合併症に有意に影響を与える要因として、若年群では%VC(odds比0.881)が抽出されたが、高齢群では抽出されなかった。また、術後在院日数においては若年群では術前理学療法(odds比18.597)が抽出されたが高齢群では有意な要因は抽出されなかった。<BR>【考察】若年群において肺合併症へ影響を与える要因として%VCが抽出された。これは手術時の全身麻酔により残気量が減少して無気肺が発生するが、肺活量の予備能力が大きい場合には、それを代償する能力が強く、肺合併症予防に有効であるためと考えられる。また、同じく若年群において術後在院日数へ影響を与える要因として術前理学療法が抽出されたが、術前理学療法でのオリエンテーションや退院への目的意識の形成、肺合併症からの回復に術前理学療法が有用であることが示唆された。一方、高齢群において肺合併症や術後在院日数に影響を与える要因が抽出されなかった理由として、高齢者は加齢に伴う各臓器の機能・予備能力の低下や暦年齢と身体年齢の乖離、個人差の顕性化よりわずかな負荷でも合併症のトリガーとなる可能性が高いことが考えられる。従って、高齢者は肺合併症や術後在院日数への影響要因が多様で偏りがなく、若年者と比較して術後経過の予測が困難であることが示唆された。
著者
瀬田 拓 稲田 晴生 安保 雅博 杉本 淳 宮野 佐年
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.307-312, 2004-05-18
被引用文献数
1 1

健常成人109人の嚥下造影(40%バリウム5ml嚥下を1対象者につき3回,合計327回)を施行した.正面像を検討し上部食道の造形パターン分類を試みた.造影パターンは梨状窩通過直下での左右差より左(右)梨状窩のみ通過,左(右)梨状窩優位通過,両側梨状窩通過に大分類した.さらに上部食道内で左右に分かれて流れる造影剤の合流の有無から細分化し,合計13種類の造影パターンを定義した.両側梨状窩通過のパターンに分類された対象者が60%で,40%は左右差のあるパターンに分類された.左右差がある場合には,左優位の造形パターンに分類されることが多かった.左右差の生じる理由は,下咽頭への流入量差による感覚入力の左右差が,下咽頭収縮圧や食道入口部開口状態の左右差に影響を与えている可能性や,正中線よりやや左よりを走行する上部食道の解剖学的位置などが考えられたが,さらなる解剖学的・機能的な理由を踏まえた検討が必要である.
著者
宮野 佐年 安保 雅博 武原 格 殷 祥洙
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本での脳卒中後遺症者141名(平均年齢67.2±9.4才)、男性98名・女性43名、出血64名・梗塞77名で、在宅生活を送っている患者の下肢運動麻痺(Brunnstrom stage、以下Br. st.)・歩行距離(m)・床からの立ち上がり動作・浴槽への移乗の可否・トイレや浴槽の手すりの設置の有無・正座の可否・ベッドの使用を調査した。その結果、下肢Br. st.と歩行距離は比較的よく相関したが、下肢Br. st.が3,4でも500m以上歩行可能な患者も多くみられた。床からの立ち上がり動作は、歩行距離とBr. st.共に相関は見られたが、浴槽の出入りは歩行距離と相関は見られたがBr. st.との相関は見られなかった。トイレや浴槽の手すりの設置の有無と、歩行距離・Br. st.はどちらも相関は見られなかった。また正座や和式トイレの使用は殆ど全ての患者はできなかった。本題の国際比較は、韓国ソウル在宅の脳卒中患者52名と、目本の在宅脳卒中患者で、Br. st.と歩行距離をマッチさせた患者で国際比較を行ったと。対象患者は日本66名・韓国50名で、Br. st.日本3.8・韓国3.3。その結果、両国共にBr. st.と歩行距離は相関し、床からの立ち上がり動作もBr. st.や歩行距離と相関した。日韓の比較では、風呂やトイレに手すりをつける率は、韓国では20%・日本では85%であり、床からの立ち上がり動作、日本では54%・韓国では37%が可能で、正座は、日本では5%・韓国では70%が可能となっていた。また同居人数3人以上が、韓国では32%・日本では14%と違いが見られた。日本では脳卒中片麻痺に対して、家屋改造により介護力軽減を図るのに対し、韓国では人的介護に頼る傾向が見られた。正座は韓国の特有の坐り方で日本の正座とは異なっており、日韓でも床上の生活様式の違いが示唆された。要旨を第3回国際リハ医学会(2006.4)に発表した。