著者
赤星 亮一 大熊 広一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.135-141, 1985 (Released:2008-11-21)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

市販の熟成ブランデーおよび熟成ウィスキーの蒸気圧,その平衡蒸気成分を測定し,熟成現象とこれらの関係について明らかにした. (1) 長年月貯蔵熟成した蒸留酒のエタノール蒸気分圧および気相エタノール濃度は,同濃度のエタノール水溶液より低く,貯蔵期間に比例して低下してゆく. (2) 蒸留酒のエタノール蒸気分圧,気相エタノール濃度に影響を与える微量成分として考えられる酢酸エチル,アセトアルデヒド,イソブタノール,イソアミルアルコール,酢酸,メタノール,樽材浸出物について,その影響を明らかにした. (3) 熟成蒸留酒では,上記微量成分の影響以上にエタノール蒸気分圧および気相エタノール濃度が低下していることが判明した. (4) 熟成蒸留酒におけるエタノール蒸気分圧,気相エタノール濃度の低下は,液相中でエタノール分子が強く束縛されていることを示している.熟成した蒸留酒では,エタノール分子と水分子が水素結合により会合し,安定なクラスターが生成していると考えられる. (5) 長期間貯蔵した蒸留酒のエタノール蒸気分圧,気相エタノール濃度の減少は,熟成によってエタノール特有の刺激が減少する香味の円熟をよく説明している.
著者
赤星 亮一 大熊 広一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-9, 1985 (Released:2008-11-21)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

DSCを用いてエタノール水溶液および長年月熟成のウィスキー,ブランデー,エタノール水溶液の熱分析を行い,蒸留酒の熱的挙動と熟成の関係について研究を行った. (1) 熟成蒸留酒,エタノール水溶液いずれも,その融解サーモグラム上に2つの吸熱ピーク1, 2と1つの発熱ピーク3が観測された. (2) 熟成蒸留酒の各ピークの出現温度は,同エタノール濃度のエタノール水溶液と同じで貯蔵期間による差異は認められなかった.一方,各ピークの面積から算出した融解熱については,ピーク2およびピーク3に大きな差異が認められ,熟成蒸留酒では著しく減少していることが認められた.熟成蒸留酒におけるピーク2の減少は貯蔵期間に比例していた. (3) 蒸留酒中の主要微量成分である酸,エステル,アルデヒド,フーゼル油,樽材浸出物等が融解サーモグラムに与える影響について検討を行った.エステル,アルデヒド,フーゼル油の場合,いずれも含有される濃度範囲においては,その影響はほとんど認められなかった.酸および樽材浸出物はピーク2の融解熱を減少させるが,熟成に伴う熱量値の減少は,これらの影響よりもはるかに大きいものであった. (4) これらの実験結果は,熟成蒸留酒中ではエタノール分子が強く束縛されていることを示しており,熟成した蒸留酒やエタノール水溶液が固体に近い凝集状態に移行し,安定な液体構造が形成されていると考えられる.熟成によってエタノール特有の刺激が減少する蒸留酒の香味の円熟をよく説明しているものといえる.
著者
赤星 亮一 大熊 広一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.357-365, 1984 (Released:2008-11-21)
参考文献数
21
被引用文献数
9 9

(1) 34°Cにおける水,エタノール,エタノール水溶液および蒸留酒のNMRスペクトルの化学シフトについて測定を行った.純エタノールは4.075ppm,純水は3.528ppmであり,エタノール水溶液および熟成蒸留酒のOH基プロトンのNMRスペクトルは,いずれも水の化学シフト位置の近傍に出現する.これは,エタノール水溶液や蒸留酒は,その水素結合の状態がきわめて水に類似した液体構造を持つものと考え,られる. (2)エタノール水溶液や蒸留酒中に微量の酸が存在すると, OH基プロトンのNMRスペクトルは,酸を含まないものに比べて約0.01~0.05ppm低磁場にシフトする. 0.01~0.18%の濃度範囲では酢酸の濃度が変っても,シフトの位置は変らず固定されている. (3)熟成蒸留酒には必ず微量の酸が存在するので,貯蔵年数の異なる試料のNMRスペクトルは,酸の存在によって決まる一定のシフト位置に出現し,熟成に伴う差異をみることができなかった. (4)蒸留酒のOH基プロトンスペクトルの半値幅は貯蔵年数とともに増大し, 10年当り約0.5 Hz増大する.半値幅の増大はプロトン交換速度の減少および単量体の減少を示すもので,熟成に伴う誘電率や気相エタノール濃度減少の事実とよい一致を示している.これは,長い年月貯蔵熟成された蒸留酒中ではエタノール分子が強く束縛されていることを示すもので,その香味円熟と深く関連している. (5)蒸留酒中に存在する酸,エステル,アルデヒド,フーゼル油,樽材浸出物等の微量成分がOH基プロトンのNMRスペクトルの半値幅に与える影響について検討を行った.エステル,アルデヒド,フーゼル油の場合,存在する濃度範囲においては,ほとんど影響がなく無視することができる.酸が存在すると水素交換のためNMRスペクトルはシャープとなり半値幅を著しく減少させる.樽材浸出物は若干半値幅を増大させるが,熟成に伴う半値幅の増大に比べればわずかである.
著者
堀家 静子 大熊 広一 赤星 亮一
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1203-1210, 1984
被引用文献数
1 1

水,酢酸,酢酸水溶液および酸度16%熟成ホワイトビネガーの融解温度,融解熱をDSCを用いて測定し,凝固,融解に伴うサーモグラムを調べ,その熟成による変化をにつしいて研究を行った.<br> (1)貯蔵熟成した食酢を凍結して生じる氷および共融混合物の融解温度は,同酸度の酢酸水溶液とほぼ同一で貯蔵期間による差異は認められなかった.<br> (2) 6年間および12年間貯蔵熟成した食酢から生じた氷の融解熱は,同酸度の酢酸水溶液と比較すると,それぞれ0.3, 0.4cal/g低い.しかしながら,貯蔵期間による差異は僅少である.一方,共融混合物の融解熱は酢酸水溶液に比べ,それぞれ4.4, 5.8cal/g低い値を示し,熟成に伴う変化が顕著である.<br> (3)食酢中の主要微量成分であるエタノール,酢酸エチル,糖の酢酸水溶液の融解熱に与える影響について検討を行った. a.氷の融解熱に対してはエタノール,酢酸エチルおよび糖のいずれも,含有される濃度範囲においては,ほとんど影響が認められない. b.共融混合物の融解熱に対しても酢酸エチル,糖のいずれも影響を無視することができる. c.エタノールは共融混合物の融解熱に対して大きな影響を及ぼし,融解熱が減少するのでエタノール含有量と融解熱量の関係を実験によって求めた.<br> (4)食酢の熟成に伴う共融混合物の融解熱の減少は,エタノールによる影響よりもはるかに大きく,貯蔵年数に比例している.<br> (5)酢酸水溶液および熟成食酢の凝固融解に伴うサーモグラムから相変化に伴う水分子と酢酸分子間の水素結合の挙動について研究を行い,熱エネギーの収支を明らかにした.<br> (6)共融点の組成を持つ酢酸水溶液(酸度59%)から生じる共融混合物の融解熱は,他の組成の酢酸水溶液から生じる共融混合物の融解熱に比べて最小である.<br> (7)熟成した食酢から生ずる共触混合物の融解熱は,引卸し直後の食酢に比べてはるかに小さい.これは熟成食酢が低いエネルギー状態にある安定なクラスターを形成しているためと考えられる.