- 著者
-
大田 正弘
- 出版者
- 日本化粧品技術者会
- 雑誌
- 日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.3, pp.171-180, 2019-09-20 (Released:2019-09-20)
- 参考文献数
- 12
人生100年時代において人生の年輪ともいえるシワが,美容的な観点からこれまで以上に肌悩みの中心的関心として高まるのは必至である。本総説ではシワに対して化粧品(医薬部外品)が貢献できる役割を説明するにあたり,シワを目立たなくする粉体製剤技術から,細胞レベルで有効成分が作用しシワを改善する有効性について述べる。ファンデーション(FD)は粉体製剤技術を基に毛穴などの浅い凹凸の形状補正に対しては十分機能した製剤が得られている。しかしながらシワなどの深い凹凸に対する形状補正についてはソリューションが与えられているとは言いがたい。そこでわれわれはモンテカルロ法をベースとした光学シミュレーションにより,通常のFDの塗布ではなぜシワを目立たなくすることができないのかを解明し,さらに形態補正機能によりシワを目立たなくする製剤を実現した。2016年に抗シワガイドラインに則った有効性により,医薬部外品で「シワを改善する」訴求が初めて認められた。それまで日本国内におけるシワに対する訴求は乏しく,海外での積極的な訴求と比べて非常に出遅れている状況であった。ようやくグローバルレベルでハーモナイゼーションに沿った訴求に近づいた。われわれはレチノール(RO)によるシワ改善有効性試験を実施した。ランダム化二重遮蔽左右対比較試験のもと,RO配合製剤とプラセボ製剤(RO抜去)をおのおのハーフフェイスで左右の目尻を中心とした目周りに9週間連用した。視感判定と機器評価(レプリカ解析)の両方においてRO配合製剤塗布側はプラセボ製剤塗布側に比べて有意にシワを減少させた。抗シワガイドラインに則って,レチノールによりシワを改善する有効性が認められた。長年にわたる承認審査を経て,2017年にレチノールはシワを改善する医薬部外品・有効成分として承認された。正常ヒト表皮角化細胞を用いた実験から,ROはヒアルロン酸合成酵素HAS3の遺伝子発現を亢進し,ヒアルロン酸を有意に産生させた。このようなヒアルロン酸の産生促進作用は皮膚水分量を顕著に増加させ,その結果皮膚に柔軟性を与えることによりシワを改善すると考えられた。