著者
渡邉 貴之 小西 一之 野口 浩正 大福 浩輝 岡田 啓司
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.7-12, 2012-06-30 (Released:2013-05-17)
参考文献数
16
被引用文献数
4 1

黒毛和種経産牛の栄養状態と胚移植受胎率の関連性について調査した.試験はⅠ期とⅡ期に分けて実施した.泌乳していない黒毛和種経産牛を,Ⅰ期は61頭,Ⅱ期は29頭供試した.移植胚は新鮮1胚または凍結1胚とした.粗飼料は全て収穫時に飼料分析を行った自家産数種の乾草または低水分サイレージのうち2種類をTMRミキサーで混合して給与した.飼料設計は,Ⅰ期は可消化養分総量(TDN)130%,乾物摂取量(DMI)100%以上とし,可消化粗蛋白質(DCP)は考慮しなかった.Ⅱ期はⅠ期の代謝プロファイルテスト(MPT)結果を考慮して,これら粗飼料に圧片トウモロコシを加えTDN 120%,DCP 200%未満,DMI 100%以上とした.両期とも胚移植開始2カ月前から体重が維持できるよう混合粗飼料の給与量を調整した.Ⅰ期は20頭,Ⅱ期は10頭を無作為に抽出し,MPTを胚移植開始1カ月後に実施した. TDNの充足率はⅠ期がⅡ期よりも有意に高かった(137% 対113% , p<0.01)が,MPTを取り入れ高タンパク状態を改善したⅡ期のDCP充足率はⅠ期に比べ有意に減少した(310%対147% , p<0.01).DMI充足率は114%と107%で差は認められなかった.給与した飼料の平均デンプン(NFC)含量はⅠ期が7.9%,Ⅱ期が17.6%とⅡ期が有意に高かった.Ⅱ期はⅠ期に比べ血中遊離脂肪酸,β-ヒドロキシ酪酸が有意に低かった(p<0.05,p<0.01)ことから,低NFCに起因するル-メンの発酵不足によるエネルギー不足が改善されたことが考えられた.また,血液尿素窒素もⅡ期がⅠ期に比べ有意に低かった(p<0.01)ことから,Ⅱ期では,Ⅰ期においてみられたルーメン発酵不足と高タンパク飼料によるル-メン内の利用しきれないアンモニアの発生が抑えられたと考えられた.胚移植受胎率はⅠ期37.7%(23/61),Ⅱ期は65.5%(19/29)とⅡ期が有意に高く改善された(p<0.05).以上のことから,黒毛和種受胚牛の受胎率はDCPの過剰摂取やDCPとNFCのアンバランスな場合に低下すること,MPTを基にした飼料設計で改善することが認められた.また,イネ科牧草の飽食給与は,著しい蛋白過剰をもたらす可能性があることが明らかになった.