著者
渡邉 貴之 田中 佑一 野口 浩正 小西 一之
出版者
肉用牛研究会
雑誌
肉用牛研究会報 (ISSN:03868419)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.9-15, 2008-06-20
被引用文献数
5

野草地及び人工草地へ放牧した黒毛和種繁殖雌牛の栄養状態を、放牧地の植生、草の養分充足率(可消化養分総量(TDN)、粗蛋白質(CP)、可消化粗タンパク質(DCP)、乾物摂取量(DMI))、放牧牛のボディコンディションスコア(BCS)及び代謝プロファイルテスト(MPT)を用いて推定し、牛の栄養状態に対する放牧地の評価を行った。放牧はススキ及びネザサ主体の野草地(野草放牧地)2ヵ所とトールフェスク及びレッドトップ主体の人工草地(牧草放牧地)1ヵ所で9〜11月の間に各3週間実施した。放牧牛39頭のうち、無作為抽出した4〜5頭について、定期的に体重、BCS測定とMPTを実施した。MPT値の適正範囲は、牧草主体で舎飼飼養されている黒毛和種繁殖雌牛群の胚移植受胎率が良好な期間の値を基に設定した。飼料成分分析値及び推定養分充足率から、野草放牧地は黒毛和種繁殖雌牛の放牧に適している一方、牧草放牧地ではCP及びDCPの推定充足率が200%を越える高い値を示し、飼料としての栄養バランスが悪いことが推察された。供試牛のBCS及び体重は放牧後に徐々に低下し、放牧地間で有意差が認められた。MPT値では、遊離脂肪酸は各放牧地とも舎飼時に比べて有意(p<0.01)に高く、総コレステロール(T-cho)は、舎飼や野草放牧地に比べ牧草放牧地で有意(p<0.01)に高かった。尿素窒素(BUN)は各放牧地間で有意差(p<0.01)が認められ、特に牧草放牧地では平均値が20.5mg/dlと極めて高い値であった。これらの結果から、ススキ及びネザサ主体の野草地は黒毛和種繁殖雌牛の放牧に適しているが、牧草放牧地はCP及びDCPが過剰であることが明らかとなり、MPTは放牧牛の栄養状態を把握し、放牧地を評価する上で有効な指標となり得ると考えられた。
著者
渡邉 貴之 小西 一之 野口 浩正 大福 浩輝 岡田 啓司
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.7-12, 2012-06-30 (Released:2013-05-17)
参考文献数
16
被引用文献数
4 1

黒毛和種経産牛の栄養状態と胚移植受胎率の関連性について調査した.試験はⅠ期とⅡ期に分けて実施した.泌乳していない黒毛和種経産牛を,Ⅰ期は61頭,Ⅱ期は29頭供試した.移植胚は新鮮1胚または凍結1胚とした.粗飼料は全て収穫時に飼料分析を行った自家産数種の乾草または低水分サイレージのうち2種類をTMRミキサーで混合して給与した.飼料設計は,Ⅰ期は可消化養分総量(TDN)130%,乾物摂取量(DMI)100%以上とし,可消化粗蛋白質(DCP)は考慮しなかった.Ⅱ期はⅠ期の代謝プロファイルテスト(MPT)結果を考慮して,これら粗飼料に圧片トウモロコシを加えTDN 120%,DCP 200%未満,DMI 100%以上とした.両期とも胚移植開始2カ月前から体重が維持できるよう混合粗飼料の給与量を調整した.Ⅰ期は20頭,Ⅱ期は10頭を無作為に抽出し,MPTを胚移植開始1カ月後に実施した. TDNの充足率はⅠ期がⅡ期よりも有意に高かった(137% 対113% , p<0.01)が,MPTを取り入れ高タンパク状態を改善したⅡ期のDCP充足率はⅠ期に比べ有意に減少した(310%対147% , p<0.01).DMI充足率は114%と107%で差は認められなかった.給与した飼料の平均デンプン(NFC)含量はⅠ期が7.9%,Ⅱ期が17.6%とⅡ期が有意に高かった.Ⅱ期はⅠ期に比べ血中遊離脂肪酸,β-ヒドロキシ酪酸が有意に低かった(p<0.05,p<0.01)ことから,低NFCに起因するル-メンの発酵不足によるエネルギー不足が改善されたことが考えられた.また,血液尿素窒素もⅡ期がⅠ期に比べ有意に低かった(p<0.01)ことから,Ⅱ期では,Ⅰ期においてみられたルーメン発酵不足と高タンパク飼料によるル-メン内の利用しきれないアンモニアの発生が抑えられたと考えられた.胚移植受胎率はⅠ期37.7%(23/61),Ⅱ期は65.5%(19/29)とⅡ期が有意に高く改善された(p<0.05).以上のことから,黒毛和種受胚牛の受胎率はDCPの過剰摂取やDCPとNFCのアンバランスな場合に低下すること,MPTを基にした飼料設計で改善することが認められた.また,イネ科牧草の飽食給与は,著しい蛋白過剰をもたらす可能性があることが明らかになった.
著者
小西 一之 堂地 修 岡田 真人 宮沢 彰 橋谷田 豊 後藤 裕司 小林 修司 今井 敬
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1075-1084, 1997-11-25
参考文献数
26
被引用文献数
4

持続性黄体ホルモン製剤であるCIDR-B(以下CIDR)を用いて発情周期を制御したウシのFSHによる過剰排卵処理について,Estradiol-17&beta; Valerate (EV)を投与したときの効果を黒毛和種未経産牛を用いて調べるとともに,短期間に実施した連続過剰排卵処理の影響を調べた.黒毛秘種未経産牛16頭を試験牛とし,無作為にEV投与区とEV非投与区(対照区)に分けた.試験牛には発情周期にかかわらずCIDRを膣内に装着し,その翌日にEV投与区にはゴマ油2mlに溶解したEV 5mgを,対照区にはゴマ油2mlを頸部筋肉内に注射した.これらの投与後5日目から過剰排卵処理を開始した.FSH計20AUを3日間の漸減法により筋肉内注射し,FSH投与開始後3日目にCIDRを除去するとともにクロプロステノール750&mu;gを筋肉内注射することにより発情を誘起した.人工授精を約12時間間隔で20行い,発情開始後7日目に非外科的に胚の回収を行った.以上の処理を1クールとし,EV投与区と対照区を交互に反転しながら4クール行った.採胚間隔は28日とした.なお,第3および第4クールは16頭のうち12頭で行った.第1および第2クールでは超音波断層装置によりCIDRの装着から除去まで1日おきに卵巣の動態を観察した.第4クールまでの12頭の過剰排卵処理成績について,EV投与と処理回数の2元配置により分散分析を待った.EV投与により回収卵数は有意に増加した(P<0.05).処理回数の影響はま黄体数でのみ有意であった(P<0.05).また,第1と第2クール分,第2と第3クール分,第3と第4クール分の連続する2クール分の成績をまとめた結果,いずれの場合も対照区の回収卵数が10あるいは8個未満のウシでは,反転させたEV投与区では採胚成績は有意に改善された.しかし,対照区の回収卵数が10あるいは8個以上のウシでは反転させたEV投与区での成績は対照区と差は認められなかった.第1および第2クールの卵巣の追跡では,過剰排卵処理開始時において,対照区に比べ,反転させたEV投与区の大卵胞(径82nm以上)数は有意に少なかった.以上より,CIDRを用いた過剰排卵処理ではEVを併用投与することにより,卵巣中の大卵胞数が抑制されるとともに,過剰排卵処理成績が改善されることが示唆された.