著者
大藪 加奈
出版者
金沢大学外国語教育研究センター = Foreign Language Institute Kanazawa University
雑誌
言語文化論叢 (ISSN:13427172)
巻号頁・発行日
no.14, pp.121-143, 2010-03

本論は、英国のイスラム系児童文学作品に描かれている登場人物間の関係を論じたものである。イスラム家庭では、近年イスラム的なライフスタイルや価値観を反映した児童書やおもちゃが商業的成功をおさめている。そこで、これらの商品が代替品としての機能をどのように果たしているかを、主にThe Islamic Foundation 出版の本に焦点を当てて分析した。その結果、これらの作品には現代多文化社会であるイギリスの現状が取り上げられており、イスラム教徒と非イスラム教徒の関係がよく主題となっていることがわかった。しかし、イスラム・非イスラムという二項対立的概念は、聖典クルアーンや預言者ムハンマドの言葉に表れるイスラム的世界観とは相容れない。そこで、本論ではイスラム系児童書の登場人物の描き方を「関係の不在」「無知な者への対処」「対立」「中立」の4 つに分類して考察している。
著者
大藪 加奈 塚原 久美 大藪 千穂
出版者
金沢大学外国語教育研究センター = Foreign Language Institute Kanazawa University
雑誌
言語文化論叢 (ISSN:13427172)
巻号頁・発行日
no.15, pp.127-138, 2011-03

本論は現代アーミッシュ児童文学を扱う。産業化する以前の伝統的ライフスタイルを保っているアーミッシュの人々は、自分たちの理念と照らし合わせて必要だとみなされるものや考え方、情報のみアーミッシュ社会に取り入れるしくみを持っている。子ども向け読み物に関しては、ほとんどの家庭で月刊誌Family Life の子ども用ページと学校の教科書が主な情報となっている。本論では、2003 年から2008 年の5 年間に発行されたFamily Life の子ども用ページ掲載の物語310 篇について、登場人物の年齢、描写されている行為、教訓を特定し、頻繁に現れる主題がどのようなものか調べた。その結果、登場人物の年齢は10 歳以下が半数で、5 歳以下の登場人物の物語では、同年齢の読者が英語を習っていない現状を反映して読み聞かせ用物語となっていた。また、13 歳で独自の学校教育を終えるアーミッシュの子どもたちを反映して10 歳以上の登場人物の話は、ほぼ(97%)13 歳以下となっていた。描写される行為は、社会的活動と労働(地域での仕事・家事・農作業など)が遊びや学校での活動にくらべて高く、子ども時代から社会にかかわり労働しているアーミッシュ児童の現実を反映していると同時に、そのような存在としての子ども観を読み物が肯定・促進しているといえる。明示的・暗示的に教訓が示されるこれらの読み物では、人間的な弱さや不注意から失敗を犯す主人公が、後悔・反省を経て神への感謝や赦しの大切さなどのアーミッシュ的価値観へと目覚めて行く、いわゆるキリスト教的「放蕩息子(Prodigal Son)」の主題が顕著である。その他特徴的な主題としては、読み物でありながら本や読書を問題視する(健全な労働や生活から子どもを惑わす存在とみる)傾向があり、またモスレム児童文学に比べると宗教的行為・言説の多用という類似点と、宗教から逸脱する主人公の存在という相違点が認められた。
著者
大藪 加奈
出版者
金沢大学
雑誌
言語文化論叢 (ISSN:13427172)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.131-158, 1998-03

昨年に引き続き,自分のことを語ったり,書いたりしそうにない主人公を扱った作品で,語りがどのように可能になっているかという事を,テイモシー・モーのThe Redundancy of Courage(1991)をテキストとして見てゆく。舞台となっている東ティモアは,1996年のノーベル平和賞で有名になったが,ここでは内戦やゲリラ戦下のマイノリティという,不安定で危険な状況の中,どの陣営にとっても「便利屋」である事で生き長らえようとする中国人主人公の姿と,彼のアイデンティティーの問題を考察し,同じように危険な状況に巻き込まれてゆく小数民族の主人公を描いた,ブッチ・エメチタのDestination BiafraやV.S.ナイポールのThe Mimic Menなどと比べ,書きことばによって形成されるアイデンティティーのあり方について考える。