著者
大藪 加奈 塚原 久美 大藪 千穂
出版者
金沢大学外国語教育研究センター = Foreign Language Institute Kanazawa University
雑誌
言語文化論叢 (ISSN:13427172)
巻号頁・発行日
no.15, pp.127-138, 2011-03

本論は現代アーミッシュ児童文学を扱う。産業化する以前の伝統的ライフスタイルを保っているアーミッシュの人々は、自分たちの理念と照らし合わせて必要だとみなされるものや考え方、情報のみアーミッシュ社会に取り入れるしくみを持っている。子ども向け読み物に関しては、ほとんどの家庭で月刊誌Family Life の子ども用ページと学校の教科書が主な情報となっている。本論では、2003 年から2008 年の5 年間に発行されたFamily Life の子ども用ページ掲載の物語310 篇について、登場人物の年齢、描写されている行為、教訓を特定し、頻繁に現れる主題がどのようなものか調べた。その結果、登場人物の年齢は10 歳以下が半数で、5 歳以下の登場人物の物語では、同年齢の読者が英語を習っていない現状を反映して読み聞かせ用物語となっていた。また、13 歳で独自の学校教育を終えるアーミッシュの子どもたちを反映して10 歳以上の登場人物の話は、ほぼ(97%)13 歳以下となっていた。描写される行為は、社会的活動と労働(地域での仕事・家事・農作業など)が遊びや学校での活動にくらべて高く、子ども時代から社会にかかわり労働しているアーミッシュ児童の現実を反映していると同時に、そのような存在としての子ども観を読み物が肯定・促進しているといえる。明示的・暗示的に教訓が示されるこれらの読み物では、人間的な弱さや不注意から失敗を犯す主人公が、後悔・反省を経て神への感謝や赦しの大切さなどのアーミッシュ的価値観へと目覚めて行く、いわゆるキリスト教的「放蕩息子(Prodigal Son)」の主題が顕著である。その他特徴的な主題としては、読み物でありながら本や読書を問題視する(健全な労働や生活から子どもを惑わす存在とみる)傾向があり、またモスレム児童文学に比べると宗教的行為・言説の多用という類似点と、宗教から逸脱する主人公の存在という相違点が認められた。