- 著者
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長濱 雅彦
中本 高道
大西 景太
- 出版者
- 東京芸術大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
最終年度にあたる21年度は、匂い情報を持った次世代のレストランサインのデザイン研究を行った。嗅覚情報を利用することで、より実感のあるサインになり、食する物のイメージを高められるのではないかと考えた。今回完成した作品「香るレストランサイン」は、そば,パスタ、うなぎ、カレーの専門店という4つのお店が入っている施設を想定。より、被験者の感性を妨げないように、一方通行のインターフェイスではなく、行為と連動するインタラクティブな動画作品に仕上げた。体験の手順は下記の通りである。(1)被験者は4つの店が表示された看板(実験ではスクリーン)の前に立つ。(2)手に持っている端末(Wiiリモコン=将来の携帯電話を想定)を横に動かしながら振ることで店を選ぶ。(3)次に縦に振ると選んだ店の画面になる。(4)例えば、そば屋を選ぶ。するとそばの画面が全面に表れる。(5)被験者は落語家のそば食い表現のように、端末を下から上に手早く動かすと、そばのイメージ動画と効果音とともに、そばつゆの香りがする。といった流れである。ちなみに被験者の感想で上がったものは次の通りである。・とにかく面白い・不思議・普段使っていない感覚を使う・情報がより食べ物に近い印象・見るというより体験ゲームみたい・ディズニーランドにあるイメージがする・いつもの情報に匂いがないことをあらためて気づくこうした感想からも分かるように、匂い情報はマルチメディアの中では新鮮で、かつ新たな世界を開くきっかけに成りえる。実験前は匂いがすることに嫌悪感を抱く人もいるだろうと想像したが、情報として整理された今回のような匂いの場合、まったくそうした被験者がいないことに驚かされた(混ざり合った匂いがないことが嫌悪感につながらなかった理由か)。サイン看板類は構造上、匂い装置など器材を内側に仕舞いこめるため、この「香るレストランサイン」のようにコンテンツを限定したならば実現に大きな支障はないと考える。また、こうした匂い情報の活用は、誘導サインや危険サインとして有効で、高齢化社会の情報基盤に発展していくことも予想される。今後はなるべく具体的なテザイン研究によって様々な分野と連携し、可能性を多角的に分析していくことが肝要だろう。