著者
大西 珠枝 熊井 初穂 大矢 寧 秋山 純一 中嶋 正明 祢屋 俊昭
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.F0625-F0625, 2005

【はじめに】<BR>筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy:MyD)患者は疼痛を主訴とする者が多い.そして当院のMyD患者の約半数は腰痛を訴える.当院では,疼痛に対する治療手段として徒手療法(筋膜リリース)を適用することが多い.徒手療法はMyD患者の腰痛に対して効果的であり疼痛を緩和する.しかし,その効果の持続性に乏しくその日のうちに疼痛が再発しADLに支障をきたす症例がほとんどである.一方,我々はこれまで人工炭酸泉を物理療法領域で活用すべく研究を進めてきた.人工炭酸泉浴は浴水に溶解する二酸化炭素の経皮侵入により血管拡張や酸素飽和度の上昇をもたらす.第38回日本理学療法学術大会において人工炭酸泉浴は浸漬部だけでなく非浸漬部においても酸素飽和度を上昇させる等の効果を有することを報告した.今回,腰痛を訴えるMyD患者に対し人工炭酸泉下肢局所浴を適用し,その腰痛緩和効果を評価した.対照としてホットパック,徒手療法を実施し,これらの療法の腰痛緩和効果を評価した.<BR><BR>【対象と方法】<BR>対象は,腰痛を訴える運動機能障害度:stage4のMyD患者3名(53歳男性,48歳女性,61歳女性)とした.痛みの程度はvisual analogue scale (VAS)を指標に評価した.その他,視診・触診を行った.評価は,治療直前・治療直後・夜の計3回行い,疼痛の日内変動,効果の持続性についても観察した.各療法は1回20分間,5日間ずつ施行した.<BR><BR>【結果】<BR>VASは治療直前・治療直後・夜の順にホットパックでは5.7±2.1,5.3±0.6,5.0±0.0,徒手療法では6.0±1.0,5.0±1.0,5.7±1.5,人工炭酸泉下肢局所浴では6.7±1.2,3.0±0.0,3.3±0.6となった.ホットパックは腰痛緩和効果を有するものの「病棟に帰る間までに冷めて,腰が痛くなる」などの感想が聞かれ持続性は低かった.徒手療法は腰部の皮膚の可動性が増した.人工炭酸泉下肢局所浴は他の療法に比べより高い腰痛緩和効果が認められた.そして「足のほうから温かく よく眠れた」,「長くぽかぽかする」などの感想が聞かれ 治療効果の持続性に優れた.<BR><BR>【考察】<BR>本実験から人工炭酸泉浴下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対してその有効性を持つことが示唆された.その機序として全身的な自律神経系の緊張緩和,血流促進による物質交換の正常化を伴う浮腫の吸収,および疼痛性物質の分解による痛覚消失が考えられる.徒手療法(筋膜リリース)はMyD患者の腰痛に対して効果的であるが持続性が低い.しかしセラピストから治療を受けたと実感でき満足度が高い.人工炭酸泉下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対して効果的で持続性が高い.MyD患者の腰痛に対する理学療法として徒手療法に加え人工炭酸泉下肢局所浴を併用すればさらに効果的であると考えられ,これらを併用した際の効果は今後の課題である.