著者
藤野 英己 祢屋 俊昭 武田 功 菅 弘之
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.292-299, 1998-07-31
参考文献数
11
被引用文献数
1

健常成人, 高齢者および唖下障害者の喉頭運動と呼吸運動をストレインゲージ法で同時に記録して, 瞭下と呼吸の相互連関について検討した。唖下反射は3mlの飲水で誘発した。健常成人では喉頭挙上開始から238±32msec(平均士標準誤差)遅延して唖下呼吸の吸息が開始した。喉頭降下開始から165±29msec遅延して唖下呼吸は呼息相に移行した。この相互連関は高齢者においても同様であった。この相互連関が維持されているときには正常な唖下が観察された。したがって, その相互連関がスムーズな瞭下物の移送に必要不可欠であることが示唆された。一方, 唖下障害者では誤唖が誘発された。この時には唖下発生までに潜時が認められたり, 喉頭挙上に先行して唖下呼吸がみられた。これらの結果から, 相互連関の乱れが誤嘆に関与することが示唆され, 本研究に使用した測定法が唖下障害の定量的評価法として有用であると考えられる。
著者
藤野 英己 祢屋 俊昭 武田 功
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.218-224, 1997
参考文献数
10
被引用文献数
3

嚥下第2相では,呼吸運動と特に密接な関係が必要であると考えられている。そこでフォーストランスジューサおよび呼吸ピックアップセンサーを用いて,喉頭運動曲線,呼吸曲線を記録し,嚥下と呼吸の相互連関について検討した。嚥下時には安静呼吸に比較して,小さな呼吸が喉頭挙上に同期して生じた。この呼吸と喉頭運動の時間的相互連関を明らかにすることによって,正常嚥下の生理学的反応を推定した。その結果,喉頭挙上の開始直後に嚥下呼吸が発生し,喉頭が降下開始後に嚥下呼吸は呼息相に移行した。これは喉頭が挙上した後に嚥下呼吸の吸息が生じることによって気道内圧が下降し,気道閉鎖を完全な状態とすることを意味すると推測された。また,"むせ"の状態では嚥下呼吸が喉頭挙上に先行した。さらに,姿勢による影響について背臥位(頸中間位,頸前屈位,頸後屈位)で測定し,比較検討した。一方,この測定方法が嚥下の定量的評価として有用かについても考察を加えた。
著者
中嶋 正明 秋山 純一 小幡 太志 Chikako Kawakami Poffenberger Frank R Fisher Pam Marchand 荒木 靖 石田 恵子 祢屋 俊昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.F0351, 2004

【目的】近年,我が国では食生活の欧米化とともに高齢化社会を迎へ,血管病変に基づく末梢循環障害が医学的のみならず社会的にも問題になっている。これら末梢循環障害の保存的療法として,我が国では,人工炭酸泉浴が臨床応用され多数の改善例が報告されている。この人工炭酸泉浴による治療効果は血管拡張による循環の改善によるものと考えられている。我々は,これら人工炭酸泉浴の優れた治療効果は単に血液循環の改善によるものでなく血管新生によって得られるのではないかと考えた。血管内皮細胞増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)は血管内皮細胞に対して特異的に作用し,血管新生を促進する。今回,人工炭酸泉浴の血管新生作用を検討する目的で,糖尿病性潰瘍の2症例に対して人工炭酸泉の下肢連浴を行い血清中のVEGF濃度を評価した。<BR>【方法】対象は下肢に糖尿病性潰瘍を有する63歳の男性および44歳の女性の2症例とした。患者は坐位にて35&deg;Cの不感温度の人工炭酸泉浴を15分間の下腿局所浴として毎日1回実施した。人工炭酸泉の作成には高濃度人工炭酸泉製造装置カーボセラ・ミニMRE-SPA-CTM(MITSUBISHI RAYON ENGINEERING CO. LTD)を用い,その濃度は1000ppmに調整された。6週間にわたる人工炭酸泉連浴が行われ,連浴実施直前,連浴実施1週間経過時点,連浴実施6週間経過時点において採血を行い血清中のVEGF濃度をQuantikine M (R&D systems)を用いELIZA法により定量した。評価は人工炭酸泉連浴実施前の値を基に連浴実施後の値を正規化したデータについて行われた。なお,患者には実験趣旨の十分な説明を行い同意を得た。<BR>【結果】症例1のVEGF濃度は連浴実施1週間経過時点152.2%,連浴実施6週間経過時点130.0%となった。症例2のVEGF濃度は連浴実施1週間経過時点112.5%,連浴実施6週間経過時点70.8%となった。<BR>【考察】糖尿病性潰瘍の症例に人工炭酸泉浴を実施したところ連浴実施1週間経過時点でVEGF濃度の上昇が認められた。連浴実施6週間経過時点で症例1ではVEGF濃度が上昇したが,症例2では連浴実施前よりもVEGF濃度が低下した。これは,この連浴実施6週間経過時点で下肢の潰瘍が治癒していたことから,潰瘍の治癒によりVEGF濃度が減少したものと考えられた。今回の症例から,糖尿病性潰瘍に対して人工炭酸泉浴はVEGFの発現を促進し血管新生作用を有する可能性が示唆された。今日では,末梢循環障害に対してVEGFやHGFなどの血管新生増殖因子のDNAプラスミドまたは骨髄細胞を筋注し新たに血管を再生させようとする血管新生療法が注目され,臨床応用が始まっている。人工炭酸泉浴はこういった血管新生療法を助ける保存的療法と成りうる可能性が示唆された。
著者
大西 珠枝 熊井 初穂 大矢 寧 秋山 純一 中嶋 正明 祢屋 俊昭
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.F0625-F0625, 2005

【はじめに】<BR>筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy:MyD)患者は疼痛を主訴とする者が多い.そして当院のMyD患者の約半数は腰痛を訴える.当院では,疼痛に対する治療手段として徒手療法(筋膜リリース)を適用することが多い.徒手療法はMyD患者の腰痛に対して効果的であり疼痛を緩和する.しかし,その効果の持続性に乏しくその日のうちに疼痛が再発しADLに支障をきたす症例がほとんどである.一方,我々はこれまで人工炭酸泉を物理療法領域で活用すべく研究を進めてきた.人工炭酸泉浴は浴水に溶解する二酸化炭素の経皮侵入により血管拡張や酸素飽和度の上昇をもたらす.第38回日本理学療法学術大会において人工炭酸泉浴は浸漬部だけでなく非浸漬部においても酸素飽和度を上昇させる等の効果を有することを報告した.今回,腰痛を訴えるMyD患者に対し人工炭酸泉下肢局所浴を適用し,その腰痛緩和効果を評価した.対照としてホットパック,徒手療法を実施し,これらの療法の腰痛緩和効果を評価した.<BR><BR>【対象と方法】<BR>対象は,腰痛を訴える運動機能障害度:stage4のMyD患者3名(53歳男性,48歳女性,61歳女性)とした.痛みの程度はvisual analogue scale (VAS)を指標に評価した.その他,視診・触診を行った.評価は,治療直前・治療直後・夜の計3回行い,疼痛の日内変動,効果の持続性についても観察した.各療法は1回20分間,5日間ずつ施行した.<BR><BR>【結果】<BR>VASは治療直前・治療直後・夜の順にホットパックでは5.7±2.1,5.3±0.6,5.0±0.0,徒手療法では6.0±1.0,5.0±1.0,5.7±1.5,人工炭酸泉下肢局所浴では6.7±1.2,3.0±0.0,3.3±0.6となった.ホットパックは腰痛緩和効果を有するものの「病棟に帰る間までに冷めて,腰が痛くなる」などの感想が聞かれ持続性は低かった.徒手療法は腰部の皮膚の可動性が増した.人工炭酸泉下肢局所浴は他の療法に比べより高い腰痛緩和効果が認められた.そして「足のほうから温かく よく眠れた」,「長くぽかぽかする」などの感想が聞かれ 治療効果の持続性に優れた.<BR><BR>【考察】<BR>本実験から人工炭酸泉浴下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対してその有効性を持つことが示唆された.その機序として全身的な自律神経系の緊張緩和,血流促進による物質交換の正常化を伴う浮腫の吸収,および疼痛性物質の分解による痛覚消失が考えられる.徒手療法(筋膜リリース)はMyD患者の腰痛に対して効果的であるが持続性が低い.しかしセラピストから治療を受けたと実感でき満足度が高い.人工炭酸泉下肢局所浴はMyD患者の腰痛に対して効果的で持続性が高い.MyD患者の腰痛に対する理学療法として徒手療法に加え人工炭酸泉下肢局所浴を併用すればさらに効果的であると考えられ,これらを併用した際の効果は今後の課題である.