著者
木村 昭郎 田中 英夫 早川 式彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

原爆被爆者の高令化に伴い、骨髄異形成症候群(MDS)の増加がみられているが、当血液内科において過去15年間に診断されたMDSの病型診断を確定し、個人線量は当研究所の開発したABS93Dを用いてCox比例ハザードモデルにより統計学的解析を行った。その結果、個人被爆線量が得られたMDS例は26例であり、被曝線量反応関係を明らかにした。すなわち1 Sv被爆の0 Sv被爆に対する相対リスクは2.4であり、被曝線量反応関係に影響する因子として、被爆時年令を明らかにした。被爆者MDSの遺伝子レベルでの異常を明らかにするため、分化型急性骨髄性白血病の原因遺伝子として同定され、二次性白血病にも関与している可能性が指摘されている転写因子AML1遺伝子に注目し検索をすすめた。AML1遺伝子内のラントドメインの変異をPCR-SSCP及び塩基配列決定により検索したところ、非被爆者MDSでは74症例中2例(2.7%)に変異が認められ、これまでの報告と同程度の頻度であった。しかし、原爆被爆者で低線量被曝を受けたと推測されるMDSにおいては、13症例中6例(46%)と高頻度に点突然変異が認められた(ミスセンス3例、ノンセンス1例、サイレンス2例)。これらの点突然変異体について二量体形成能、DNA結合能、転写活性能についての解析を実施した。これらの結果より放射線関連MDS/AMLにおいてAML1の点突然変異が関与していることが明らかになった。次にMDSの病態には遺伝的不安定性が関与していると考えられるが、患者の単核球について、4種類のDNA修復酵素の遺伝子(ERCC 1,ERCC 3,ERCC 5,XPC)発現を検討したところ、低下〜消失した症例を高頻度に認め、MDSの病態に関与することが示唆された。
著者
田中 英夫 野上 浩志 中川 秀和 蓮尾 聖子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.929-933, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
4
被引用文献数
1

目的 全国の薬局,薬店で喫煙者の鎮咳,去痰剤として販売されている紙巻きたばこ型薬用吸煙剤(ネオシーダー,製造:アンターク本舗,千葉県,以下 NC と表す)の医薬品としての妥当性を,製品のニコチン含有量と,これを試行した者および連用者の尿中コチニン量から評価検討した。方法 1 NC および,コントロールとしてマイルドセブンエクストラライト(以下 MSE と表す),マイルドセブンスーパーライト(以下 MSS と表す),セブンスター(以下 SS と表す)の葉0.25 g を蒸留水10 mlで 5 分間振とうし,遠心分離後に抽出液を発色反応させ,高速液体クロマトグラフィーで分析した。方法 2 喫煙中であった32歳医師を被験者とし自記式問診とともに,禁煙時,NC 使用時,禁煙継続かつ NC 不使用時の 3 点で尿中コチニン量を測定した。方法 3 外来患者の中でタバコの代替物として NC を継続使用していた 2 人の連用者を見出し,自記式問診と採尿を実施し,尿中コチニン量を測定した。成績 1 製品 3 cm(実際の 1 本当たり消費量)当たりの平均ニコチン含有量は,NC; 0.79 mg (n=6), MSE; 5.04 mg (n=2), MSS; 4.91 mg (n=2), SS; 5.55 mg (n=2)。成績 2 被験者の喫煙中の Fagerstrom Test for Nicotine Dependence は 3 点。禁煙の開始から最終回の採尿までの期間の受動喫煙はなし。尿中コチニン量は,禁煙開始 7 日目10.0 ng/ml。NC を 3 日間で17本使用後47.2 ng/ml,禁煙継続かつ NC 不使用 3 日目8.4 ng/ml。成績 3 53歳男性:喫煙当時の FTND は 6 点。調査期間中の受動喫煙はなし。NC を 1 日平均40本連用中の尿中コチニン量は937 ng/ml。75歳女性:喫煙当時の FTND は 7 点。NC を 1 日27本連用中の尿中コチニン量は2724 ng/ml。NC 中止96時間後では27.7 ng/ml。結論 NC は非麻薬性で習慣性がみられないと説明されているものの,ニコチンを含有していること,使用により本剤に含有するニコチンが体内に移行することがわかった。また,本剤の使用によってニコチンへの依存性が生じ,長期連用を引き起こしていたとみられる 2 例を報告した。
著者
田中 英夫 緒方 剛 森定 一稔 田中 伸治 吉田 隆典 仲西 博子 三沢 あき子 西田 敏秀 鉄 治 永田 愛美 中里 栄介
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-145, (Released:2021-05-14)
参考文献数
18

目的 新型コロナウイルスの低蔓延期の日本において,無症候性病原体保有者から感染していたと考えられる事例を収集し,感染が成立した1次感染者と2次感染者との接触状況等の諸条件を確認する。方法 持続無症候性か,もしくは前発症期に2次感染させたと考えられる事例の匿名化された感染者の情報と,両者が最終接触した時の状況報告の提供を,2020年6月20日を期限として全国保健所長会のメーリングリストを通じて依頼した。2府6県の8保健所から,1次感染者9人,2次感染者17人の症例報告書が提出された。著者らの4人が独立して各症例について感染成立の確からしさを判定し,それを元に合同協議の上,対象症例を決定した。結果 2020年3月から5月に確定診断された7人と,この7人から2次感染したと考えられた,合計13人の陽性者の感染状況を以下のように見出した:①持続無症候性の20歳代女性が,70歳代の祖母と自宅で空間を共有,②ヘアーサロン店内で40歳代の美容師が,発症2日前に,客4人と客の子ども1人に接触,③50歳代の看護師が,発症2日前に,自分が勤務する病棟の入院患者2人に病室内で介護,④50歳代の女性が,発症2日前に,80歳代と90歳代の2人の親族に家事支援のため自宅で接触,⑤60歳代の男性が,発症1日前に,約8畳大の集会場で60歳代の男性と対話,⑥60歳代の男性が,発症1日前に,会社の同僚の40歳代男性に,喫茶店で対話,⑦50歳代の男性が,発症1日前に,会社の同僚の50歳代男性に,事務所内と乗用車内で約50分間接触があり,感染させた,と考えられる事例であった。各保健所が実施した13人の2次感染者に対する積極的疫学調査では,上記以外の感染源は見出せなかった。それぞれの2次感染が起きたとする日から潜伏期間に相当する6日後のその府県における感染罹患率は,100万人日あたり,0.00から6.54と,極めて低率であった。結論 新型コロナウイルス持続無症候性陽性者からの感染があったと考えられた事例をケースシリーズの一連として国内で初めて報告した。発症前の感染事例では,2次感染者との接触はすべて1次感染者の発症1~2日前であった。感染時の状況は,自宅,ヘアーサロン,病室,狭い集会場などの,いずれも換気が不十分な空間での接触を認め,飛沫感染が起きやすい状況にあったと考えられた。
著者
清水 基之 田中 英夫 高橋 佑紀 古賀 義孝 瀧口 俊一 大木元 繁 稲葉 静代 松岡 裕之 宮島 有果 高木 剛 入江 ふじこ 伴場 啓人 吉見 富洋 鈴木 智之 荒木 勇雄 白井 千香 松本 小百合 柴田 敏之 永井 仁美 藤田 利枝 緒方 剛
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.271-277, 2023-08-31 (Released:2023-09-21)
参考文献数
22

目的:日本の新型コロナウイルス第6波オミクロン株陽性者の致命率を算出し,これを第5波デルタ株陽性者と比較する.方法:2022年1月に7県3中核市3保健所で新型コロナウイルス感染症と診断され届出られた40歳以上の21,821人を,当時の国内での変異型流行状況からオミクロン株陽性者とみなし,対象者とした.死亡事実の把握は,感染症法に基づく死亡届によるpassive follow up法を用いた.2021年8月~9月にCOVID-19と診断された16,320人を当時の国内での変異株流行状況からデルタ株陽性者とみなし,同じ方法で算出した致命率と比較した.結果:オミクロン株陽性者の30日致命率は,40歳代0.026%(95%信頼区間:0.00%~0.061%),50歳代0.021%(0.00%~0.061%),60歳代0.14%(0.00%~0.27%),70歳代0.74%(0.37%~1.12%),80歳代2.77%(1.84%~3.70%),90歳代以上5.18%(3.38%~6.99%)であった.デルタ株陽性者の致命率との年齢階級別比は,0.21,0.079,0.18,0.36,0.49,0.59となり,40歳代から80歳代のオミクロン株陽性者の30日致命率は,デルタ株陽性者のそれに比べて有意に低かった.また,2020年の40歳以上の総人口を基準人口とした両株の陽性者における年齢調整致命率比は0.42(95%信頼区間:0.40-0.45)と,オミクロン株陽性者の致命率が有意に低値を示した.結論:日本の50歳以上90歳未満のCOVID-19第6波オミクロン株陽性者の致命率は,第5波デルタ株陽性者に比べて有意に低値であった.
著者
谷口 千枝 田中 英夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.125-132, 2015 (Released:2015-06-12)
参考文献数
34

目的 クイットラインは,禁煙を希望する喫煙者に対し,主として電話を通じた相談業務を行う禁煙のホットラインのことである。欧米先進国や東アジア諸国においては,すでに多くの国で実施されているが,日本での国レベルの運用はされていない。今後日本でクイットラインを整備するための方向性について考察することを目的に,諸外国でのクイットラインの現状とクイットラインの効果についてまとめた。方法 諸外国でのクイットラインの現状を,ホームページ閲覧等により調査した。クイットラインの禁煙に関する効果については,主に“Medline”,“Cochrane Database of Systematic Review”で「hotline」,「Smoking Cessation」をキーワードとして文献検索し,該当する先行研究を,用いられている媒体の種類別に検討した。これらの情報を元に,日本でクイットラインを展開するためには,どのような組み立てが望ましいか,方向性を考察した。結果 オーストラリア,ニュージーランド,韓国,香港,シンガポール,台湾,タイ,米国カリフォルニア州,英国のクイットラインは,電話相談だけでなく,小冊子の郵送やインターネット,携帯電話,電子メールなど様々な媒体を用いており,電話を含むすべての禁煙支援媒体を総称してクイットラインと呼んでいた。また,電話を用いる場合でも,クイットライン側のオペレーターから利用者に電話をかけてアドバイスを行う,能動的な方法を取り入れていた国もあった。各々の媒体・方法別に禁煙成功率に違いがみられたが,能動的な電話介入,携帯電話,携帯メール,インターネットを用いた個別化されたプログラムでは,メタ解析や無作為割付試験で,その効果が確認されていた。これらの方法は,そのサービスの広域性,標準化のしやすさ,人的コスト面などで相当の違いがあることが考えられた。わが国のように喫煙者人口がなお多い国では,広域性やコスト面での実行可能性が重要になると考えられ,現在行われている健診の場における禁煙支援体制などに合わせた介入や,利用者に合った個別化されたアルゴリズムを用いたインターネットや電子メールによる介入などを取り入れて行くことが望ましいと考えられた。結論 日本で国レベルでのクイットラインを展開していくためには,電話だけでなく様々な個別化された介入媒体を増やし,既存の禁煙支援体制とも連携した包括的なサービス体制を構築することが必要かつ現実的であると考える。
著者
田中 英夫 緒方 剛 森定 一稔 田中 伸治 吉田 隆典 仲西 博子 三沢 あき子 西田 敏秀 鉄 治 永田 愛美 中里 栄介
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.550-558, 2021-08-15 (Released:2021-08-11)
参考文献数
18

目的 新型コロナウイルスの低蔓延期の日本において,無症候性病原体保有者から感染していたと考えられる事例を収集し,感染が成立した1次感染者と2次感染者との接触状況等の諸条件を確認する。方法 持続無症候性か,もしくは前発症期に2次感染させたと考えられる事例の匿名化された感染者の情報と,両者が最終接触した時の状況報告の提供を,2020年6月20日を期限として全国保健所長会のメーリングリストを通じて依頼した。2府6県の8保健所から,1次感染者9人,2次感染者17人の症例報告書が提出された。著者らの4人が独立して各症例について感染成立の確からしさを判定し,それを元に合同協議の上,対象症例を決定した。結果 2020年3月から5月に確定診断された7人と,この7人から2次感染したと考えられた,合計13人の陽性者の感染状況を以下のように見出した:①持続無症候性の20歳代女性が,70歳代の祖母と自宅で空間を共有,②ヘアーサロン店内で40歳代の美容師が,発症2日前に,客4人と客の子ども1人に接触,③50歳代の看護師が,発症2日前に,自分が勤務する病棟の入院患者2人に病室内で介護,④50歳代の女性が,発症2日前に,80歳代と90歳代の2人の親族に家事支援のため自宅で接触,⑤60歳代の男性が,発症1日前に,約8畳大の集会場で60歳代の男性と対話,⑥60歳代の男性が,発症1日前に,会社の同僚の40歳代男性に,喫茶店で対話,⑦50歳代の男性が,発症1日前に,会社の同僚の50歳代男性に,事務所内と乗用車内で約50分間接触があり,感染させた,と考えられる事例であった。各保健所が実施した13人の2次感染者に対する積極的疫学調査では,上記以外の感染源は見出せなかった。それぞれの2次感染が起きたとする日から潜伏期間に相当する6日後のその府県における感染罹患率は,100万人日あたり,0.00から6.54と,極めて低率であった。結論 新型コロナウイルス持続無症候性陽性者からの感染があったと考えられた事例をケースシリーズの一連として国内で初めて報告した。発症前の感染事例では,2次感染者との接触はすべて1次感染者の発症1~2日前であった。感染時の状況は,自宅,ヘアーサロン,病室,狭い集会場などの,いずれも換気が不十分な空間での接触を認め,飛沫感染が起きやすい状況にあったと考えられた。
著者
田中 英夫 野上 浩志 中川 秀和 蓮尾 聖子
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.929-933, 2002-09-15

<b>目的</b> 全国の薬局,薬店で喫煙者の鎮咳,去痰剤として販売されている紙巻きたばこ型薬用吸煙剤(ネオシーダー,製造:アンターク本舗,千葉県,以下 NC と表す)の医薬品としての妥当性を,製品のニコチン含有量と,これを試行した者および連用者の尿中コチニン量から評価検討した。<br/><b>方法 1</b> NC および,コントロールとしてマイルドセブンエクストラライト(以下 MSE と表す),マイルドセブンスーパーライト(以下 MSS と表す),セブンスター(以下 SS と表す)の葉0.25 g を蒸留水10 m<i>l</i>で 5 分間振とうし,遠心分離後に抽出液を発色反応させ,高速液体クロマトグラフィーで分析した。<br/><b>方法 2</b> 喫煙中であった32歳医師を被験者とし自記式問診とともに,禁煙時,NC 使用時,禁煙継続かつ NC 不使用時の 3 点で尿中コチニン量を測定した。<br/><b>方法 3</b> 外来患者の中でタバコの代替物として NC を継続使用していた 2 人の連用者を見出し,自記式問診と採尿を実施し,尿中コチニン量を測定した。<br/><b>成績 1</b> 製品 3 cm(実際の 1 本当たり消費量)当たりの平均ニコチン含有量は,NC; 0.79 mg (n=6), MSE; 5.04 mg (n=2), MSS; 4.91 mg (n=2), SS; 5.55 mg (n=2)。<br/><b>成績 2</b> 被験者の喫煙中の Fagerstrom Test for Nicotine Dependence は 3 点。禁煙の開始から最終回の採尿までの期間の受動喫煙はなし。尿中コチニン量は,禁煙開始 7 日目10.0 ng/m<i>l</i>。NC を 3 日間で17本使用後47.2 ng/m<i>l</i>,禁煙継続かつ NC 不使用 3 日目8.4 ng/m<i>l</i>。<br/><b>成績 3</b> 53歳男性:喫煙当時の FTND は 6 点。調査期間中の受動喫煙はなし。NC を 1 日平均40本連用中の尿中コチニン量は937 ng/m<i>l</i>。75歳女性:喫煙当時の FTND は 7 点。NC を 1 日27本連用中の尿中コチニン量は2724 ng/m<i>l</i>。NC 中止96時間後では27.7 ng/m<i>l</i>。<br/><b>結論</b> NC は非麻薬性で習慣性がみられないと説明されているものの,ニコチンを含有していること,使用により本剤に含有するニコチンが体内に移行することがわかった。また,本剤の使用によってニコチンへの依存性が生じ,長期連用を引き起こしていたとみられる 2 例を報告した。
著者
田中 英夫 長尾 香織 池田 了
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.147-151, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
10

ここ20年の抗HIV薬の開発は目覚しく,現在20種を超える薬剤が上市されている.治療に使用されている逆転写酵素阻害薬,プロテアーゼ阻害薬に加え,新規作用機序を持つ薬剤も開発段階にあり,今後さらに治療の選択肢が増えることが期待される.しかし,薬剤耐性ウイルスの出現,長期服用に伴う副作用,HIV感染症の根本治療の困難さなど課題は残されている.
著者
田中 英夫
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学史紀要 (ISSN:09155848)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-88, 1991-04

国立情報学研究所で電子化したコンテンツを使用している。
著者
高橋 佑紀 森定 一稔 渡邉 美貴 田中 英夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-041, (Released:2023-03-10)
参考文献数
14

目的 大阪府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大期における感染制御の方策として,政府に対し緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出・実施要請をした。それらの効果を評価・検討する。方法 大阪府健康医療部が公表する第3波(2020年10月10日~2021年2月28日)および第4波と前後約1週間(2021年2月23日~2021年6月27日)の感染経路不明新規陽性者数を用い,7日間移動平均値を計算した。そして各波での罹患率の経時変化の特徴を,Joinpoint回帰モデルを適用して分析し,統計学的に有意な罹患率の日率変化をその日の前後で起こした日(Joinpoint日)を特定した。SARS-CoV-2に感染してからその罹患事実が公表に至るまでの日数分を各Joinpoint日から遡った日を,府民の感染リスク行動が大きく変化した日とみなした。それらの日と大阪府から発出された声明,宣言との時間的関連性を見た。結果 大阪府のCOVID-19感染経路不明新規陽性者数の増加率が有意に減少に転じたJoinpoint日は,第3波では2020年11月23日,2021年1月7日,および1月18日の3ポイントが見出された。また,第4波では,2021年4月12日と4月30日の2ポイントが見出された。それぞれのJoinpoint日から,対応するタイムラグ(8~9.9日)だけ遡って得られた計5つの感染リスク行動急変日は,2020年11月13日,12月30日,2021年1月9日,4月4日,および4月22日と推定された。上記の5つの推定感染行動急変日のうち,2021年1月9日は2回目の緊急事態宣言発出日,21年4月4日は1回目のまん延防止等重点措置実施日,4月22日は3回目の緊急事態宣言の要請日と発出日の間に位置していた。結論 大阪府内でCOVID-19の第3波,第4波に発出された計3回の緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発出・実施タイミングは,いずれも感染経路不明新規陽性者数が増加から減少に転じた,もしくは急激な増加傾向が止まったと推定される時点に対応する府民の行動変化を起こしたタイミングにほぼ一致していた。このことから,これらの宣言の発出要請は,府民の感染リスク回避行動を強化し,また感染が起きやすい機会を低減させた要因の一つと推定された。
著者
本屋敷 美奈 杉原 亜由子 永井 仁美 高山 佳洋 森定 一稔 柴田 敏之 森脇 俊 笹井 康典 田中 英夫
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.174-185, 2021

<p><b>目的</b>:大阪府における自殺未遂者相談支援事業(以下同事業)を評価し,自殺未遂者本人(以下本人)の支援者との関係の改善につながる効果的な支援方法と内容を明らかにする.</p><p><b>方法</b>:本研究は二段階で実施した.第一段階ではフォーカスグループインタビューにて介入の効果についての仮説とアウトカム指標を定義した.第二段階では仮説に基づく評価を行った.調査対象は2014年 4 月から2015年 6 月の間に府内 5 つの保健所において同事業への同意が得られた自殺未遂者192人のうち,支援が終了した113人の中で,支援記録が入手できた102人とした.調査期間は2015年10月から12月とした.調査方法としては支援記録からケースワーカーが情報を抽出した.分析方法では,援助希求行動,信頼関係,支配性を個々の支援者との関係に影響を与える要素と定義した上で,個々の本人と支援者との関係について各要素を0-4点で数値化し,得点の合計が 6 点以上の場合を支援者との良い関係があるとした.過去の自殺未遂歴や精神科受診歴,保健所相談歴,年齢,性別を調整した上で支援(方法・内容)を説明変数とし,支援者との良い関係の介入後の増加を従属変数としてロジスティック回帰にて分析を行った.</p><p><b>結果</b>:対象者の平均年齢は40.7歳,女性は67.6%であった.良い関係を持つ支援者の数が増えた対象者は64人(62.7%)であった.ロジスティック回帰分析にて有意となった支援は,方法では本人・家族両方への面接(調整オッズ比(以下AOR)13.33;95%信頼区間(以下95%CI)2.44-72.81),内容では本人心理支援の内,ニーズの傾聴(AOR5.87;95%CI2.00-17.22),支援方針の説明と合意形成(AOR5.69;95%CI1.88-17.23),心理教育(AOR3.26;95%CI1.13-9.36),医療機関に関する支援では治療継続支援のみを行った場合(AOR4.72;95%CI1.42-15.71)であった.受療支援・治療継続支援両方ありに該当した 5 人の対象者全員に良い関係のある支援者数の増加が見られた.</p><p><b>結論</b>:仮説及びアウトカム指標の設定は本人の支援に関しては妥当であった.保健所での支援において,本人・家族両方との面接,本人との共同した意思決定,丁寧な受療支援の必要性が示唆された.今後は自殺未遂者・支援者関係の質的評価や対照を設けての評価が課題である.</p>
著者
田中英夫 [ほか] 編
出版者
東京大学出版会
巻号頁・発行日
1993
著者
村田 忠彦 石渕 久生 田中 英夫
出版者
The Society of Instrument and Control Engineers
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.583-590, 1995-05-31 (Released:2009-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

In this paper, we apply a genetic algorithm to flowshop scheduling problems and examine two hybridizations of a genetic algorithm with other search algorithms. We also propose a genetic algorithm for multi-objective optimization problems. First we examine various genetic operators for the flowshop scheduling problem for minimizing the makespan. By computer simulations, we show that a two-point crossover and a shift change mutation are effective for this problem. Next we compare the genetic algorithm with other search algorithms such as local search, taboo search and simulated annealing. By computer simulations, it is shown that the genetic algorithm is a bit inferior to the others. In order to improve the performance of the genetic algorithm, we examine the hybridization of the genetic algorithm with other search algorithms. Finally, we propose a selection operator and an elitist strategy of the genetic algorithm for multi-objective problems. The high performance of our multi-objective genetic algorithm is demonstrated by computer simulations.
著者
大西 聖子 谷内 佳代 田中 英夫
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.246-253, 2007

<b>目的</b> 喫煙歴のある入院患者に対して,郵送による退院後の喫煙状況調査を行った。すぐに返信する者と督促によって返信する者とで,退院後の断面禁煙率(以下,禁煙率という)の違いや喫煙行動関連要因の違いを調べた。これらの結果から,患者への郵送による喫煙状況調査の問題点を検討する。<br/><b>方法</b> がん(成人病)専門診療施設に入院した喫煙患者(入院当日の喫煙状況が喫煙中,あるいは禁煙後31日以内であった者)556人に,入院から12か月後の時点の喫煙状況を郵送で尋ねた(初回調査)。返信のない者には最多で 2 回の督促状を,調査用紙とともに郵送した(2 回目調査,3 回目調査)。計 3 回の喫煙状況調査の返信行動別に各調査回の禁煙率を求め,比較した。また,返信行動の違いと入院時点の喫煙行動に関連する属性との関係を多重ロジスティック回帰分析で調べた。<br/><b>結果</b> 全対象者に占める回答者の割合は,初回調査から順に53%,20%,4%であった。各調査回において返信があった者での禁煙率は,初回調査63%(184/294),2 回目調査29%(32/112),3 回目調査33%(7/21)と,2 回目,3 回目調査は,初回調査に比べて有意に禁煙者の占める割合が低かった(<i>P</i><0.01)。<br/> 対象者の属性を初回調査の返信者と 2 回または 3 回目調査の返信者とで比較すると,後者は前者に比べて女性の割合が高く(オッズ比2.1,95%信頼区間(CI):1.20-3.81),また入院当日に喫煙中であった者の割合が高かった(同2.1,95%CI:1.28-3.46)。つぎに,初回調査の返信者と最終的な未返信者との属性を比較すると,後者は前者に比べて女性(同2.4,95%CI:1.38-4.29),年齢が59歳以下の者(同1.9,95%CI:1.15-3.28),入院当日に喫煙していた者(同2.9,95%CI:1.70-4.96)の割合が高かった。<br/><b>結論</b> 退院後の郵送による喫煙状況調査において,督促によって返信した者では禁煙者の割合が低く,また,督促によって返信した者や未返信者では,初回調査で返信した者に比べて禁煙しにくい属性を有する者の割合が有意に高かった。以上の成績から,退院後の郵送による喫煙状況調査においては複数回の督促等によって未返信者の割合を最小限にすることが正確な喫煙状況の把握のために必要であると考えられる。