著者
岩野 英知 大谷 尚子 井上 博紀 横田 博
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S16-6, 2016 (Released:2016-08-08)

我々の身の回りには多くの化学物質があふれており、日常的に多くの化学物質に接触している。生体は、それら多くの化学物質を無毒化し、排除する効率的なシステムを備えている。たとえば、内分泌攪乱化学物質であるビスフェノールA(BPA)は、そのエストロジェン作用で大きく騒がれたが、現在では成熟した健康な大人であれば、大きな影響はないということが明らかとなった。それは、BPAが薬物代謝の第II相酵素UDP-glucuronosyltransferase (UGT)により効率的に代謝され、排泄されるからである。一方で、妊娠期にBPAを暴露すると、たとえ低容量であっても次世代に悪影響を及ぼすとの報告がある。この低容量BPAによる胎仔影響には、以下の3つのファクターが関与している、と我々は考えている。①妊娠期の母-仔間の体内動態 ②胎仔における代謝システム(グルクロン酸抱合と脱抱合) ③胎仔でのエストロジェニックな作用以外の攪乱以上の仮説をもとに、これまでに我々は以下の点を明らかにしてきた。①BPAの代謝物が胎盤を通過する可能性があること ②胎児側に移行したBPA代謝物がBPAに再変換されうること ③薬物抱合のタイプによっては、胎盤通過が異なる可能性があること ④ビスフェノール類(BPA、BPF)の妊娠期の暴露は、生まれた仔の成熟後に対して不安行動を増強すること。本発表では、これらの研究を踏まえながら、薬物抱合の役割、特に胎盤通過についての結果を中心に報告する。これまで薬物抱合反応は、薬物を排泄されるためのシステムであり、抱合体そのものの生体内での役割、影響については見いだせていなかった。生体内物質の抱合体には、排泄だけでなく運搬体としての意義があり、生体外からの化学物質も同様の過程をとる場合もあると考えている。今後、抱合体そのもの役割を詳細に検討するべきと考えている。