著者
堀口 兵剛
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S19-2, 2016 (Released:2016-08-08)

20世紀後半の我が国には鉱山や製錬所に由来するカドミウム(Cd)汚染地域が各地に存在し、地元産米摂取などによりCd経口曝露を受けて腎尿細管機能障害(カドミウム腎症)を発症した人が住民健康調査などによって多数見つかった。最も高度のCd汚染地域はカドミウム腎症のみならずイタイイタイ病も多発した富山県神通川流域であったが、石川県梯川流域や長崎県対馬などのCd汚染地域においても住民健康調査などによって多数のカドミウム腎症患者の存在が明らかにされてきた。 ところで、環境省の農用地土壌汚染防止法の施行状況によれば、秋田県には基準値を越えるCd濃度の米が生産された農用地土壌汚染対策地域が全県にわたって散在しており、その指定面積と件数はともに全国第一位である。それは、かつて県内に125カ所も存在した非鉄金属鉱山に由来すると考えられる。しかし、1960年代に県北地域の一部で実施された疫学研究以外には住民健康調査の報告は20世紀中にはほとんどなく、住民におけるCdの健康影響の実態は長らく不明であった。すなわち、秋田県は「忘れられたカドミウム汚染地」であったと言える。 21世紀に入ってようやく県北のCd汚染地域において広範囲に住民健康調査が実施されたところ、自家産米を摂取してきた農家は県内対照地域と比較して年齢依存性の高度の血中・尿中Cdレベルを示し、特に70歳以上の女性では腎尿細管機能への影響が現れており、カドミウム腎症と考えられる人も見つかってきた。従って、県中・県南の未調査のCd汚染地域においても同様の状態であることが推測される。 これらの結果は、Cdの非常に長い生物学的半減期と国民の長寿化のために、富山県や秋田県などのCd汚染地域では高齢者の中から将来にわたってカドミウム腎症やイタイイタイ病が発生する危険性があること、そして今後も継続的な住民健康調査と保健対策が必要であることを示している。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 埴岡 伸光 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-207, 2016 (Released:2016-08-08)

【目的】近年、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品等の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。このような室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因、あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究では、欧州連合の化粧品指令でアレルギー物質としてラベル表示を義務付けられた香料成分を対象として、FormaldehydeやAcroleinなどのアルデヒド類や防腐剤パラベン、抗菌剤など多様な室内環境化学物質の生体内標的分子であり、これらの化学物質による気道刺激などに関与するTRP (Transient Receptor Potential Channel)イオンチャネル活性化について検討を行った。【方法】ヒトTRPV1及びTRPA1の安定発現細胞株を用いて、細胞内Ca2+濃度の増加を指標として対象化合物のイオンチャネルの活性化能を評価した。Ca2+濃度の測定にはFLIPR Calcium 6 Assay Kitを用い、蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。【結果および考察】香料アレルゲンとして表示義務のある香料リストのうち植物エキス等を除いて今回評価可能であった18物質中9物質が濃度依存的にTRPA1の活性化を引き起こすことが判明した。なかでも、2-(4-tert-Butylbenzyl) propionaldehydeによるTRPA1の活性化の程度は陽性対象物質であるCinnamaldehydeに匹敵することが明らかとなった。以上の結果は、これら香料アレルゲンがTRPA1の活性化を介して気道過敏の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上でも極めて重要な情報であると考えられる。
著者
植田 康次 井上 みさと 岡本 誉士典 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-199, 2016 (Released:2016-08-08)

マンガンはヒトにおける必須微量元素の一つであるが、過剰曝露により神経系への影響を特徴とする中毒症状を引き起こす。その症状はパーキンソン病に似ていることからマンガン性パーキンソニズムとも呼ばれ、両者の発症機序には部分的な共通項が予想される。パーキンソン病に関与するドパミンを含むカテコールアミンの酸化体であるアミノクロムには神経障害作用があると考えられているが、その障害機序は明らかになっていない。神経細胞が遺伝子発現阻害により緩慢な細胞死を誘導されるという報告などから、われわれはマンガンとカテコールアミンの相互作用が遺伝子発現に及ぼす影響について検討した。 ドパミンおよびアドレナリンは塩化マンガン存在下において速やかに消失し、アドレナリンからは酸化体であるアドレノクロムの生成増加を確認した。T7 RNAポリメラーゼを用いた再構成RNA合成系において、アドレノムロム、あるいはマンガンとアドレナリンの混合液が濃度依存的にRNA合成を阻害したことから、マンガンによって加速生成したアドレノクロムがRNA合成反応を阻害したと考えられる。鋳型DNAよりもRNAポリメラーゼをアドレノクロムで前処理した方が強くRNA合成が阻害されたため、作用標的としてポリメラーゼが予想される。ヒト細胞でのグローバルな転写への影響を評価するため、新生RNA鎖へのエチニルウリジン取り込み活性をクリックケミストリーを介した蛍光アジド標識により測定する実験系を構築している。ファージと真核生物のRNAポリメラーゼの間の進化的な保存度は低いが、同様の阻害効果がみられた場合、活性部位近傍への作用の可能性も考えられる。
著者
平野 哲史 柳井 翔吾 高田 匡 米田 直起 表原 拓也 久保田 直人 南 貴一 広川 千英 山本 杏 万谷 洋平 横山 俊史 北川 浩 星 信彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-252, 2016 (Released:2016-08-08)

【背景】ネオニコチノイドは1990年代に昆虫型ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)を標的として開発された農薬成分である.しかし近年,ネオニコチノイドは哺乳類型nAChRsを介して神経細胞に興奮反応を引き起こすことが示され,昆虫以外の生物に対して不測の影響を与える可能性が懸念されている.我々はこれまでに成熟雄マウスをネオニコチノイドの1種,クロチアニジン(CTD)に4週間曝露すると,新規環境(オープンフィールド)における不安様行動が引き起こされ,その影響は環境ストレス下においてより顕在化することを報告してきた.本研究では,ネオニコチノイドによる行動影響発現に関与する脳領域を明らかにすることを目的とした.【材料と方法】C57BL/6成熟雄マウスに5または50 mg/kgの CTDを単回経口投与し,投与1時間後に高架式十字迷路試験による行動解析を行った.さらに2時間後に脳を摘出し,c-fos発現を指標とした組織学的解析により投与後誘導された神経活動を評価した.【結果と考察】行動解析の結果,CTD 5 mg/kg投与群においては溶媒投与対照群と比較してOpen arm滞在時間および侵入回数の減少がみられた.CTD 50 mg/kg投与群においては,さらに総移動距離の減少ならびに迷路探索時における異常啼鳴(Abnormal vocalization)およびすくみ行動(Freezing)が観察された.組織学的解析の結果,情動およびストレス反応に関与する視床下部,海馬においてc-fos陽性細胞数の増加がみられた.以上の結果から,CTD投与下においては,新規環境ストレスに曝露された際にコリン作動性神経投射を受ける視床下部や海馬における過剰な神経興奮が生じ,不安様行動やストレス応答を濃度依存的に誘発する可能性が示唆された.
著者
石井 明子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S11-1, 2016 (Released:2016-08-08)

バイオ医薬品(組換えタンパク質医薬品)は,目的物質を発現する組換え細胞の培養,及び,細胞あるいは細胞培養上清からの目的物質の精製工程を経て,製造される.バイオ医薬品原薬の構成要素には,目的物質,目的物質関連物質の他,目的物質由来不純物,製造工程由来不純物が含まれる.目的物質由来不純物は,目的物質の分子変化体(前駆体,製造中や保存中に生成する分解物,凝集体,アミノ酸配列変異体等)で,生物活性,有効性及び安全性の点で目的物質に匹敵する特性を持たないものである.製造工程由来不純物には,細胞基材に由来するもの(宿主細胞由来タンパク質,DNA等),細胞培養液に由来するもの,あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出,分離,加工,精製工程に由来するもの(試薬・試液類,クロマトグラフ用担体からの漏出物等)がある.これらの不純物の評価・管理については,ICH Q6Bガイドラインに基本的な考え方が示されているが,具体的な許容値や管理値は示されていない.バイオ医薬品開発に際して,中間体,原薬,あるいは製剤を対象とした特性解析により,各種不純物の存在と残存量が明らかにされ,製剤中の不純物含量が安全性に影響のない値以下に管理できるよう,原材料の管理,工程パラメータ管理,工程内試験,規格及び試験方法等からなる品質管理戦略が構築される.不純物の管理値については,最終的には,臨床試験に用いたロットにおける不純物含量等をもとに決定されている.不純物の安全性への影響は,製剤の投与経路等によっても異なる場合があるので,各製品の意図した用途に応じた品質管理戦略が必要である.本講演では,バイオ医薬品に含まれる各不純物の特徴,不純物が問題となった事例,及び,不純物管理戦略の概要を述べ,不純物に焦点をあてたバイオ医薬品品質管理の現状と課題を考察したい.
著者
土田 翼 藤江 智也 吉田 映子 山本 千夏 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-41, 2016 (Released:2016-08-08)

【背景・目的】内皮細胞は種々の増殖因子・サイトカインを産生・分泌することで, 血管機能を調節している。TGF-β1は,内皮細胞の増殖を抑制的に制御し,動脈硬化などの血管病変の進展に関与する。一方,メタロチオネイン(MT)は重金属の毒性軽減や細胞内の亜鉛代謝などに寄与する多機能な生体防御タンパク質であるが,細胞機能調節因子によるMTの誘導に関する報告は少ない。本研究では,TGF-β1による血管内皮細胞のMT遺伝子の転写誘導とそのメカニズムについて解析した。【方法】培養ウシ大動脈内皮細胞をTGF-β1で処理し,MTアイソフォーム(MT-1A,MT-1EおよびMT-2A)mRNAの発現をreal-time RT-PCR法により解析した。Smad2/3,ERK,p38 MAPKおよびJNKのリン酸化はWestern Blot法で検出した。siRNAはリポフェクション法により導入した。【結果・考察】血管内皮細胞において,TGF-β1の濃度および時間に依存してMT-1A/2A mRNAレベルが上昇したが,この上昇はTGF-β1中和抗体の同時処理により消失した。TGF-β受容体ALK1またはALK5 siRNAを導入した内皮細胞では,ALK5の発現抑制によりMT-1A/2A mRNAの発現の上昇が抑制された。ALK5下流のSmad2およびSmad3のsiRNAをそれぞれ導入したところ,Smad2 siRNAによりMT-1A/2A mRNAの発現上昇が抑制された。またnon-Smad経路としてMAPK経路を検討したところ,TGF-β1により全てのMAPKsが活性化したが,p38 MAPKおよびJNK阻害剤によりTGF-β1によるMT-1A mRNAの発現上昇のみが抑制された。以上の結果より,TGF-β1は内皮細胞のMT-1A/2A遺伝子を転写誘導すること,この誘導はALK5を介したSmad2シグナルの活性化に介在されること,およびp38 MAPKおよびJNKの活性化はMT-1Aの転写誘導を選択的に介在することが明らかになった。
著者
奥村 剛宏
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S11-3, 2016 (Released:2016-08-08)

医薬品の製造業界においては、バイオ医薬品や再生医療等医薬品の製造にシングルユースシステム(SUS)が使用されるようになっている。製造の生産性向上や交叉汚染の減少などの利点がある一方、SUS由来の抽出物・溶出物、微粒子に加え、完全性、無菌性などバイオ医薬品の品質に直接的、間接的に与える影響が懸念される。SUS製品(バック、フイルター、チューブなど)の特徴は、その品質がサプライヤーの品質保証システムに依存していることである。従って、サプライヤーへの技術訪問や監査によりリスク評価を行い、その結果にもとづいて適切にサプライヤーを管理することが求められる。医薬品の品質や製造に影響を与える製品のサプライヤー/製造サイトとは品質契約を締結し、定期的に監査をすることが望ましい。また、単回使用であるため、ユーザーは、通常、受入れ試験で使用前に品質を確認することができない。SUS製品の設計段階からユーザーとサプライヤーで緊密に協議してユーザー仕様要件を確立することが、SUSに対する品質管理の重要な要素である。サプライヤーから、当該SUS製品の適格性評価データ、抽出物・溶出物に関する評価結果、リーク試験条件や無菌性保証のバリデーションデータなどの技術情報の提供を受け、サプライヤーと協議を行ないながら、その品質管理戦略を構築する。抽出物・溶出物についても各サプライヤーが取得したデータをもとにリスク評価を行ない、追加実験の要否や毒性評価の結果を判断する必要がある。また、バイオ医薬品の安定供給のためには、SUS製品の入手性などビジネス面での評価も必要になるため、試験部門だけでなく製造部門や購買部門を含めた総合的な戦略が必要である。2015年、厚労省研究班では、産官学の共同で、「シングルユースシステムを用いて製造されるバイオ医薬品の品質確保に関する提言書」がまとめられ、現在、国内外の関係者から広く意見を求めている。
著者
松田 一彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W3-2, 2016 (Released:2016-08-08)

イミダクロプリドと、それに続いて開発された類縁殺虫剤は、従来の殺虫剤に抵抗性を示す害虫に対しても優れた防除効果を発揮し、さらに植物に対する浸透移行性に優れていたことなどから、殺虫剤市場の主要な一角を占めるようになった。しかし、これらの「ネオニコチノイド」と総称される殺虫剤について、ミツバチの数の減少との関連性や神経作用性の危うさが指摘され、使用の是非が問われている。このようなネオニコチノイドの隆盛と論争を見ながら、演者は、中立の立場でネオニコチノイドとは何かということを研究してきた。ネオニコチノイドが標的とするニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は5つのタンパク質が梅花のように集合した構造を持ち、神経伝達物質アセチルコリンを受容するとカチオンを選択的に通す自身のチャネルを開くことで、神経細胞の興奮を誘起する。天然物ニコチンがヒトのnAChRと昆虫のnAChRのどちらも活性化しイオンチャネルを開く活性(アゴニスト活性)を示すのとは対照的に、ネオニコチノイドは昆虫のnAChRを選択的に活性化する。つまりネオニコチノイドは何らかの理由で昆虫のnAChRの中のアセチルコリン結合部位に強く結合し、活性を発揮するのである。これは、昆虫のnAChRがネオニコチノイドとの相互作用に有利に作用する構造を有するためである。演者はその構造の解明に取り組んだ結果、昆虫のnAChRはネオニコチノイドに特有のマイナスの電荷を帯びた構造との相互作用に有利にはたらくプラスの電荷を帯びた構造をもち、哺乳動物のnAChRにはこうした構造がなく、むしろネオニコチノイドを遠ざけるマイナスの電荷を帯びた構造を有することを突き止めた。本講演では、このような成果のみならず、ネオニコチノイドはどれもが同じようにnAChRと相互作用しないことをも紹介する。
著者
阿南 弥寿美 江幡 柚衣 小椋 康光
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-195, 2016 (Released:2016-08-08)

セレン(Se)やテルル(Te)は硫黄と同じ第16族元素であり、類似した化学的性質を示す。生体必須元素であるSeは、化学形態によって生理活性や毒性が異なることが知られているが、非必須元素であるTeについて化学形態に着目した情報は少ない。最近我々の研究グループは、Se代謝能が高く様々なSe含有アミノ酸やその誘導体を産生するニンニクに無機Te化合物のテルル酸を曝露すると、Te含有アミノ酸を含む複数のTe代謝物が産生されることを報告した。本研究では、植物が産生するTe代謝物の動物への生体影響を評価するために、テルル酸を曝露したニンニクの葉をラットに投与し、Teの体内挙動および毒性を解析した。 雄性Wistar系ラットにテルル酸を曝露したニンニクの葉懸濁液(garlic Te群)、比較としてテルル酸(tellurate群)を0.1 mg Te/kg体重/日となるよう7日間経口投与した。対照群には精製水を投与した。7日間の尿と、解剖して得られた臓器および血中のTe濃度をICP-MSで分析した。また、ALT, AST, BUNなど10項目の生化学パラメータを測定した。 Te濃度測定の結果、Teを投与した両群のラットにおいて腎臓で最も高く、摂取した化学形態に依らずTeは腎臓に集積しやすいことが示唆された。Garlic Te群とtellurate 群を比較すると、臓器および血液中のTe濃度はgarlic Te群で2倍以上の高値を示し、特に全血では約10倍と顕著であった。一方、尿中Te排泄量はtellrurate群で有意に多かった。血清中の生化学パラメータ測定の結果、Teを投与した両群において、いずれのパラメータも対照群との間に有意な差は見られなかった。以上より、植物Te代謝物は赤血球に取り込まれることにより生体内に保持されやすいと示唆され、従って、長期的な摂取による毒性影響発現の可能性が懸念される。
著者
藤原 泰之 来栖 花菜 高橋 勉 三木 雄一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-156, 2016 (Released:2016-08-08)

【目的】マクロファージは、外来性異物や異物的自己成分を認識し、除去する機能を有する貪食細胞である。我々はこれまでに、多機能性タンパク質であるヌクレオリンがマクロファージ表面のスカベンジャーレセプターの一つとして機能し、変性タンパク質や変性LDL、アポトーシス細胞などを認識・除去することを明らかにしてきた。アミロイドβ(Aβ)は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の発症に深く関与するとされているが、脳血管壁にも沈着することが報告されている。本研究の目的は、マクロファージによるAβの認識・除去機能へのヌクレオリンの関与を明らかにすることである。【方法】Aβは、monomer Aβ40、monomer Aβ42および線維化させたfibril Aβ40およびfibril Aβ42を用いた。各種Aβとリコンビナントヌクレオリン(rNUC)の結合能をsurface plasmon resonance(SPR)法により検討した。フローサイトメーターを用いて、蛍光標識した各種Aβとマクロファージとの結合性を測定した。また、ヌクレオリンアプタマーであるantineoplastic guanine rich oligonucleotide(AGRO)および抗ヌクレオリン抗体を用いた競合拮抗実験を行った。【結果・考察】固定化したrNUCに対し、monomerおよびfibril Aβ40は結合しなかったが、monomerおよびfibril Aβ42は結合することが確認された。蛍光標識したmonomerおよびfibril Aβ42は腹腔マクロファージと濃度依存的に結合すること、これらの結合はAGROおよび抗ヌクレオリン抗体の共存により阻害されることが確認された。また、共焦点レーザー蛍光顕微鏡観察により、蛍光標識したmonomerおよびfibril Aβ42はマクロファージに貪食されることが観察されたが、その貪食作用は抗ヌクレオリン抗体によって有意に阻害された。以上より、マクロファージ表面のヌクレオリンは、Aβ40は認識しないが、monomer Aβ42およびfibril Aβ42の両方を取り込むレセプターとして機能していることが示唆された。
著者
岩野 英知 大谷 尚子 井上 博紀 横田 博
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S16-6, 2016 (Released:2016-08-08)

我々の身の回りには多くの化学物質があふれており、日常的に多くの化学物質に接触している。生体は、それら多くの化学物質を無毒化し、排除する効率的なシステムを備えている。たとえば、内分泌攪乱化学物質であるビスフェノールA(BPA)は、そのエストロジェン作用で大きく騒がれたが、現在では成熟した健康な大人であれば、大きな影響はないということが明らかとなった。それは、BPAが薬物代謝の第II相酵素UDP-glucuronosyltransferase (UGT)により効率的に代謝され、排泄されるからである。一方で、妊娠期にBPAを暴露すると、たとえ低容量であっても次世代に悪影響を及ぼすとの報告がある。この低容量BPAによる胎仔影響には、以下の3つのファクターが関与している、と我々は考えている。①妊娠期の母-仔間の体内動態 ②胎仔における代謝システム(グルクロン酸抱合と脱抱合) ③胎仔でのエストロジェニックな作用以外の攪乱以上の仮説をもとに、これまでに我々は以下の点を明らかにしてきた。①BPAの代謝物が胎盤を通過する可能性があること ②胎児側に移行したBPA代謝物がBPAに再変換されうること ③薬物抱合のタイプによっては、胎盤通過が異なる可能性があること ④ビスフェノール類(BPA、BPF)の妊娠期の暴露は、生まれた仔の成熟後に対して不安行動を増強すること。本発表では、これらの研究を踏まえながら、薬物抱合の役割、特に胎盤通過についての結果を中心に報告する。これまで薬物抱合反応は、薬物を排泄されるためのシステムであり、抱合体そのものの生体内での役割、影響については見いだせていなかった。生体内物質の抱合体には、排泄だけでなく運搬体としての意義があり、生体外からの化学物質も同様の過程をとる場合もあると考えている。今後、抱合体そのもの役割を詳細に検討するべきと考えている。
著者
真木 彩花 東阪 和馬 青山 道彦 西川 雄樹 石坂 拓也 笠原 淳平 長野 一也 吉岡 靖雄 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-35, 2016 (Released:2016-08-08)

ナノマテリアル(NM)は、粒子の微小化に伴い、化学反応性や組織浸透性などが向上することから、近年多くの分野で普及し、我々の生活において身近なものとなっている。一方で、NMの有用機能が、予期せぬ生体影響をおよぼす可能性が指摘されているものの、そのハザード解析、およびハザード発現機序の解明に向けた検討は殆ど進展していない。本観点から我々は、化学物質による毒性発現において重要な役割を果たすことが示されつつあるエピジェネティック修飾に焦点を当て、NMの安全性評価を進めている。本研究では、最も身近なNMである銀ナノ粒子(nAg)曝露によるエピジェネティック変異、特にDNAメチル化への影響を解析した。まずDNA全体のメチル化率への影響について検討を行った。粒子径10 nmのnAg(nAg10)をヒト肺胞上皮腺癌細胞に添加し、24時間後ゲノムDNAを抽出しメチル化率の変化を評価した。その結果、nAg10曝露によりメチル化率が減少する傾向が認められ、nAg10がDNAメチル化に影響をおよぼす可能性が示された。そこで、代表的なDNAメチル化酵素であるDnmt1への影響について検討した。細胞から核内タンパク質とmRNAを抽出し、ウェスタンブロット法とリアルタイムPCR法によりDnmt1のタンパク質とmRNAの発現量を評価した。その結果、nAg10曝露によってタンパク質発現量が減少する一方で、mRNA発現量には対照群との有意な差は認められなかった。従って、Dnmt1の発現減少は、nAg10曝露によるDnmt1の翻訳阻害または、タンパク質の分解に起因する可能性が見出された。また、nAg10曝露によるDNAメチル化への影響には、Dnmt1発現量の減少が関与する可能性が示された。今後は、他のDNAメチル化酵素への影響などを解析し、nAg10曝露によるDNA低メチル化の誘導機序について解析を進め、NMに係るエピジェネティクス研究推進への貢献を目指す。
著者
John B. MORRIS Joseph A. CICHOCKI Gregory J. SMITH
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S2-1, 2016 (Released:2016-08-08)

That respiratory defense mechanisms are stimulated by oxidants/electrophiles has long been appreciated. Our work has focused on characterizing two such defense pathways from an inhalation toxicological perspective: 1) neuronal reflex responses, initiated by the transient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1) receptor, and 2) cellular antioxidant defenses initiated via the nuclear factor erythroid 2-related factor (NRF2). TRPA1 and NRF2 are oxidant sensitive receptors expressed throughout the respiratory tract. They are activated by reactive inhaled agents (acrolein) or by local metabolic activation of inhaled or systemically delivered agents (naphthalene, acetaminophen). Exposure to inhaled and systemic oxidants in combination results in synergistic TRPA1 and NRF2 responses. Oxidant responses have also been characterized among respiratory tract regions and between electrophiles with differing reactivity. When normalized to delivered dose, inhaled oxidant/electrophile induction of pro-inflammatory genes is similar throughout the airways, however, differences exist in the NRF2-dependent antioxidant gene induction patterns between regions. Activation of both TRPA1 and NRF2 depends on toxicant interaction with sulfhydryl moieties. The oxidant exposure levels necessary for activation of TRPA1 and NRF2 responses are similar suggesting both oxidant sensors are of comparable sensitivity. While soft electrophiles, such as acrolein, react with sulfhydryls, hard electrophiles, such as diacetyl, do not. Unlike acrolein, inhaled diacetyl is only a weak activator of either neuronal reflexes or NRF2 pathways, suggesting the chemical electrophilic reactivity profiles of TRPA1 and NRF2 are comparable. Overall, the oxidant sensitive receptors TRPA1 and NRF2 demonstrate many toxicologically relevant similarities
著者
Lu CAI
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.SL2, 2016 (Released:2016-08-08)

Oxidative stress derived from various etiologies including environmental exposure, life-style changes, and systemic inflammation, can damage pancreatic β-cells, leading to the deficiency of insulin as type 1 diabetes, and also induce peripheral tissues as insulin resistance, leading to type 2 diabetes. Metabolic abnormalities in the body of individuals with diabetes cause mitochondrial superoxide overproduction that in turn activates multiple pathways: polyol pathway flux, increased formation of AGEs (advanced glycation end products), increased expression of the receptor for AGEs and its activating ligands, activation of protein kinase C isoforms, and overactivity of the hexosamine pathway, to generate excessive reactive oxygen or nitrogen species (ROSs or RNSs), which damages multiple organs, resulting in diabetic complications. Diabetic cardiomyopathy can occur independent of vascular disease, although the mechanisms are largely unknown. Current consensus is that the oxidative stress derived from metabolic syndrome causes cardiomyocyte abnormal gene expression, altered signal transduction, and the activation of pathways leading to programmed myocardial cell deaths. The resulting myocardial cell loss thus plays a critical role in the development of cardiac structural remodeling and dysfunction, “cardiomyopathy”. To support the above notion, our studies with in vitro and in vivo animal modes showed the prevention of diabetes and diabetic complications in the cardiomyocytes or transgenic mice with overexpression of antioxidant genes or supplementation of exogenous antioxidants. Among these clinical-translational antioxidants, metallothionein and its upstream nuclear transcriptional factor Nrf2 as well as their potent inducers have been received attention with greatly potential to be applied in clinics for patients with diabetes.
著者
小泉 修一 篠崎 陽一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S8-3, 2016 (Released:2016-08-08)

グリア細胞は、多彩な脳機能を制御している。従って、その破綻は脳機能に大きな影響を与える。種々の脳疾患、外傷、精神疾患、さらに各種神経変性疾患等では、先ずグリア細胞の性質が変化し、これがこれら疾患の直接の病因になり得ること、さらに疾患の慢性化、難治化に関与していることが報告され、注目を集めている。このように、脳の生理・病態生理機能と密接に関係するグリア細胞であるが、中枢に移行する種々の医薬品、化学物質、環境汚染物質等がグリア細胞に与える影響についてはほとんど知られていない。本研究では、ミクログリアが、メチル水銀(MeHg)誘発神経毒性を二方向性に制御していることを報告する。ミクログリアは、脳内環境の高感度センサーとして機能しており、低濃度MeHg(~0.1 µM)に曝露された際に、先ずミクログリアが感知・応答して様々なシグナルカスケードを活性化した。大脳皮質スライス培養標本にMeHgを添加すると、曝露初期にはミクログリアは神経保護作用を呈するが、慢性期にはむしろ神経障害作用を呈した。曝露初期の応答は(1)VNUT依存的なATP開講放出、(2)ATP/P2Y1受容体を介したMeHg情報のアストロサイトへの伝達、(3)アストロサイト性神経保護分子(IL-6、adenosine等)産生、による神経保護作用であった。慢性期は、(4)ミクログリアの炎症型フェノタイプへの変化、(5)ミクログリアのROCK活性化、(6) 炎症性サイトカイン産生・放出、による神経障害作用であった。慢性期の神経障害はこのミクログリアの応答依存的であった。最近、水俣病の慢性期の神経症状緩和に、ROCK阻害薬が有効である可能性が示唆され注目を集めている。ROCKを含むミクログリアの持続的活性化が、MeHg誘発性神経障害の分子病態と強くリンクしていること、またその制御が治療に有効である可能性についても考察する。
著者
上田 泰己
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S14-1, 2016 (Released:2016-08-08)

2000年前後の大規模なゲノム配列決定を契機に分子から細胞への階層における生命科学・基礎医学研究が変革した。ゲノムに基づくシステム科学的アプローチは分子から細胞への階層の生命現象の理解に有効であるものの細胞から個体への階層の生命現象への応用は難しい。細胞から個体の階層におけるシステム科学的アプローチを実現するためには、細胞階層での基幹技術の確立が必要不可欠である。そこで我々は、成体組織を丸ごと透明化し1細胞解像度で観察できる技術の開発に取り組んだ。我々が開発したCUBIC法は、透明化が困難な血液を豊富に含む組織をアミノアルコールによる色素除去作用により透明化することで、マウス成体全身の透明化を世界で初めて実現することに成功した(Susaki et al, Cell, 2014, Tainaka et al, Cell, 2014)。我々は、CUBIC法の持つパフォーマンス・安全性・簡便性・再現性の高さをさらに生かすために、複数のサンプルを定量的に比較可能な計算科学的な手法の開発に取り組み、取得したイメージングデータを標準臓器画像に対してレジストレーションすることで、同一領域の細胞活動変化を直接比較する計算科学的な手法の開発にも成功している。全身や各種臓器を用いた全細胞解析は、細胞と個体の階層においてシステム科学的なアプローチを提供し、解剖学・生理学・薬理学・病理学などの医学の各分野に対して、今後の貢献が期待される。参考文献1. Ueda, H.R. et al, Nature 418, 534-539 (2002). 2. Ueda, H.R. et al, Nat. Genet. 37, 187-92 (2005).4. Ukai H. et al, Nat Cell Biol. 9, 1327-34 (2007).5. Ukai-Tadenuma M. et al, Nat Cell Biol. 10, 1154-63 (2008).6. Isojima Y. et al, PNAS 106, 15744-49 (2009).7. Ukai-Tadenuma M et al. Cell 144(2):268-81 (2011).8. Susaki et al. Cell, 157(3): 726–39, (2014). 9. Tainaka et al. Cell, 159(6):911-24(2014).10. Susaki et al. Nature Protocols, 10, 1709–27 (2015)11. Sunagawa et al, Cell Reports, 14(3):662-77 (2016)12. Susaki and Ueda, Cell Chemical Biology, 23, 137-57 (2016)
著者
岡﨑 裕之 竹田 修三 竹本 幸未 水之江 来夢 田中 沙和 松本 健司 新藤 充 荒牧 弘範
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-229, 2016 (Released:2016-08-08)

【目的】糖尿病は「現代の国民病」といわれている。治療薬であるチアゾリジン(TZD)誘導体はPPARγを活性化し、アディポネクチン(AdipoQ)遺伝子の発現を亢進させることで症状を改善する。一方で、浮腫などのoff-target効果が知られている。この原因は不明であるが、TZDの物性に起因する可能性などが示唆されている。したがって、TZDとは「全く異なる化学構造」を有するPPARγの活性化剤が希求されている。ボンクレキン酸(BKA)は、ココナッツ発酵食品から単離された脂肪酸様の構造を有するカビ毒である。これまでに我々は、BKAがPPARγを選択的に活性化すること見出している(JTS., 40:223, 2015)。しかし、細胞膜透過性には課題があった。本研究では、この課題を克服し、PPARγの刺激作用を示す新規BKAアナログ合成し(9種類)、AdipoQ遺伝子および肥大化脂肪細胞に与える影響を検討した。【方法】常法により、脂肪前駆細胞であるラット3T3L1細胞をDEX/IBMX/insulinで脂肪細胞に分化させ、ピオグリタゾン(PIO)およびBKAアナログで処理し、肥大化脂肪細胞に与える効果を比較した。脂肪細胞の染色はOil Red O染色にて行い(JTS, 38:305, 2013)、脂質の定量はAdipoRedTM(Lonza)を用いた。遺伝子の発現はリアルタイムRT-PCRにて解析し、レポータージーンアッセイにてPPREの活性化を評価した。【結果および考察】既存薬のPIOを対照として、3T3L1細胞をBKAアナログで処理し、PPARγの活性化の有無を解析した。アナログの中で、BKA-#2がPIOと同程度の転写活性を示した。次に、肥大化脂肪細胞をPIOおよびアナログで処理した結果、PIOと同様にアナログにより脂肪細胞の顕著な小型化が確認された。また、AdipoQ遺伝子のレベルを解析した結果、発現が亢進していた。チアゾリジン薬の副作用に「浮腫」が挙げられる。HEK293(不死化ヒト胎児腎細胞)細胞を用いた検討で、PIOは浮腫に関与するSLC4A4のレベルには影響を与えなかったが、BKA-#2はその顕著な低下作用を示した。本研究でBKA-#2の有望性が示された。
著者
広瀬 明彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S4-2, 2016 (Released:2016-08-08)

近年の分析技術の発展により、環境由来の化学物質による汚染以外にも認可された食品添加物等の中の不純物質や調理中に生成する化学物質として、極めて微量の遺伝毒性発がん性物質が食品中に含まれていることが明らかになってきた。そのため、これらの遺伝毒性発がん物質の食品経由による曝露を可能な限り低減・管理するためには、推計学的手法を用いた定量的評価を行うことが必要となってきている。国際的な食品関連分野における評価における本格的な遺伝毒性発がん物質の定量的な評価は2005年のJECFA会議から始まり、アクリルアミドを含む遺伝毒性発がん物質に対して、ベンチマークドース(BMD)手法よって求められたBMDL(BMDの95%信頼下限値)と曝露量の比を表す曝露マージン(MOE)が、JECFAとして初めて定量的な評価指標として導入された。一方で水質や大気中などの汚染物質の基準値設定では、以前よりBMDLから求める直線外挿法による10-5等のリスクに相当する曝露量が基準値として採用されている。このことからMOEはリスクの大きさを直接示す指標であると捉えられがちであるが、基準値への適用も含めてリスク管理のための定量的指標の一つに過ぎない。現実的に動物試験や疫学研究で発がん性の有意差が検出可能な曝露レベルにおける誘発データのみでは、10-5レベルのリスクに相当する低用量域の曝露モデルを確立することができないために、生物学的に最も保守的なモデルに近い直線外挿モデルを管理の基準として採用せざるを得ない事情によるものである。今後リスク推定をより精緻なものにするためには、低用量域の曝露における発がん性機序や体内動態などを定量的に説明できるモデルの構築が望まれる。本講演では、食品安全委員会が本年にその健康影響評価を取り纏めたアクリルアミドの事例を中心にBMD手法の基本原理とその適用事例、今後の課題について解説する。