著者
新里 法子 番匠谷 綾子 大谷 聡子 五藤 紀子 岩本 優子 山﨑 健次 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.237-242, 2012-06-25 (Released:2015-03-17)
参考文献数
21
被引用文献数
1

児童虐待の相談件数は近年急激な増加傾向を示しており,社会全体で早急に解決すべき重要な課題となっている。我々は,広島県内の2 か所の児童相談所および子ども家庭センターの一時保護施設に入所した要保護児童を対象に,齲蝕経験者率,未処置歯所有者率,一人平均齲蝕経験歯数および一人平均未処置歯数について調査し,一般の児童と比較検討を行った。その結果,要保護児童は齲蝕経験者率および未処置歯所有者率が高く,一人平均齲蝕経験歯数および一人平均未処置歯数が多いことが示された。また,虐待により保護された要保護児童と,その他保護者の長期療養などの理由で入所した要保護児童の齲蝕罹患状況に,大きな差は認められなかった。要保護児童全体の齲蝕罹患率が高いことから,要保護児童の生活環境自体が齲蝕を誘発しやすいことが推測された。歯科医療従事者は小児の多発齲蝕や長期にわたる齲蝕の放置などを通じて,保護者の養育放棄とそれに伴う養育環境の悪化に気付くことで,虐待を早期に発見できる可能性があることが示唆された。
著者
吉村 剛 鈴木 淳司 中岡 美由紀 坪井 文 大谷 聡子 大原 紫 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.415-422, 2008-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
19

小児口腔から検出されるプラークは多くの場合白色であるが,しばしば黄褐色のプラークが認められる。本研究では,黄褐色プラーク(以下黄褐色群)と白色プラーク(以下白色群)の相違点を臨床的・細菌学的に明らかにすることを目的として,当科を受診した患児30名を対象とし,プラークの菌種構成,酸産生能,齲蝕罹患状態,プラークより分離された齲蝕原性菌(S.mutans,S.sobrinus)株の耐酸性について比較検討を行い,以下の結果を得た。1.齲蝕罹患者率と平均齲蝕罹患歯率を比較したところ,黄褐色群は白色群より有意に低かった。2.プラークの酸産生能についてカリオスタットを用いて検討した結果,黄褐色群のリスクが有意に低かった。3.菌種特異的なPCRを用いて,プラークに含まれる菌種を分析した結果,黄褐色群では,齲蝕原性菌の検出率は低く,S.mutansとS.sobrinusの混合感染も確認されなかった。また,非齲蝕原性菌(S.sanguinis,S.mitis)の検出率が高かった。一方,白色群では,齲蝕原性菌の検出率が高く,S.mutansとS.sobrinusの混合感染も多く認められ,非齲蝕原性菌の検出される割合も低かった。4,各プラーク群より分離された臨床株を用いて,耐酸性能を検討したところ,白色群から得た分離株は黄褐色群から得た株よりもやや高い耐酸性能を示した。以上より,黄褐色プラークは,菌種の分布,齲蝕誘発性が異なるために白色プラークよりも低い齲蝕リスクを示すことが明らかとなった。
著者
三浦 梢 大谷 聡子 鈴木 淳司 海原 康孝 光畑 智恵子 小西 有希子 河村 誠 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-19, 2011-03-25
参考文献数
17

近年,小児の歯肉のメラニン色素沈着は受動喫煙が関係しているとの報告が多くある。しかし受動喫煙環境下にない小児の歯肉にもメラニン色素がみられることがあり,これについて検討を行った報告はあまりない。そこで,小児の歯肉のメラニン色素沈着の要因となる可能性のある項目ついて研究した。3~11 歳の日本人小児50 名を対象に,歯肉のメラニン色素沈着を,沈着濃さと沈着範囲の2 項目で判定した。沈着濃さは「ない」「極めて薄い」「薄い」「濃い」の4 段階で,沈着範囲はHedin の分類を参考に「0」色素沈着を認めない,「1」1~2 箇所の独立した沈着を認める,「2」3 箇所以上の独立した沈着を認める,「3」色素沈着が帯状をなし左右で独立している,「4」色素沈着が帯状をなし左右で連続している,の5 段階で評価した。調査項目は口呼吸,上顎前歯部歯肉の腫脹,笑った時の上顎歯肉の露出,皮膚の色,日焼け,頭髪の色,唾液中のコチニン濃度,同居者の喫煙状況(同居者の現在および過去における喫煙,喫煙年数あるいは禁煙後の経過年数,喫煙場所,タバコの銘柄,日平均の喫煙本数,同居者以外からの受動喫煙の可能性),偏食,年齢である。これらの項目とメラニン色素沈着との関係を統計学的に分析した結果,「沈着濃さ」に対し日焼け,喫煙者との同居年数,頭髪の色,口呼吸,年齢が,「沈着範囲」に対し日焼け,喫煙者との同居年数,頭髪の色がそれぞれ正に相関した。