著者
甲田 茂樹 安田 誠史 杉原 由紀 大原 啓志 宇土 博 大谷 透 久繁 哲徳 小河 孝則 青山 英康
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.6-16, 2000-01-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
34
被引用文献数
6 23

運輸労働者の健康問題に影響を与える職業要因を評価するために, 1997年に541名の運輸労働者を対象に労働・勤務条件, 運転労働に係わる職業性要因, 身体の自覚症状や疾病罹患の状況について質問紙法で調査を実施した.有効回答率は85.7%, 134名の集配業務に従事する運転労働者(集配群)と199名の長距離輸送に従事する運転労働者(長距離群), 71名の事務職員を分析対象とした.まず, 三つの群での職業性要因と健康問題を検討するために, 労働・勤務条件や身体の自覚症状や疾病罹患の状況を比較検討した.ついで, 集配群と長距離群における職業要因が健康問題に与える労働関連性を検討するために, ロジステック回帰分析を実施し, オッズ比と95%CIを計算した.健康問題に影響を与える職業要因, すなわち, 不規則交代制勤務, 労働環境, 作業姿勢, 重量物取り扱い, 多い仕事量や長時間労働への不満, 休憩時間の取得困難の要因で, トラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.耳鳴り, 頚の痛み, 腰痛の自覚症状と高血圧, 胃十二指腸潰瘍, 腰背部打撲, むち打ち症, 痔疾の疾患でトラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.ロジスティック回帰分析の結果では, 年齢やBMI, 喫煙習慣を以外の多くの労働関連要因で, 身体の自覚症状や疾病罹患に関する有意に高いオッズ比を認めた.集配群の循環器疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 経験年数, 腰の捻転動作, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.消化器系疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 狭い作業空間, 車中泊, 長い走向距離, しゃがみ姿勢, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.集配群の自覚症状の耳鳴りに関するオッズ比は, 経験年数, 長時間労働, 狭い作業空間, 車中泊, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.腰痛や頚部痛等の筋骨格系疾患及び関連したに自覚症状に関するオッズ比は, 残業, 振動, 狭い作業空間, 座り姿勢, 少ない休憩時間で有意に上昇していた.疲労症状に関するオッズ比は, 少ない休憩時間, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.運輸労働者の健康問題を解決するためには, 上記の労働・勤務条件や運転労働に関連した課題を改善する必要がある.