著者
大野 敏明 土井 善晴 鈴木 謙介 河村 明子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.72-89, 2018

60年続く料理番組の老舗『きょうの料理』。しかし今やレシピはスマートフォンで手軽に手に入り、さらには、料理はわざわざ手作りしなくても買えばすむ時代。番組は、そのあり方が問われているとも言える。NHK放送文化研究所は2018年3月、「NHK文研フォーラム2018」内でシンポジウム「きょうの料理60年の歴史とこれから」を開催した。料理研究家の土井善晴氏、関西学院大学社会学部准教授の鈴木謙介氏、『きょうの料理』の制作に40年間携わるフリーディレクターの河村明子氏が登壇。番組の歴史を振り返りながら、手作りの家庭料理を伝える意味、番組が果たしてきた役割、この先のあり方などを考えた。土井氏は番組の役割を「手作りの家庭料理を通し、自分たちの暮らしを自分たちで作る力を発見させてあげること」だと語った。鈴木氏は番組が近年力を入れるレシピのネット展開ついて「お金にはならなくとも公共性の高いコンテンツを提供できることに強みがある」と述べた。河村氏は番組の今後に向け「伝え手の顔が見え、温もりが伝わり、いつも同じ時間に見られる安心感が『きょうの料理』にはある。60年続けてきたスタンスは、そのまま変えずに続けるが勝ちという気がする」と語った。変わる時代の中で"老舗"料理番組は、この先どこへ向かうべきなのか。本稿ではシンポジウムの内容を再構成し、未来に向けた示唆を、番組60年の歴史や登壇者の言葉の中に見出す。
著者
宇治橋 祐之 大野 敏明
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.2-25, 2018

2017年、『きょうの料理』が放送60周年、『きょうの健康』、『趣味の園芸』が放送50周年を迎えた。暮らしに身近なテーマを扱ってきたこの3番組は、タイトルやテーマソングとともに、多くの人に親しまれ続けている。共通するのは、豊かな生活を送るために役立つジャンルで、時代に合ったテーマを扱いつつ、少し先んじた内容も取り上げてきたことである。さらにテキストが発行されてきたこともあり、ウェブへの展開も先進的に進められてきた。『きょうの料理』で紹介されたレシピは約4万点。基本の料理を紹介しつつ、時短料理など時代にも対応しながら役に立つレシピにこだわり続け、番組から、レシピ検索サイト、ショート動画、SNSなどにも展開してきた。『きょうの健康』の放送回数は50年間で約1万回程度。伝染病の防疫から、近年の生活習慣病やがん対策まで、健康維持と予防に努めてきた。その積み重ねがウェブサイト「NHK健康ch」に繋がっている。『趣味の園芸』は、時代に合わせて盆栽、ガーデニング、野菜づくりなどをとりあげつつ、育てるだけでなく、飾ったり撮ったりなどの楽しみ方を提案、視聴者のコミュニティ作りも進めている。ソーシャルネットワーク時代を迎え、メディアが多様化する中、現在Eテレで放送中の3番組は、老舗番組のブランド、シンプルな演出を守りつつ、新たなメディアへの展開を続けている。
著者
山田 潔 大野 敏明
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.58-82, 2018 (Released:2018-12-20)
被引用文献数
1

共生社会実現の起爆剤として期待されるパラリンピック。その放送は、障害者にどう視聴され、受け止められているのであろうか。NHK放送文化研究所では2018年3月~6月にかけ、障害者を対象にしたWEB調査を実施。パラリンピック放送の視聴実態、放送から受けた影響、字幕放送・解説放送・手話放送といった「ユニバーサル放送」の評価などを聞いた。調査は、知的障害、精神障害等を含む障害者全般に対して行ったが、本論考ではパラリンピックの主たる参加対象である肢体不自由、ユニバーサル放送の主たるサービス対象である視覚障害、聴覚障害の3障害に該当する「身体障害者」の調査結果を抜粋。自由回答やインタビューから得られた“生の声”と合わせ、東京パラリンピックのコンテンツ制作や、共生社会実現に向けた、メディアのあり方への示唆を探った。調査結果は、回答者がWEBでの調査に回答できる人に限られるなど、代表性があるものとは言えない。しかし、パラリンピックの放送を巡る同様の調査に先行事例がないことから、放送事業者である我々にとっては有意義なものとなった。特に、障害者のメディアおよびユニバーサル放送の利用や評価は、デジタルメディアの活用も含め、障害者の情報アクセシビリティ向上に向けての参考となり、パラリンピック放送に対する賛否両論の多様な意見は、メディアが共生社会実現に寄与していく上で、示唆に富んだものであった。