著者
鈴木 謙介
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.499-513, 2005-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

「セキュリティの強化」と「監視」を巡る問題が近年になって特に注目されるようになった.ここでいうセキュリティの強化とは, 単なる監視カメラの設置による監視の氾濫を指すのではなく, 予防的措置の極大化によって, あるシステムにとってふさわしくない人間をあらかじめ排除するという動きの全体を指している.こうした監視の強化と排除に対して批判を加えることは一見容易に見えるが実はそうではない.その理由は, 監視を批判しようとすることが監視によって実現される価値への批判へとすり替えられていくからである.例えば監視による排除が階層格差を前提にしている場合, それは格差批判にはなっても監視そのものを批判することはできないのだ.本稿ではこうした監視批判の困難を乗り越えるために, どのようなシステム作動によってセキュリティの強化が行われているのかを分析した.その結果明らかになったのは, 監視を行うことそれ自体がマシンによるデータ管理の自動化によって監視対象を外部から不可視化する作用を持つこと, そして, そのような外部に対する不可視化がさらに内部に対して過剰な可視化を呼び出し, 内部のロジックが一種の道徳律として機能するということだ.監視批判が困難なのは, この2方向の力の作動が存在するからだと考えられる.
著者
鈴木 謙介
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-12, 2019 (Released:2021-03-31)
被引用文献数
1

本稿では、「インスタ映え」という新しい現象を対象に、ソーシャルメディア時代における観光がどのような特徴を持つのかについて、主として社会学の立場から検討した。 インスタ映えは、メディアを経由して流入する情報が空間の意味を上書きするという〈多孔化〉の議論によって一部説明できる。しかしながらそこではインスタ映えについては検討されていない。そこで本稿ではインスタ映えについて(1)消費者研究における「関与」の程度の違いがもたらす効果、(2)経営学における「ほんもの」に関する議論を参照しながら理論的分析を行った。 その結果、以下のような知見を得た。すなわち、(1)インスタ映えは、低関与な消費者が自らの需要を満たすために、シンボリック属性に関する情報探を行う際に適合的である。(2)インスタ映えする観光地のオーセンティシティは、ソーシャルメディア上のコミュニケーションが生み出すコードと、観光地のマテリアリティの相互作用が生み出している、というものである。
著者
大野 敏明 土井 善晴 鈴木 謙介 河村 明子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.72-89, 2018

60年続く料理番組の老舗『きょうの料理』。しかし今やレシピはスマートフォンで手軽に手に入り、さらには、料理はわざわざ手作りしなくても買えばすむ時代。番組は、そのあり方が問われているとも言える。NHK放送文化研究所は2018年3月、「NHK文研フォーラム2018」内でシンポジウム「きょうの料理60年の歴史とこれから」を開催した。料理研究家の土井善晴氏、関西学院大学社会学部准教授の鈴木謙介氏、『きょうの料理』の制作に40年間携わるフリーディレクターの河村明子氏が登壇。番組の歴史を振り返りながら、手作りの家庭料理を伝える意味、番組が果たしてきた役割、この先のあり方などを考えた。土井氏は番組の役割を「手作りの家庭料理を通し、自分たちの暮らしを自分たちで作る力を発見させてあげること」だと語った。鈴木氏は番組が近年力を入れるレシピのネット展開ついて「お金にはならなくとも公共性の高いコンテンツを提供できることに強みがある」と述べた。河村氏は番組の今後に向け「伝え手の顔が見え、温もりが伝わり、いつも同じ時間に見られる安心感が『きょうの料理』にはある。60年続けてきたスタンスは、そのまま変えずに続けるが勝ちという気がする」と語った。変わる時代の中で"老舗"料理番組は、この先どこへ向かうべきなのか。本稿ではシンポジウムの内容を再構成し、未来に向けた示唆を、番組60年の歴史や登壇者の言葉の中に見出す。
著者
江部 晃史 久保 雅昭 山下 茂雄 鈴木 謙介 福島 隆史 河﨑 賢三 山口 智広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0939, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 投球動作はコッキング期から加速期にかけて外反ストレスが生じ内側に牽引ストレス、外側には圧迫力が加わる。この外反ストレスは投球肘障害を招く一要因である。Parkらは尺側手根屈筋と浅指屈筋を合わせた筋活動時に外反角度が有意に減少すると報告しており、外反ストレスを制御する働きがあるといわれている。我々は前回、投球時に疼痛を有する選手を対象に手指対立筋の筋機能における客観的評価として手指対立筋筋力を数値化し検討を行った。結果より有症状選手における手指対立筋の筋機能低下が示唆された。そのことから手根骨の不安定性による尺側手根屈筋の機能低下が考えられた。宮野らは握力発揮時には橈側手根伸筋が手関節固定、母指球筋が母指の固定に働き浅指屈筋が握力発揮に主として働いていると考察している。しかしながら、投球肘障害におけるピンチ力と握力の関連性についての報告は少ない。そこで今回我々は高校野球選手におけるピンチ力と握力の傾向を調査した。投球時に肘疼痛を有する選手においてピンチ力との関連性に若干の知見を得たので報告する。【方法】 2011年3月から10月に当院スポーツ整形外科を受診した選手で、初診時筋力測定が可能であった選手のうち高校生のデータを抽出し対象とした。そのうち、投球時に肘疼痛が出現した選手を疼痛群19名(15歳~18歳、平均年齢:15.5歳)、比較対象として既往、来院時に肘疼痛を有さない選手を非疼痛群18名(全例年齢15歳)とした。ピンチ測定はピンチ計を用いて、投球側、非投球側を計測した。対象となる対立手指は、環指/母指、小指/母指とした。測定条件として、立位肘関節伸展位(体側に上肢を下垂させた状態)にて行った。握力測定は握力計を用いて、ピンチ測定と同様の条件で測定した。得られた筋力値を投球側と非投球側の比較と疼痛群と非疼痛群で比較した。尚、統計学的検討にはT検定を用い有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象選手が未成年のため保護者に研究の趣旨を説明し同意を得た。【結果】 ピンチ力では疼痛群の小指/母指は投球側0.96kg、非投球側1.15kgであり投球側が有意に低値であった。環指/母指は投球側2.76kg、非投球側2.48kgであり有意差を認めなかった。握力では疼痛群において投球側41.89kg、非投球側44.05kgであり、有意差を認めなかった。非疼痛群ではピンチ力、握力ともに投球側-非投球側間で有意差を認めなかった。また、疼痛群-非疼痛群間での比較についても有意差は認めなかった。【考察】 今回の結果より有症状選手において投球側小指の筋力低下が認められた。我々の先行研究と同様の結果が得られた。宮下らは小指球筋群の収縮不全は手関節尺側の機能低下を招き、結果として尺側手根屈筋の収縮力を低下させていると報告している。また、握力においては疼痛群、非疼痛群ともに有意な差を認めなかった。河野らは競技特性について検討しており野球選手は握力に左右差がないと報告している。今回、有症状選手でも同様の結果を得られ浅指屈筋群を含む前腕筋群の筋機能が保たれていることが示唆された。Parkらは浅指屈筋単独の筋活動では外反角度は減少傾向にあるが有意差はなかったと報告している。よって有症状選手は前腕筋群の機能は保たれているが、手内在筋の筋機能が低下したことにより投球時の外反ストレスによって肘疼痛を有したと考えられた。このことから高校野球選手においては握力測定のみならずピンチ測定を行うことが投球肘障害の機能評価として重要であり、今後の課題として各年代に対して傾向を調査し有効性を明確にしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究より高校野球選手で投球時に肘疼痛を有する選手において投球側小指対立筋の筋力低下を認めた。一方、握力では有意差を認めなかった為、投球肘障害の機能評価を行う上では握力測定のみならずピンチ測定を行うことが重要であると考えられる。