著者
大類 清和 生原 喜久雄 相場 芳憲
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.389-397, 1993
被引用文献数
10

スギ・ヒノキからなる五つの小集水域において,土壌水や渓流の水質調査を行い,土壌から渓流への水質変化過程について検討した。調査地は群馬県の渡良瀬川上流に位置する東京農工大学演習林内の小集水域である。土壌水から渓流水へとイオン組成が大きく変化し,とくにNa<sup>+</sup>とHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>の著しい濃度上昇がみられた。pHは土壌水では場所により4~7程度の値であったが,渓流水はどの小集水域でも7前後であった。Al<sup>3+</sup>の溶出はpH4.8付近以下で顕著にみられた。 pH4.8以上では,土壌水,渓流水ともCa<sup>2+</sup>濃度は主要陰イオン合計(Cl<sup>-</sup>+NO<sub>3</sub><sup>-</sup>+SO<sub>4</sub><sup>2-</sup>+HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>) の濃度と強い正の相関関係がみられたが,主要陰イオン合計の濃度が同じでも土壌水に比べ渓流水でCa<sup>2+</sup>濃度は低かった。 pH4.8以上ではSiO<sub>2</sub>濃度はHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>濃度およびpHと正の相関関係がみられ,とくに渓流水はこれらの値が高く,母材風化による影響を強く受けていることが示唆された。 pH4.8未満では,逆にSiO<sub>2</sub>濃度はpHと負の相関関係がみられ,またH<sup>+</sup>濃度はNO<sub>3</sub><sup>-</sup>濃度と正の相関関係があり,硝化作用などによるH<sup>+</sup>の著しい増加で粘土鉱物の破壊の促進が示唆された。