著者
越智 亮 片岡 保憲 太場岡 英利 沖田 学 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0437, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 心的な“緊張”が動作遂行能力に負の影響をもたらすことは日常生活において頻繁に見受けられる.これは,普段なら対応づけられている主観的な努力と客観的に要求された値との間の対応関係が乱れることが一つの原因として挙げられる可能性がある.本研究では,表面筋電計を用い,心的負荷を加えることにより筋活動量とその再現能力がどのように変化するかについて肘関節での等尺性収縮にて検証する. 【方法】 健常男性12名を被験者とした.平均年齢20.8±4.2歳,平均体重61.9±7.6kgであった.測定肢位は背もたれのない座位とした. BT(base task):肘関節屈曲90°,前腕回外90°位にて,重量負荷となる容器(プラスティック製バケツに各被験者の体重の5%にあたる水を入れ蓋をしたもの)を母指球と小指球の直上にくるよう置き,容器取手部分を注視させ,20秒間保持させた. BT-rep(BT-reproduce):BT後,即座に出力再現課題を試みさせた.固定された机の裏面に肘関節屈曲90°になるよう手掌面を当て,BTと同じ位の出力になるよう肘関節屈曲の等尺性収縮を行わせ,力量調節が完了した時点で被験者自身に合図させてから10秒間保持させた. MLT(mental load task):BT後10分間の休憩を与えた後,BTと同様の容器を用い上肢負荷を与え,容器取手上にガラス製のコップに水を満水にして置いた.容器の重さとコップの水の総重量はBTの負荷重量と一致するよう,容器内の水の量を調節した.コップ内の水を絶対にこぼさないように指示し,コップを注視させ20秒間保持させた. MLT-rep:BTと同様,出力再現課題を試みさせた.尚,BT,MLT共に課題間に休息を与えずに3施行ずつ行い,課題施行前後に血圧及び脈拍数を測定した. 筋活動の導出にはNoraxon社製MyoSystem1200を用い,被験筋は利き腕の上腕二頭筋,腕橈骨筋,上腕三頭筋とした.全課題において,遂行開始時より3秒後から5秒間のEMG波形を導出し,被験者の5秒間の最大等尺性随意収縮を100%とし,正規化した.統計処理には対応のあるt-検定を用いた.再現課題は絶対値の差(BT-rep-BT,MLT-rep-MLT)を算出し,平均値と標準偏差から散布度の比較を行った.【結果】 BTとMLTの比較において,MLTでは上腕二頭筋,腕橈骨筋,上腕三頭筋に筋活動量の有意な増加(p<0.001)が認められた.血圧及び心拍数もMLTで有意に増加(p<0.001)していた.絶対値の差の平均と標準偏差を比較した結果,MLT-repでバラツキが大きかった. 【考察】 ある動作のための筋活動量は脳・神経系によって無意識にプログラムされており,この過程に心理的修飾が加わることで適切な力量調節能力が損失させられ,筋出力の再現能力も低下することが考えられた.