- 著者
-
山田 崇史
三島 隆章
坂本 誠
和田 正信
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.A0423, 2005 (Released:2005-04-27)
【目的】これまでに我々は,甲状腺機能亢進症ラットのヒラメ筋において,興奮収縮連関の機能を検討し,筋原線維レベルにおける機能の変化が,筋力低下の原因の1つであることを報告した.しかしながら,本症では筋原線維タンパク質の総量に変化が認められないことから,筋原線維において何らかの質的変化が生じているものと推察される.近年,筋の発揮張力は,興奮収縮連関に関与するタンパク質の酸化還元動態に影響を受けることが示されている.したがって本研究の目的は,甲状腺機能亢進症において,発揮張力と筋原線維タンパク質の酸化還元動態との関連性を明らかにし,本症に伴う筋力低下の機序について検討することである.【方法】9週齢のWistar系雄性ラット34匹を対象とし,これらを対照群および実験群に分けた.実験群のラットには,甲状腺ホルモンを毎日300 μg/kgずつ21日間投与した後,麻酔下でヒラメ筋を採取した.その後,直ちにリンガー液中で単収縮張力および強縮張力を測定し,筋重量および筋長から単位断面積あたりの張力を算出した.また,ヒラメ筋全体の酸化還元動態を明らかにするために,筋に含まれる還元型グルタチオン(GSH)の量を,また,筋原線維タンパク質の酸化的修飾の有無を検討するために,高濃度K+溶液により抽出した筋ホモジネイトにおけるカルボニル基の量を測定した.【結果および考察】21日間の甲状腺ホルモンの投与により,ラットヒラメ筋における単収縮張力および強縮張力は有意な低値を示した.また,対照群に比べ実験群において,GSHの量は有意な低値を,また,カルボニル基の量は有意な高値を示した.細胞内において,GSHは抗酸化物質として作用していることから,甲状腺機能亢進症では,筋線維が酸化ストレスを受けると考えられる.一方,カルボニル基は,タンパク質が不可逆的な酸化的修飾を受けると形成されることが示されている.本研究で用いた高濃度K+溶液による抽出法では,溶液に含まれるタンパク質のほとんどが筋原線維であり,これらのタンパク質が酸化的修飾を受けていると考えられる.本症では基礎代謝の亢進に伴い,ミトコンドリア呼吸が増大し,正常なものと比べ活性酸素種がより多く発生することが報告されており,これらが筋原線維タンパク質の酸化に関与している可能性が高い.また,筋原線維タンパク質のなかでも,アクチンおよびミオシンは特に酸化的修飾を受けやすいことが示されている.これらのことから,甲状腺機能亢進症を発症している個体の筋では,酸化ストレスによってこれら2つのタンパク質の機能が低下し,そのことが筋力の低下を誘起していると推察される.