著者
沖田 学 森岡 周 宮本 謙三 八木 文雄
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.541-545, 2007 (Released:2008-01-31)
参考文献数
19
被引用文献数
3

立位姿勢バランスの維持に問題を有する脳腫瘍の症例へ足部機能に焦点を当てた運動療法を施行し,改善が認められたので報告する。この運動療法とは,重心の変化を知覚し制御する役割を担う足部の能力に対して,足部の変化を制御しながら変化を知覚して判断する認知過程を通じて運動学習していく認知運動課題である。この課題として,縦軸もしくは横軸の不安定板を水平保持させながら,両端のいずれかに配置した重量負荷の位置を判断させた。これを左右足に1日各10回施行し,正判断数を記録した。また,開眼・閉眼下における立位姿勢動揺を3,4日ごとに計測した。課題の進行に伴い立位重心動揺が減少したことから,視覚性外部情報ではなく,内部の感覚情報を手掛かりとして重心偏位を認知することにより,効果的で精密な立位姿勢バランス制御の達成が可能になることが示唆された。
著者
吉岡 美佐子 沖田 学 佐々木 克尚 森垣 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bf0848, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 顔面神経麻痺後遺症のなかで病的共同運動は頻度が多く,難治性である.病的共同運動は,顔面神経の過誤あるいは迷入再生に伴って,同じ側の顔面神経支配筋が同期して収縮する顔面筋の運動である.顔面神経麻痺の治療法として,従来から顔面筋の粗大筋力訓練,低周波治療などが用いられてきた.しかし,H.Diels(1998)によれば,それらの運動が病的共同運動を増悪させることから用いないとされている.今回,脳梗塞により中枢性顔面神経麻痺を呈した症例に対し,顔面筋の病的共同運動の抑制を目的に,口角部の求心情報に着目して認知運動療法を行った結果,改善が認められたため報告する.【症例紹介】 症例は,右脳梗塞により左下肢の脱力感,左口角の麻痺を訴え当院に入院となった90歳代の男性である.発症から2日後の初期評価では,Br. stageは全てstage6,額のしわ寄せは可能であったが患側口角の低下がみられ,中枢性顔面神経麻痺が認められた.顔面神経麻痺の評価として,Sunnybrook Facial Grading System(SFGS)が72/100点,Yanagihara40点法(Y法)が26/40点であり,いずれも上歯を見せる,口笛を吹くといった口の運動時に口角部の部分麻痺がみられた.ADL面では食事の際,患側口角部から水分の流涎があり,それを防ごうと頚部伸展位で嚥下を行い,その結果むせ込みが認められた.主訴として口が動きにくいと訴えがあり,安静時に左右口角の位置の違いや,患側の口輪筋部の触圧覚が「わかりづらい」と述べていた.また,安静時,運動時ともに左右の口角,口輪筋へ注意を向けることが可能だが促さないと自ら注意を向けることが困難であった.【説明と同意】 対象者及び家族には,本研究の主旨を口頭で説明し書面にて同意を得た。【経過】 本症例は患側口角部の感覚が不明瞭で,顔面を動かした際の口角部の感覚フィードバックが不十分なため,過剰努力によって粗大な運動になる可能性が考えられた.この病態に対し,2週間後の目標を患側口角部に自ら注意を向けることが出来る,6週間後の目標を患側口角部の求心情報を正確に判断し,安静時,開口時ともに左右口角部の対称性を獲得することを目標に,二つの課題を40日間実施した.一つ目の課題は,求心情報を正確に判断するとともに口角部への注意を促すことを目的に,閉眼下にて左右口角部への硬度識別課題と,素材の識別課題を行った.方法として,硬度が異なる4種類のスポンジと,柔らかい素材,キメが粗いザラザラとした素材,キメが細かいザラザラとした素材の3種類を用いて,閉眼にて硬度の識別と,素材の識別を行った.経過に応じて段階的に(1)健側での触覚,圧覚のイメージを患側へ移すこと,(2)左右口角部へ触覚・圧覚刺激を加え,左右の触覚・圧覚の違いを識別すること,(3)患側での2種類の触覚・圧覚の違いを意識するように教示を行った.二つ目の課題では,実際の運動と運動感覚の一致を目的に,小さくゆっくりとした運動を行い,鏡を用いてのフィードバック課題を治療介入当初から実施した.その結果,発症から約40日後の最終評価では,SFGSが91/100点,Y法が32/40点と,特に口輪筋部の麻痺の改善が認められ,安静時や開口時の口角部が左右対称となった.また,最終評価では患側口角部の感覚が「やわらかくて沈み込んでくる感じ」などと述べており,内省の変化もみられた.さらに,初期評価では安静時,運動時ともに促しがなければ左右の口角,口輪筋へ注意を向けることが困難であったが,最終評価では促しがなくても,自ら注意を向けることが可能となった.さらに食事場面においては,ゆっくりとした口角部の運動であれば患側口角部からの流涎もなく,むせ込みも認められなかった.【考察】 今回,病的共同運動を軽減させるために求心情報に注意を向け運動プログラムの再構築を図った.患側の口輪筋部の求心情報を正しく判断し,努力性収縮を制限した結果,異常な病的共同運動の抑制が可能となり,顔面の対称性の獲得へと繋がったと考えられた.【理学療法学研究としての意義】 四肢に対するリハビリテーションは既に,運動学習の原理に沿ったかたちで求心情報に注意を向け,運動プログラムの再構築を図っていくことが臨床展開されている.顔面神経麻痺の回復過程も構造的特殊性はあるものの,それらを含えたアプローチが重要と考えた.
著者
越智 亮 片岡 保憲 太場岡 英利 沖田 学 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0437, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】 心的な“緊張”が動作遂行能力に負の影響をもたらすことは日常生活において頻繁に見受けられる.これは,普段なら対応づけられている主観的な努力と客観的に要求された値との間の対応関係が乱れることが一つの原因として挙げられる可能性がある.本研究では,表面筋電計を用い,心的負荷を加えることにより筋活動量とその再現能力がどのように変化するかについて肘関節での等尺性収縮にて検証する. 【方法】 健常男性12名を被験者とした.平均年齢20.8±4.2歳,平均体重61.9±7.6kgであった.測定肢位は背もたれのない座位とした. BT(base task):肘関節屈曲90°,前腕回外90°位にて,重量負荷となる容器(プラスティック製バケツに各被験者の体重の5%にあたる水を入れ蓋をしたもの)を母指球と小指球の直上にくるよう置き,容器取手部分を注視させ,20秒間保持させた. BT-rep(BT-reproduce):BT後,即座に出力再現課題を試みさせた.固定された机の裏面に肘関節屈曲90°になるよう手掌面を当て,BTと同じ位の出力になるよう肘関節屈曲の等尺性収縮を行わせ,力量調節が完了した時点で被験者自身に合図させてから10秒間保持させた. MLT(mental load task):BT後10分間の休憩を与えた後,BTと同様の容器を用い上肢負荷を与え,容器取手上にガラス製のコップに水を満水にして置いた.容器の重さとコップの水の総重量はBTの負荷重量と一致するよう,容器内の水の量を調節した.コップ内の水を絶対にこぼさないように指示し,コップを注視させ20秒間保持させた. MLT-rep:BTと同様,出力再現課題を試みさせた.尚,BT,MLT共に課題間に休息を与えずに3施行ずつ行い,課題施行前後に血圧及び脈拍数を測定した. 筋活動の導出にはNoraxon社製MyoSystem1200を用い,被験筋は利き腕の上腕二頭筋,腕橈骨筋,上腕三頭筋とした.全課題において,遂行開始時より3秒後から5秒間のEMG波形を導出し,被験者の5秒間の最大等尺性随意収縮を100%とし,正規化した.統計処理には対応のあるt-検定を用いた.再現課題は絶対値の差(BT-rep-BT,MLT-rep-MLT)を算出し,平均値と標準偏差から散布度の比較を行った.【結果】 BTとMLTの比較において,MLTでは上腕二頭筋,腕橈骨筋,上腕三頭筋に筋活動量の有意な増加(p<0.001)が認められた.血圧及び心拍数もMLTで有意に増加(p<0.001)していた.絶対値の差の平均と標準偏差を比較した結果,MLT-repでバラツキが大きかった. 【考察】 ある動作のための筋活動量は脳・神経系によって無意識にプログラムされており,この過程に心理的修飾が加わることで適切な力量調節能力が損失させられ,筋出力の再現能力も低下することが考えられた.
著者
日岡 明美 沖田 学 片岡 保憲 八木 文雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.65-69, 2010-04-20
参考文献数
15

【目的】本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者に共感覚を問う課題を提示し,抽象概念を照合する能力および説明する能力を知的機能という視点から明らかにすることである。【方法】脳卒中片麻痺患者30名を対象にブーバ/キキ実験,インタビュー,知的機能検査を行った。実験手順は,ブーバ/キキ実験の回答が得られた後に,「ブーバ」および「キキ」の判断理由の説明を求める2項目のインタビューを実施した。知的機能検査としてMini-Mental State Examination,レーヴン色彩マトリックス検査,Frontal Assessment Batteryを実施した。インタビュー結果から,両方の説明が可能であった群(以下,A群),両方または片方の説明が不可能であった群(以下,B群)に分類し,2群間の各知的機能検査の評価得点を解析した。【結果】抽象概念の照合が可能であった対象者は30名中29名であり,知的機能が高い対象者と低い対象者が存在した。2群間の内訳は,A群16名,B群13名であった。2群間すべての知的機能検査の評価得点において,A群がB群に比べ有意に得点が高かった。【結論】以上のことから,抽象概念を照合する能力は知的機能とは別の能力であるということが示された。また,抽象概念の照合を説明する能力は,知的機能に依存していることが示唆された。
著者
豊田 拓磨 佐々木 克尚 清水 大輔 沖田 学
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.622-629, 2023-10-15 (Released:2023-10-15)
参考文献数
19

失行症状を含む高次脳機能障害と運動麻痺を呈した症例は,「箸を使ったら疲れる」と訴え食事に1時間かかった.各評価および動作特性から,主な病態は症例がイメージする適切な箸の把握形態の構成が難しく,努力的な箸操作につながっていた.さらに箸の使いにくさを感じながら運動の誤りに気づけず,自己修正が困難で疲労感の増大を助長させていると解釈した.介入方針は,症例が最適な箸の把握形態が構成できて,その把握形態を定着することとした.介入は体性感覚情報を基に自己の運動に置き換えることと,物品から把握形態を想起し構成することを実施した.その結果,症例がイメージした箸の把握形態が定着し,箸操作の疲労感や食事時間が改善した.
著者
吉川 桃子 平谷 尚大 佐々木 克尚 小松 勝人 掛水 真紀 福岡 知之 津野 雅人 沖田 学
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2023, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 リハビリテーションや運動指導における言語は,患者に運動学習を促すための方法の1つである.宮本ら(2005)は,臨床において主観的で抽象的な言葉の重要性を唱えている.また,日岡ら(2010)は,知能が低下した患者に行為を共感覚を用いた抽象概念で説明することが有効であると報告している.さらに,言語と運動について平松ら(2009)は,擬態語の提示は意図する行為をシミュレートさせる可能性があり,擬態語は言語教示において運動をシミュレートさせる有効な手段の一つであると述べている.しかし,使用する副詞や比喩表現の違いが実際の動作へ及ぼす影響について検討されたものは少ない.そこで,本研究の目的は情態副詞,擬態語,メタファー言語が実際の動作にどのような影響を及ぼすかについて明らかにすることである.【方法】 対象は健常成人6名 (男性2名,女性4名:平均年齢20.8±1.47歳)とした.実験の内容を理解できない者や条件の理解を誤った者は除外した.実験課題は,紙面上に描かれた外周800mmの正方形を右回りに2分間のトレースを行う課題(平林ら,1998)である.その際,以下の4つの条件を設定して行った.条件1は何も教示なしで課題を行わせた.条件2は「ゆっくりなぞって下さい」の文章を提示して行わせた(情態副詞条件).条件3は「じわじわなぞって下さい」の文章を提示して行わせた(擬態語条件).条件4は「1番遅く動くものは何ですか?」と問い,「そのようなイメージでなぞって下さい」の文章を提示して行わせた(メタファー言語条件).これら4つの条件をランダムに提示した.また,知的機能検査としてMini-Mental State Examination(以下,MMSE),Frontal Assessment Battery(以下,FAB),Trail making test A(以下,TMT-A),ブーバ/キキ実験を実施した.統計処理は,各条件のトレースした長さをKruskal-Wallis testを用いて比較検討した.また,各条件の特性を分析するために,個人別に長くトレースした順に順位付けを行い,それらにMann-Whitney’s U testを用いて比較検討した.なおBonferroniの不等式修正法を用いた有意差調整により統計学的有意水準を0.0083未満とした.【説明と同意】 全ての対象者から事前に本研究の目的,方法を十分に説明し,書面で同意を得た.【結果】 知的機能検査の平均値と標準偏差は,MMSEは29.7±0.8点,FABは17.3±0.8点,TMT-Aは82.1±24.6秒であり,対象者は知的能力や注意能力が低下していなかった.ブーバ/キキ実験では全ての対象者がでこぼこした図形が「ブーバ」,ぎざぎざの図形が「キキ」と判断した.統計処理の結果は,各条件でのトレースした長さの平均値と標準偏差は,条件1は16979.2±12739.86mm,条件2は4031.33±3272.83mm,条件3は2166±1372.41mm,条件4は1531±1350.74mmであり,各条件間で有意差は認められなかった.しかし,個人別にトレースの長い順に順位付けを行ったものは, 全ての対象者が条件1を最も長くトレースした.そのため,条件1は他の4つの条件と比較し,有意にトレースした長さが長かった.また,条件2は条件3より長くトレースした人数が有意に多かった.【考察】 今回の研究では,具体的な運動速度を提示せずに自由に動作を行わす場合と比較し,速度の遅い意味をもった言語を提示することで動作がより遅くなった.その中でも,動きやその状態の質および様子を表す副詞を修飾した場合と比較し,音や速度をイメージさせるような副詞を修飾した場合により動作への影響が大きくなった.つまり,単純な動作指示に情態副詞,擬態語,メタファー言語を修飾することで,より意味に対応した形に運動制御が変化し,さらに擬態語は情態副詞より運動制御に影響を及ぼすことが明確となった.これは,擬態語が情態副詞と比較し,状態や感情,身振りなどの音を発しないものをいかにもそれらしく音声に例えて表した語句であるため,より動作のイメージが想起されやすかったためであると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究では,情態副詞,擬態語,メタファー言語の提示が運動制御に影響を与えることを明らかにした.このことから,単純な運動指示を提示するのではなく,状態副詞,擬態語,メタファー言語を修飾することが運動指導においてより有効な方法であることが示唆された.今後は,認知症高齢者や脳卒中患者を対象として本研究の応用性を検討する必要がある.
著者
日岡 明美 沖田 学 片岡 保憲 炭岡 良 横野 志帆 海部 忍 北中 雄二 土橋 孝之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2175, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 共感覚は,一種類の感覚情報によって他の感覚が引き起こされる現象である.つまり,共感覚は複数の感覚モダリティにまたがって脳の中で無関係に思える抽象的な情報を結びつける能力である(Ramachandran,2005).この共感覚を利用した抽象概念の照合は,回答や判断を明確に伝えることのできない知的機能が低下した脳卒中片麻痺患者の意思決定を表現する手がかりとなる可能性が推察されている(日岡,2010).また,言語発達の遅延や他人と感情を共有して,意思疎通を図ることが困難な症状を呈する自閉症児においても抽象概念の照合が意思決定を表現する手がかりとなる可能性が考えられる.本研究目的は脳卒中片麻痺患者および自閉症児に共感覚を問う課題を実施し,抽象概念を照合する能力と説明する能力を知的機能という視点から分析することである.【方法】 脳卒中片麻痺患者30名(男性8名,女性22名,平均年齢76.3±11.2歳)および自閉症児14名(男児10名,女児4名,平均年齢8.5±1.9歳)を対象にブーバ/キキ実験を実施した.手順として,二つの異なる図形(でこぼこした図形,ぎざぎざの図形)を提示し,「この形は,一つは『ブーバ』,もう一つは『キキ』と言います.どちらが『ブーバ』でどちら『キキ』ですか.」と指示し,判断を求めた.回答が得られた後に,「ブーバ」と判断した理由(以下,質問1),「キキ」と判断した理由(以下,質問2)についてのインタビューを実施した.また,知的機能評価として,レーヴン色彩マトリックス検査(以下,RCPM)を実施した.質問1,2におけるインタビュー結果から両方の説明が可能であった群(以下,A群)と両方または片方の説明が不可能であった群(以下,B群)に分類した.脳卒中片麻痺患者と自閉症児のそれぞれ2群間のRCPM得点をMann-WhitneyのU検定を用いて比較分析した.なお,有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 すべての対象者および保護者に本研究目的の説明を行い,同意を得た.【結果】 ブーバ/キキ実験において,でこぼこした図形が「ブーバ」,ぎざぎざの図形が「キキ」と判断した脳卒中片麻痺患者は30名中29名,自閉症児は14名中13名であった.RCPMの平均値および標準偏差は脳卒中片麻痺患者では16.3±8.6点(最小値0,最大値30点)であり,自閉症児では24.5±9.3点(最小値は0,最大値34点)であった.2群の内訳は,脳卒中片麻痺患者ではA群16名,B群13名,自閉症児ではA群5名,B群8名であった.脳卒中片麻痺患者の2群間のRCPM得点の中央値の比較では,A群は19点,B群は14点(p<0.05)であり,A群がB群に比べ有意に得点が高かった.自閉症児の2群間のRCPM得点の中央値の比較では,A群は28点,B群は27点であり,有意差は認められなかった.【考察】 本研究において,でこぼこした図形が「ブーバ」,ぎざぎざの図形が「キキ」と判断した対象者が殆どであったことから,脳卒中片麻痺患者および自閉症児は抽象概念を照合する能力が保たれているということが明らかになった.また,抽象概念を照合する能力が保たれている対象者のなかに知的機能が高い者と低い者が存在していた.この結果は脳卒中片麻痺患者および自閉症児において,抽象概念を照合する能力と知的機能は乖離した能力であるということが示唆された.さらに,抽象概念の照合を説明できたA群と説明できなかったB群をRCPMの得点で比較した際,脳卒中片麻痺患者ではA群はB群に比べて知的機能が高かったが,自閉症児では差を認めなかった.このことは,抽象概念の照合を説明する能力は,脳卒中片麻痺患者では知的機能に依存しているが,自閉症児では非言語性の知的機能の視点からは測ることのできない能力であることが推測された.本来,図形と音との抽象概念の照合は言語の進化に重要であり,人の発達とともに備わってきたものであると推測されている(Ramachandran,2001).本研究結果から,脳卒中片麻痺患者のように,脳機能になんらかの破綻が生じても一度備わった抽象概念を照合する能力は残存している可能性が推察された.加えて,自閉症児のように,言語発達の遅延や意思疎通が困難な症状があり,脳機能の発達過程にあるものでも,抽象概念を照合する能力は形成されている可能性が推察された.【理学療法研究としての意義】 本研究において,対象者の殆どが抽象概念を照合する能力が保たれていた.よって,意思疎通が困難であり,知的機能が低下した脳卒中片麻痺患者および自閉症児に対し,抽象概念を用いた手法が治療介入の手がかりになり得る可能性が示唆された.