著者
宗兼 麻美 大橋 英智 太田 仁士 里見 和彦
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.51-55, 2015

ビタミンB1欠乏は急性心不全,末梢神経障害,ウェルニッケ脳症など重篤な病態をきたしうるため,プライマリケア医が認識しておくべき重要な病態と考える.今回,我々は胃切除後にWernicke脳症を発症した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.患者はアルコール多飲歴,偏食はないが,7年前に胃全摘術(Roux-Y 再建)を受けている.入院時,回転性めまい,複視,歩行障害,下肢の感覚低下を認め,腰椎疾患やフィッシャー症候群などを疑い検査を行ったが特徴的な所見が得られなかった.第40病日に意識レベルの低下と小脳症状,眼球運動障害の増悪を認めた.頭部MRIで中脳水道や小脳虫部に左右対称性の高信号域を認め,Wernicke脳症として治療を開始した.治療開始前の血清ビタミンB1濃度は低値であった.治療開始後,意識レベル,眼球運動障害は改善したが,呼吸筋の筋力低下が出現し,肺炎にて第60病日に永眠された.胃切除後の患者に点滴を行う際にはビタミンB1を補充したものを投与するべきである.