著者
佐野 秀仁 大木 紫 里見 和彦
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.26-37, 2010 (Released:2011-01-07)
参考文献数
15

(背景)ヒトの腕の運動指令を伝える経路には,錐体路から直接運動ニューロンにシナプス結合する経路とC3-4に存在するpropriospinal neuron(PN)等を介して間接的に伝える経路が存在すると言われている。患者で間接経路の機能評価を行う基礎として,検査法確立を試みた。(方法)正常被検者の右または左腕の上腕二頭筋から表面筋電図を記録,同側の尺骨神経の電気刺激と反対側運動野の経頭蓋磁気刺激の組み合わせ刺激を実施,刺激強度を系統的に変えた。(結果)全被検者で組み合わせ刺激により上腕二頭筋で観察される誘発電位の振幅が大きくなり,間接経路を介した効果が確実に観察できた。また,右利き正常被験者では利き腕側でこの促通効果が強いことが観察された。(結論)本評価法により,PNを介する間接的皮質脊髄路の機能が評価できることが示された。右利き正常被検者で促通効果に左右差がみられたのは,手の使用頻度によりPNに対する錐体路入力の強さが変わるためと考えられた。
著者
宗兼 麻美 大橋 英智 太田 仁士 里見 和彦
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.51-55, 2015

ビタミンB1欠乏は急性心不全,末梢神経障害,ウェルニッケ脳症など重篤な病態をきたしうるため,プライマリケア医が認識しておくべき重要な病態と考える.今回,我々は胃切除後にWernicke脳症を発症した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.患者はアルコール多飲歴,偏食はないが,7年前に胃全摘術(Roux-Y 再建)を受けている.入院時,回転性めまい,複視,歩行障害,下肢の感覚低下を認め,腰椎疾患やフィッシャー症候群などを疑い検査を行ったが特徴的な所見が得られなかった.第40病日に意識レベルの低下と小脳症状,眼球運動障害の増悪を認めた.頭部MRIで中脳水道や小脳虫部に左右対称性の高信号域を認め,Wernicke脳症として治療を開始した.治療開始前の血清ビタミンB1濃度は低値であった.治療開始後,意識レベル,眼球運動障害は改善したが,呼吸筋の筋力低下が出現し,肺炎にて第60病日に永眠された.胃切除後の患者に点滴を行う際にはビタミンB1を補充したものを投与するべきである.