著者
中村 尚史
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-11, 2014

思春期,青年期の適応障害患者において広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders,PDD)を基盤にもつ患者の割合を検討し,その場合,どのような臨床的特徴があるかを調査し,PDDの有無に関連する要因について検討した.DSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fourth Edition,Text Revision)によって適応障害と診断された12歳以上30歳以下の患者58名を対象とし,以下の自記式質問紙を用いて臨床的特徴を評価した.精神症状の評価は,日本語版パラノイアチェックリスト(JPC:Japanese version of Paranoia Checklist),思春期の精神病様体験(PLEs:Psychotic Like Experiences),精神症状評価尺度(SCL-90-R:Symptom Checklist-90-Revised)を用いた.PDDの評価については,詳細な養育歴の聴取と,患者に対して自閉症スペクトラム指数日本版(AQ-J:Autism Spectrum Quotient-Japanese Version)を用いて,養育者に対しては,自閉症スクリーニング質問紙(ASQ:AutismScreening Questionnaire)を用いて総合的に判断し評価した.その結果,1)58名のうち,PDDと診断されたのは,32名(55.1%)であった.2)AQ-Jについては,PDDの有無に関してコミュニケーションが有意な関連性を示した.3)JPCについては,PDD群が,非PDD群と比較して総得点,確信度において有意に高い結果となった.PDDの有無に関して,確信度が有意に関連していた.4)SCL-90-RについてはPDD群では,恐怖症性不安,妄想,精神病症状,強迫症状,対人過敏,抑うつ,不安,その他の8項目において非PDD群に比較して有意に高かった.PDDの有無に関して強迫症状が有意に関連していた.5)各質問紙の総得点とPDDとの関連を見ると,JPCの総得点のみがPDDと有意な関連性を示した.思春期,青年期の適応障害患者では,PDDを基盤にもつと,被害妄想や,強迫症状など様々な精神症状を自覚する可能性があり,JPCなど質問紙も併用して,PDDの存在を念頭において診療を行う必要があることが示唆された.
著者
中村 尚史 Nakamura Takashi
雑誌
川崎医学会誌 = Kawasaki medical journal (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-11, 2014

思春期,青年期の適応障害患者において広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders,PDD)を基盤にもつ患者の割合を検討し,その場合,どのような臨床的特徴があるかを調査し,PDDの有無に関連する要因について検討した.DSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fourth Edition,Text Revision)によって適応障害と診断された12歳以上30歳以下の患者58名を対象とし,以下の自記式質問紙を用いて臨床的特徴を評価した.精神症状の評価は,日本語版パラノイアチェックリスト(JPC:Japanese version of Paranoia Checklist),思春期の精神病様体験(PLEs:Psychotic Like Experiences),精神症状評価尺度(SCL-90-R:Symptom Checklist-90-Revised)を用いた.PDDの評価については,詳細な養育歴の聴取と,患者に対して自閉症スペクトラム指数日本版(AQ-J:Autism Spectrum Quotient-Japanese Version)を用いて,養育者に対しては,自閉症スクリーニング質問紙(ASQ:AutismScreening Questionnaire)を用いて総合的に判断し評価した.その結果,1)58名のうち,PDDと診断されたのは,32名(55.1%)であった.2)AQ-Jについては,PDDの有無に関してコミュニケーションが有意な関連性を示した.3)JPCについては,PDD群が,非PDD群と比較して総得点,確信度において有意に高い結果となった.PDDの有無に関して,確信度が有意に関連していた.4)SCL-90-RについてはPDD群では,恐怖症性不安,妄想,精神病症状,強迫症状,対人過敏,抑うつ,不安,その他の8項目において非PDD群に比較して有意に高かった.PDDの有無に関して強迫症状が有意に関連していた.5)各質問紙の総得点とPDDとの関連を見ると,JPCの総得点のみがPDDと有意な関連性を示した.思春期,青年期の適応障害患者では,PDDを基盤にもつと,被害妄想や,強迫症状など様々な精神症状を自覚する可能性があり,JPCなど質問紙も併用して,PDDの存在を念頭において診療を行う必要があることが示唆された.
著者
和迩 健太 WANI Kenta
出版者
川崎医学会
雑誌
川崎医学会誌 = Kawasaki medical journal (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.43-55, 2017

近年,職場ストレスにより抑うつ状態をはじめ心身の不調を来し休職したり,学校や社会に不適応を起こし不登校,ひきこもりになったりする適応障害患者が増えている.診断基準上,適応障害を引き起こす要因であるストレスの大きさは問われないが,一方でどのような人が適応障害になりやすいかという研究はこれまでない.本研究では,適応障害患者に対する成人用Wechsler 式知能検査第3版(Wechsler Adult Intelligence Scale Third Edition; WAIS-Ⅲ)の所見と臨床的特徴からそれらを検討した. 適応障害と診断されWAIS-Ⅲを施行された患者50名(14歳~48歳,男性29名,女性21名)を対象とした.IQ が70未満の精神遅滞と診断された者は除外した.臨床評価として,初診時年齢,発症年齢,精神主訴の有無,身体主訴の有無,初診時における社会参加の有無,初診時GAF(Global Assessment Scale)を用いた.WAIS-Ⅲは言語理解(Verbal Comprehension; VC),作動記憶(Working Memory; WM), 知覚統合(Perceptual Organization; PO), 処理速度(Processing Speed; PS)の4つの群指数に分類される.対象者を群指数パターンによってクラスタ分析を行った. その結果,3つのクラスタパターンに分類された.群指数に関しては,クラスタ1はWM がVCとPS よりも有意に低く,クラスタ2はPS がVC とWM よりも有意に低く,クラスタ3はPS がVC,WM,PO よりも有意に低かった.また,IQ に関しては,クラスタ3> クラスタ1>クラスタ2の順に高くそれぞれ有意差が認められた.クラスタ間の臨床的特徴を検討したところ,クラスタ3は身体主訴が有意に少なかったが,他の項目で有意差は認められなかった.さらに,対象者全体で見ると,GAF とWM において正の相関が認められた. 以上から,適応障害患者においてはWM とPS という認知機能低下が認められる可能性があり,特に社会適応の観点からWM に注目して診療を行うことが大切であると考えられた.Recently, there has been an increase in the number of patients with adjustment disorder (AD) who are absent from work or school. Such patients often withdraw from active social life because of a depressed mood and psychosomatic symptoms caused by workplace stress or maladjustment to their social environment. The diagnostic criteria for AD do not account for the level of stressful life events, and evidence regarding the association of cognitive features with the extent of maladjustment and clinical characteristics of AD is scarce. In this study, we examined the association between cognitive characteristics assessed with the Wechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition (WAIS-Ⅲ) and clinical features in patients with AD.In this study, we included 50 patients with AD who completed the WAIS-Ⅲ (29 men and 21 women, age range: 14-48 years old). Patients with a diagnosis of mental retardation and an IQ less than 70 were excluded. At the initial visit, the following clinical features were measured: age at initial visit, age of onset, the presence of mental and/or somatic symptoms, social participation, and Global Assessment of Functioning (GAF) scale score. The WAIS-Ⅲ consists of four index scores: verbal comprehension (VC), working memory (WM), perceptual organization (PO), and processing speed (PS). Participants were classified into three groups by cluster analysis according to their WAIS-Ⅲ index score profiles.In Group 1, the WM index was significantly lower than both the VC index and PS index, whereas, in Group 2, the PS index was significantly lower than the VC and WM indices. Meanwhile, in Group 3, the PS index was significantly lower than the VC, WM, and PO indices. Group 3 had significantly higher full-scale intelligence quotient (FIQ) scores than did both Groups 1 and 2, while Group 1 had significantly higher FIQ scores than did Group 2. In addition, the proportion of patients who had somatic symptoms in Group 3 was significantly lower than that in Groups 1 and 2. In the analysis of all participants, we observed a positive correlation between GAF scores and the WM index.In conclusion, patients with AD are thought to have impairments in both WM and PS. We suggest that evaluation of AD from the perspective of WM might be useful to better understand a patient's social maladjustment.
著者
山本 真弓
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.59-70, 2003

同一術者,同一術式によって初回口唇裂手術を施行した片側性完全口唇顎口蓋裂患者の顎・顔面形態を,三次元計測装置を用いて計測し,術前の顎・顔面形態の特徴ならびに術後の経時的変化を分析し,次の結果を得た.1.初回手術前にHotz口蓋床を装着することで,顎前方部の各傾斜角度,特にSmaller segmentの傾向角度及びSmaller segmentとLarger segmentの差の移動が大きく,術前のHotz口蓋床装着の有用性が示唆された.2.初回口唇裂術後,顎裂前後差・前歯部傾斜角度・Smaller segmentの傾斜角度およびSmaller segmentとLarger segmentの差・歯槽基底部最大幅径の移動が大きく,手術およびHotz口蓋床装着等のなんらかの外力が特にこの部位に加わっていると示唆された.3.術前術後の顔面形態は,顎前方部の形態に影響しており,特に顎裂幅・前歯部傾斜角皮・Smaller segmentの傾斜角度・Larger segmentの傾斜角度及びその差・歯槽基底部最大幅径の矯正は術前までに十分行う必要性があると考えられた.4.術後の鼻腔底の長さが非対称性になる原因の一つに,患側キューピット弓頂点の患側鼻翼基部からの距離が影響していると考えられた.5.術後の患側鼻翼基部下垂を防ぐために,基部の固定位置を健側よりも若干高めに矯正する必要があると考えられた.
著者
宗兼 麻美 大橋 英智 太田 仁士 里見 和彦
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.51-55, 2015

ビタミンB1欠乏は急性心不全,末梢神経障害,ウェルニッケ脳症など重篤な病態をきたしうるため,プライマリケア医が認識しておくべき重要な病態と考える.今回,我々は胃切除後にWernicke脳症を発症した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.患者はアルコール多飲歴,偏食はないが,7年前に胃全摘術(Roux-Y 再建)を受けている.入院時,回転性めまい,複視,歩行障害,下肢の感覚低下を認め,腰椎疾患やフィッシャー症候群などを疑い検査を行ったが特徴的な所見が得られなかった.第40病日に意識レベルの低下と小脳症状,眼球運動障害の増悪を認めた.頭部MRIで中脳水道や小脳虫部に左右対称性の高信号域を認め,Wernicke脳症として治療を開始した.治療開始前の血清ビタミンB1濃度は低値であった.治療開始後,意識レベル,眼球運動障害は改善したが,呼吸筋の筋力低下が出現し,肺炎にて第60病日に永眠された.胃切除後の患者に点滴を行う際にはビタミンB1を補充したものを投与するべきである.