著者
寺田 喜平
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

水痘ワクチン接種後、特異細胞性免疫や抗体が陽性化しても、約20%に軽症ではあるが再感染することが明らかになっている。しかし、その原因については不明である。私どもは、水痘ワクチン接種は自然感染と異なる経路で感染することや接種後ウイルス血症が少ないことなどから、分泌型IgA抗体(sIgA)分泌が誘導されるNALTへの抗原刺激が少なく、ウイルス侵入部位で第一に働くsIgAが低いためではないかと推論した。水痘感染約3ヵ月後に唾液を採取した自然感染群26名と水痘ワクチン接種群28名、少なくとも水痘感染後2年以上経過した群23名、小児悪性疾患寛解中の群23名、60歳以上の高齢者群20名、小児科で働く医療従事者の群14名、抗体が陰性である陰性コントロールの群11名を対象に、唾液中の水痘帯状庖疹ウイルス(VZV)特異sIgA抗体をELISA法で測定した。ワクチン群が自然感染群に比較して有意に(P=0.0085)低値で、2例はcut-off値以下であった。高齢者の群は低くなく、帯状庖疹を既往歴に持つ人はない人に比べて高い傾向にあった。医療従事者の群は最も高く、有意にほかの群より高値であった。水痘ワクチン接種後は、自然感染後に比べ有意に唾液中のVZV特異sIgA抗体は少なかった。しかし、帯状疱疹のリスクの高い悪性疾患患者や高齢者では、sIgAは低くなく、帯状疱疹の既往のある人ではかえって高値であった。これは細胞性免疫は低いために帯状疱疹になってもsIgAが保たれているため、水痘の再感染は非常に稀であることを反映していると思われた。sIgAが保たれる原因として外因性あるいは再活性化した内因性VZVによるものと考えられた。現在、不活化した水痘ワクチンを鼻腔内へ噴霧し、sIgA抗体を賦活化することができるか検討中である。
著者
中村 尚史
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-11, 2014

思春期,青年期の適応障害患者において広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders,PDD)を基盤にもつ患者の割合を検討し,その場合,どのような臨床的特徴があるかを調査し,PDDの有無に関連する要因について検討した.DSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fourth Edition,Text Revision)によって適応障害と診断された12歳以上30歳以下の患者58名を対象とし,以下の自記式質問紙を用いて臨床的特徴を評価した.精神症状の評価は,日本語版パラノイアチェックリスト(JPC:Japanese version of Paranoia Checklist),思春期の精神病様体験(PLEs:Psychotic Like Experiences),精神症状評価尺度(SCL-90-R:Symptom Checklist-90-Revised)を用いた.PDDの評価については,詳細な養育歴の聴取と,患者に対して自閉症スペクトラム指数日本版(AQ-J:Autism Spectrum Quotient-Japanese Version)を用いて,養育者に対しては,自閉症スクリーニング質問紙(ASQ:AutismScreening Questionnaire)を用いて総合的に判断し評価した.その結果,1)58名のうち,PDDと診断されたのは,32名(55.1%)であった.2)AQ-Jについては,PDDの有無に関してコミュニケーションが有意な関連性を示した.3)JPCについては,PDD群が,非PDD群と比較して総得点,確信度において有意に高い結果となった.PDDの有無に関して,確信度が有意に関連していた.4)SCL-90-RについてはPDD群では,恐怖症性不安,妄想,精神病症状,強迫症状,対人過敏,抑うつ,不安,その他の8項目において非PDD群に比較して有意に高かった.PDDの有無に関して強迫症状が有意に関連していた.5)各質問紙の総得点とPDDとの関連を見ると,JPCの総得点のみがPDDと有意な関連性を示した.思春期,青年期の適応障害患者では,PDDを基盤にもつと,被害妄想や,強迫症状など様々な精神症状を自覚する可能性があり,JPCなど質問紙も併用して,PDDの存在を念頭において診療を行う必要があることが示唆された.
著者
山辻 知樹 猶本 良夫 高岡 宗徳
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

胃癌の治療に用いられるシスプラチンの腎毒性を防ぐために大量輸液・強制利尿が行われQOL低下を招く。5-アミノレブリン酸(ALA)は多くの生理作用を示すが、シスプラチン腎障害ラットモデルでALAの腎障害抑制効果が報告された。我々はALAによる新規腎障害予防法の確立を目指し臨床第I相試験を開始した。対象:切除不能・再発胃癌症例。主要評価項目:腎障害防止補助剤としてのALAの安全性。副次評価項目:腎障害抑制効果。方法:ショートハイドレーション法によるSP療法に加えALAを内服。安全性評価、外来移行率、相対用量強度を算出。【結果】2017年12月現在8例登録。Grade3以上の有害事象は認めず。
著者
LEE Suni MATSUZAKI Hidenori KUMAGA-TAKEI Naoko YAMAMOTO Shoko HATAYAMA Tamayo YOSHITOME Kei NISHIMURA Yasumitsu OTSUKI Takemi
出版者
川崎医科大学
雑誌
Kawasaki medical journal (ISSN:03850234)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.15-24, 2016

There are many environmental, occupational and medical substances that cause dysregulation of autoimmunity. Among these substances, the effects and causative mechanisms of silica particles and asbestos fibers are discussed in this review. Many epidemiological studies have shown a significant association between silica exposure and the occurrence of autoimmune diseases such as rheumatoid arthritis (RA), systemic sclerosis (SSc), systemic lupus erythematosus (SLE), and anti-neutrophil cytoplasm antibody (ANCA)-related vasculitis. Although the importance of NALP3 inflammasome as the initial immune reaction against silica particles has been recognized, the processes that form the various autoimmune diseases in silica-exposed patients remain unclear. Silica can activate various immune cells and cause an unbalance of regulatory T cells, responder T cells and T helper 17 cells, which might be key factors in understanding the silica-induced autoimmune alteration. In contrast, asbestos exposure shows a smaller association with autoimmune diseases. However, interesting findings have been reported regarding anti-endothelial and mesothelial cell antibodies detected in asbestos-exposed patients. Further investigations may contribute to elucidation of the mechanisms involved in environmental factor-induced modification of autoimmunity.
著者
木村 佳起
出版者
川崎医科大学
巻号頁・発行日
2015

日本消化器病学会雑誌, 111(11), 2121-2130, 2014掲載
著者
村上 龍文 砂田 芳秀
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

糖尿病性多発神経炎(DPN)の血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子治療での改善機序を解明するため、この治療が著効するSTZ糖尿病マウスのDPNについて検討した。その結果このマウスでは糖尿病初期から無髄線維が選択的に萎縮しており、有髄線維は成長・発達障害があることが明らかとなった。また坐骨神経ではVEGFシグナル系の遺伝子発現が亢進し、PGE2含量の低下が認められた。ラットと異なりマウスではVEGFの逆向性軸索輸送は認められなかった。
著者
鎌尾 浩行
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本の主要な失明原因の一つである脈絡膜萎縮に対する治療法はない。これに対して、網膜色素上皮細胞(RPE)と血管内皮細胞(HUVEC)を移植することで脈絡膜の再生が得られるか研究を行った。RPEとHUVECを同時に移植するため、iPS細胞から作製したRPE細胞シートとHUVECを共培養することで、HUVECが接着したiPS-RPE細胞シートを作製することに成功した。しかし、脈絡膜萎縮したウサギ網膜にHUVECが接着したiPS-RPE細胞シートを移植したが、脈絡膜の再生は得られなかった。
著者
種本 和雄
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

チエノピリジン系抗血小板剤であるクロピドグレルの術前至適中止タイミングについてVerifyNowシステムを用いて検討した。同薬剤中止後の血小板機能回復曲線から検討したところ、中止後3~5日でカットオフラインを越えて血小板機能が回復していた。同薬剤術前中止時期としては従来言われている14日に比べて大幅に短縮することが可能である。VerifyNowを用いて評価した術前血小板凝集能と術後ドレーン出血量との関係は有意ではなかったが、血小板凝集能が低い症例でドレーン出血量が多い傾向がみられた。
著者
山本 真弓
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.59-70, 2003

同一術者,同一術式によって初回口唇裂手術を施行した片側性完全口唇顎口蓋裂患者の顎・顔面形態を,三次元計測装置を用いて計測し,術前の顎・顔面形態の特徴ならびに術後の経時的変化を分析し,次の結果を得た.1.初回手術前にHotz口蓋床を装着することで,顎前方部の各傾斜角度,特にSmaller segmentの傾向角度及びSmaller segmentとLarger segmentの差の移動が大きく,術前のHotz口蓋床装着の有用性が示唆された.2.初回口唇裂術後,顎裂前後差・前歯部傾斜角度・Smaller segmentの傾斜角度およびSmaller segmentとLarger segmentの差・歯槽基底部最大幅径の移動が大きく,手術およびHotz口蓋床装着等のなんらかの外力が特にこの部位に加わっていると示唆された.3.術前術後の顔面形態は,顎前方部の形態に影響しており,特に顎裂幅・前歯部傾斜角皮・Smaller segmentの傾斜角度・Larger segmentの傾斜角度及びその差・歯槽基底部最大幅径の矯正は術前までに十分行う必要性があると考えられた.4.術後の鼻腔底の長さが非対称性になる原因の一つに,患側キューピット弓頂点の患側鼻翼基部からの距離が影響していると考えられた.5.術後の患側鼻翼基部下垂を防ぐために,基部の固定位置を健側よりも若干高めに矯正する必要があると考えられた.
著者
中井 祐一郎 下屋 浩一郎 田村 公江 浅田 淳一 鈴井 江三子 中塚 幹也 新名 隆志 林 大悟
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

出生前診断による選択的人工妊娠中絶について、無記名アンケートによる一般市民の意識を調査した。一般的な人工妊娠中絶については、母体外生存が不可能なことを条件として容認するという者が、男女ともにほぼ2/3であった。非選択的人工殷賑中絶との比較した場合の選択的中絶の道徳的位置付けについては、女性の半数以上がより問題が大きいとした。胎児の選択権については、女性の85%、男性においても75%が認めていないが、権利としては認めないが、状況によってはやむをえないとする回答が過半を占めた。新型出生前診断については、女性の70%、男性でも65%が、妊婦に対する情報提供を限定的にすべきであると回答した。
著者
宗兼 麻美 大橋 英智 太田 仁士 里見 和彦
出版者
川崎医科大学
雑誌
川崎医学会誌 (ISSN:03865924)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.51-55, 2015

ビタミンB1欠乏は急性心不全,末梢神経障害,ウェルニッケ脳症など重篤な病態をきたしうるため,プライマリケア医が認識しておくべき重要な病態と考える.今回,我々は胃切除後にWernicke脳症を発症した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.患者はアルコール多飲歴,偏食はないが,7年前に胃全摘術(Roux-Y 再建)を受けている.入院時,回転性めまい,複視,歩行障害,下肢の感覚低下を認め,腰椎疾患やフィッシャー症候群などを疑い検査を行ったが特徴的な所見が得られなかった.第40病日に意識レベルの低下と小脳症状,眼球運動障害の増悪を認めた.頭部MRIで中脳水道や小脳虫部に左右対称性の高信号域を認め,Wernicke脳症として治療を開始した.治療開始前の血清ビタミンB1濃度は低値であった.治療開始後,意識レベル,眼球運動障害は改善したが,呼吸筋の筋力低下が出現し,肺炎にて第60病日に永眠された.胃切除後の患者に点滴を行う際にはビタミンB1を補充したものを投与するべきである.
著者
井上 剛 木村 和美
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

岡山県内遠隔地域の脳卒中診療支援のため、遠隔地病院の脳卒中患者の頭部MRIやCT画像を、都市部岡山市の脳卒中専門医が携帯するiPhoneやiPadへ配信し、専門医が診断や治療を遠隔地病院の医師へ電話する、24時間365日対応のシステムを考案した。平成25年9月より遠隔地の岡山市内の榊原病院と新見地区3病院と、都市部の川崎病院脳卒中専門医師でシステムを導入した。岡山県内の脳神経系医師不在の133病院へのアンケート調査では、脳卒中患者は脳神経専門病院へ搬送され、5割弱の病院が遠隔医療は必要ないと回答した。現在は10病院が導入、準備中。本システムは地域の脳卒中患者へ最新医療を提供できる可能性がある。