著者
小松 真一 工藤 慎太郎 村瀬 政信 坂崎 友香 林 省吾 太田 慶一 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P3017, 2009 (Released:2009-04-25)

【【目的】Fabellaとは,大腿骨外側顆の後面において腓腹筋外側頭腱の内部に位置する1cm前後の種子骨であり,15%~35%前後の発現頻度で認められる.Fabellaは大腿骨外側顆との間にfabello-femoral関節を構成するとされ,Weinerらは,fabella部の鋭い疼痛,限局性圧痛,膝伸展時痛を有する症例を同関節の変性であると考え,fabella症候群として報告している. 一方,fabellaの関節面は,関節軟骨を欠き結合組織線維に覆われている場合が多いとする報告もある.このような例では,結合組織の変性や炎症,周囲の滑膜および関節包の炎症が認められるという.また,fabellaのみでなく種子骨一般の組織学的構造に関する検討は少ない.そこで今回,fabellaの周辺を局所解剖学的に観察するとともに,fabellaの組織学的構造の観察を行い, fabella症候群および総腓骨神経麻痺との関連について検討した.【方法】愛知医科大学医学部において『解剖学セミナー』に供された実習用遺体44体を使用した.膝窩部から下腿後面を剥皮後,皮下組織を除去して総腓骨神経を剖出した.腓腹筋外側頭の起始部を切離してfabellaを剖出し,総腓骨神経との位置関係を観察した後,fabellaを摘出した.Fabellaは脱灰してパラフィン包埋後,前額面と矢状面の薄切切片(5㎛)を作成し,ヘマトキシリン‐エオジン, マッソン・トリクロームおよびトルイジンブルー染色を行って観察した.なお,解剖の実施にあたっては,愛知医科大学解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】Fabellaは44体88側中16体30側(36.4%)において確認できた.その全例において,総腓骨神経がfabellaの表層を走行し,fabella部より遠位で深腓骨神経,浅腓骨神経,外側腓腹皮神経に分岐していた.Fabellaは,頂点を表層に向けた三角円錐形を呈していた.組織学的には,fabellaの辺縁部は関節面を含め線維芽細胞を含む膠原線維で被覆されていた.内部の組織学的構造は,髄腔を有する骨組織からなる例と,硝子軟骨組織からなる例が見られた. 【考察】Fabellaの関節面は関節軟骨を欠き,結合組織によって周辺の関節包や腱に癒合していた.また,fabellaはfabella-腓骨靭帯などの後外側支持機構によって支持されるため,可動性に乏しいことが示唆された.さらに,内部の組織学的構造から,fabellaは軟骨組織が機械的刺激によって骨組織に置換されて形成されると考えられた.このようなfabellaの組織学的構造やその個体差が, fabella症候群や総腓骨神経麻痺の発症に影響することが示唆された. Fabellaの表層を総腓骨神経が走行することから,総腓骨神経麻痺の症状の有無を考慮することが,fabella症候群の診断に有用であると示唆された.換言すれば,腓骨頭直下における総腓骨神経麻痺との鑑別が必要であると考えられる.