著者
加藤 文崇 星野 宏光 山本 為義 小林 省吾 棟方 哲 大里 浩樹
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.2022-2026, 2016 (Released:2017-02-28)
参考文献数
21

爪楊枝の胃壁穿通による肝膿瘍の1例を経験したので報告する.症例は53歳の男性.心窩部痛を主訴に受診した.胆石発作が疑われ経過観察していたが,腹痛の改善を認めなかったため,腹部超音波検査・CT検査を施行したところ,肝外側区域に約3.5cm大の膿瘍と内部に針状陰影を認めた.異物の胃壁から肝への穿通による肝膿瘍と診断した.抗生剤による保存的治療を行い炎症の改善を得た後,異物除去を目的に腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行した.異物は爪楊枝であった.術後は特に合併症なく,術後10日目に退院となった.異物の胃壁穿通による肝膿瘍の診断にはCT検査が有効であった.腹腔鏡下手術は低侵襲で可能であり,異物除去に有効であった.
著者
若林 省吾
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-11, 2020-03-04 (Released:2020-03-04)
参考文献数
11

本稿では,近年利用者が減少しているゴルフ場の活性化につながるマーケティング戦略を検討することを目的とした。まず,これまでゴルフ場が実施している取り組みではなぜ利用者が増加しないのか分析した上で,「サービス・ドミナント・ロジック」を援用した新たな取り組み事例を示し,その効果をゴルフ場関係者や参加者へのインタビューによる調査を通じて検証した。検証は,ゴルフ場と利用者の関係に着目し,顧客と価値を創り出す価値共創概念を援用し参加者を増やした事例として,「ゴルフ甲子園」を取り上げ,文脈価値と価値共創の視点で考察を行い,ゴルフ場と利用者との共創によって生み出される文脈価値に焦点を当てた視点から,ゴルフ場の新たな活用法の可能性を示した。
著者
山本 昌樹 林 省吾 鈴木 雅人 木全 健太郎 浅本 憲 中野 隆
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100444, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】上腕筋は,上腕骨前面下半部に単一の筋頭を有するとされるが,Gray’s Anatomy(2005)においては「2 〜3 部からなる変異が見られる」と記載されている.一方,Leonello et al.(2007)は,「上腕筋は,全例において浅頭と深頭の2 頭を有する」と報告している.我々は,第16 回臨床解剖研究会(2012)において,上腕筋が3 頭から構成されることを明らかにするとともに,肘関節屈曲拘縮との関連について報告した.今回,これら3 頭の形態的特徴と機能について考察する.【対象および方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体15 体24 肢を対象とした.上肢を剥皮後,上腕二頭筋,腕橈骨筋,長・短橈側手根伸筋を展開した.上腕筋を起始部より分離して筋頭を同定し,筋頭の走行や配列を詳細に観察した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】全肢において,上腕筋は,三角筋後部線維から連続する筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から連続する筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起始する筋頭(以下,内側頭)に区分することができた.外側頭は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって斜めに,かつ,浅層を走行して腱になり,尺骨粗面の遠位部に停止していた.中間頭は,最も薄く細い筋束であり,内側頭の浅層を外側頭と平行して走行し,遠位部は内側頭に合流していた.内側頭は,最も深層を走行し,停止部付近においても幅広く厚い筋腹から成り,短い腱を介して尺骨粗面の近位内側部に停止していた.これら3 頭は,上腕中央部においては,外側から内側へ順に配列していた.しかし肘関節部においては,外側頭と中間頭は浅層に,内側頭は深層に配列していた.また,内側頭の縦断面を観察すると,一部の線維が肘関節包前面に付着する例が存在した.これらの例において肘関節を他動的に屈曲させると,内側頭とともに関節包の前面が浮き上がる様子が観察された.【考察】上腕筋を構成する3 頭は,内側から外側へ配列しているだけではなく,各頭が特徴的な走行や形態を呈するため,それぞれ異なる機能を有することが推測される.上腕筋外側頭は上腕骨の近位外側から遠位中央へ,一方の上腕二頭筋は近位内側から遠位中央へ斜走する.そのため肘関節屈曲時,上腕筋外側頭は前腕近位部を外上方へ,一方の上腕二頭筋は内上方へ牽引すると考えられる.すなわち肘関節屈曲時,外側頭と上腕二頭筋は共同で,前腕軸の調整を行うと考えられる.また外側頭は,3 頭の中で最も遠位に停止し,肘関節屈曲における最大のレバーアームを有するため,肘関節屈曲における最大の力源になることが示唆される.さらに,外側頭は三角筋後部線維から連続するため,三角筋の収縮によって,作用効率が変化する可能性がある.換言すれば,外側頭の作用効率を高めるためには,三角筋後部線維を収縮させた上で肘関節屈曲を行うことが有効であると思われる.内側頭は,肘関節部において深層を走行し,幅広く厚い筋腹を有する.したがって,肘関節屈曲時に収縮して筋の厚みが増すことによって,外側頭のレバーアームを維持または延長し,その作用効率を高める機能を有すると考えられる.また,肩関節の腱板が上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる作用と同様に,内側頭は,尺骨滑車切痕を上腕骨滑車に引き寄せ,肘関節の安定性向上に寄与すると考えられる.さらに,内側頭が関節包前面に付着する例があることから,肘関節運動に伴う関節包の緊張度を調節する機能が示唆される.換言すれば,内側頭の機能不全によって,関節包前面のインピンジメントや肘関節屈曲拘縮が惹起される可能性が推測される.中間頭は,最も薄く細いため,その機能的意義は小さいと思われる.しかし,上腕中央部においては外側頭と並走し,遠位部においては内側頭に合流することから,外側頭と内側頭の機能を連携する,文字通り‘中間的な’役割を担うと考えられる.上腕筋は,3頭を有することによって,肘関節屈曲における前腕軸の調整,作用効率の向上,肘関節包の緊張度の調節など複合的な機能を担うと考えられる.また,肘関節屈曲に関しては,主として外側頭が機能することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である.本研究は,上腕筋の筋頭構成を詳細に観察し,肘関節運動に対する関与について考察を加えたものであり,肘関節拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
橘田 正人 林 省吾 國田 佳子 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
巻号頁・発行日
pp.48100562, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩甲上神経は,棘上筋および棘下筋を支配する運動神経として知られているが,肩関節包および肩鎖関節包への枝(以下,知覚枝)や皮枝を含むとする報告も散見される(Aszmann et al. 1996, Horiguchi 1980).しかしながら,知覚枝がどの部位において分岐し,どのように走行するかについては,明確な記載が見当たらない.今回,肩甲上神経知覚枝について,分岐部と分布域を解剖学的に観察し,両者の対応関係を明らかにすることを試みた.さらに,肩関節包に分布する神経終末の組織学的所見を含めて報告する.【方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体9 体17 肩を対象とした.僧帽筋・三角筋を切離し,棘上筋・棘下筋・小円筋を剖出した.小円筋を切離した後,棘上筋・棘下筋を肩甲骨の骨膜とともに剥離,反転した.上肩甲横靭帯の腹側を通過する肩甲上神経を同定し,その分岐部および分布域を確認した.肩関節包,肩鎖関節包,肩峰下滑液包に付着する肩甲上神経の分枝を知覚枝と同定し,その分布域を解剖学的に確認した.さらに,棘窩切痕より上部および下部の領域において肩関節包とともに知覚枝を摘出し,薄切切片を作成してHE染色を行い,組織学的に観察した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】知覚枝は,17 肩中15 肩(88.2%)で確認できた.知覚枝は,15 肩において計33 枝が存在し,上肩甲横靱帯通過前で分岐するもの(以下,パターン1)2 枝(6.1%),上肩甲横靱帯通過直後で分岐するもの(以下,パターン2)6 枝(18.2%),棘上筋の腹側面(深層)で分岐するもの(以下,パターン3)21 枝(63.6%),下肩甲横靱帯通過直後で分岐するもの(以下,パターン4)4 枝(12.1%)に分類された.また,棘下筋の腹側面で分岐するものは観察されなかった.それぞれの主な分布域は,パターン1 および2 は肩鎖関節包および肩関節包の後面上部,パターン3 は肩峰下滑液包および関節後面の上部から中央部,パターン4 は肩関節包の後面中央下部であった.知覚枝が肩関節包に進入する部位の組織学的観察において,神経線維およびPacini小体様の固有知覚受容器が認められた.【考察】Aszmannら(1996)は,肩関節包の知覚について,前方部は肩甲下神経・腋窩神経・外側胸筋神経が,後方部は肩甲上神経・腋窩神経が支配すると報告している.また,肩甲上神経知覚枝として,上肩甲横靱帯通過付近で分岐し肩鎖関節・肩峰下滑液包・肩関節包後面上部に分布する枝,および棘窩切痕付近で分岐し肩関節包後面中央部から下部にかけて分布する枝を図示している.さらに,肩関節包にはPacini小体,Golgi-Mazzoni小体,Ruffini小体等の固有知覚受容器が存在し,圧力変化や加速度,とくに振動などの深部知覚の感受に関与することが知られている(Rowinski 1985).今回の観察では,肩甲上神経知覚枝は,棘上筋の腹側面(深層)において分岐する例(パターン3)が多く,主に肩関節包上部から後面中央部に分布していた.さらに,知覚枝が肩関節包に進入する部位において,Pacini小体様の固有知覚受容器が認められた.今回の結果および先行研究から,肩甲上神経知覚枝は,主に肩関節包上部から後面中央部の深部知覚を司り,それを中枢神経系へフィードバックすることによって,肩関節の内旋や水平屈曲のコントロールに関与することが示唆される.一方,今回の観察において,肩関節包後面下部に分布する知覚枝は確認されなかった.肩関節後面下部の知覚は,主に腋窩神経が司り,肩関節の外旋や挙上のコントロールに関与すると推測される.【理学療法学研究としての意義】肩関節可動域の改善を目的とする理学療法において,肩関節後面にアプローチする上で,肩関節包に分布する脊髄神経の走行および知覚枝の分布域を考慮することは重要である.さらに,根拠に基づく理学療法を行うためには,解剖学的所見だけではなく組織学的所見を含めて,機能解剖学的かつ病態生理学的な考察が不可欠である.本研究は,肩甲上神経知覚枝が肩関節運動のコントロールに関与する可能性を示唆するものであり,肩関節運動障害の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
西岡 和昭 伊藤 正裕 林 省吾 平井 宗一 福沢 嘉孝 大滝 純司
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.199-204, 2012-06-25 (Released:2014-01-09)
参考文献数
8

献体標本を用いて各部位の名称や機能を問う実習試験と一般的な解剖学的知識を問う筆記試験の正答率を比較して解析した.1)実習試験の正答率と筆記試験の正答率との相関は弱かった.2)実習試験では,通常の筆記試験では測れない能力を評価している可能性が示唆された.3)人体の構造の多様性・個体差の要素が含まれる献体を用いた実習試験と解剖学知識を問う筆記試験の併用は,学生を評価する上で有用であることが推測された.
著者
山本 昌樹 林 省吾 鈴木 雅人 木全 健太郎 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100444, 2013

【はじめに】上腕筋は,上腕骨前面下半部に単一の筋頭を有するとされるが,Gray’s Anatomy(2005)においては「2 〜3 部からなる変異が見られる」と記載されている.一方,Leonello et al.(2007)は,「上腕筋は,全例において浅頭と深頭の2 頭を有する」と報告している.我々は,第16 回臨床解剖研究会(2012)において,上腕筋が3 頭から構成されることを明らかにするとともに,肘関節屈曲拘縮との関連について報告した.今回,これら3 頭の形態的特徴と機能について考察する.【対象および方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体15 体24 肢を対象とした.上肢を剥皮後,上腕二頭筋,腕橈骨筋,長・短橈側手根伸筋を展開した.上腕筋を起始部より分離して筋頭を同定し,筋頭の走行や配列を詳細に観察した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】全肢において,上腕筋は,三角筋後部線維から連続する筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から連続する筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起始する筋頭(以下,内側頭)に区分することができた.外側頭は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって斜めに,かつ,浅層を走行して腱になり,尺骨粗面の遠位部に停止していた.中間頭は,最も薄く細い筋束であり,内側頭の浅層を外側頭と平行して走行し,遠位部は内側頭に合流していた.内側頭は,最も深層を走行し,停止部付近においても幅広く厚い筋腹から成り,短い腱を介して尺骨粗面の近位内側部に停止していた.これら3 頭は,上腕中央部においては,外側から内側へ順に配列していた.しかし肘関節部においては,外側頭と中間頭は浅層に,内側頭は深層に配列していた.また,内側頭の縦断面を観察すると,一部の線維が肘関節包前面に付着する例が存在した.これらの例において肘関節を他動的に屈曲させると,内側頭とともに関節包の前面が浮き上がる様子が観察された.【考察】上腕筋を構成する3 頭は,内側から外側へ配列しているだけではなく,各頭が特徴的な走行や形態を呈するため,それぞれ異なる機能を有することが推測される.上腕筋外側頭は上腕骨の近位外側から遠位中央へ,一方の上腕二頭筋は近位内側から遠位中央へ斜走する.そのため肘関節屈曲時,上腕筋外側頭は前腕近位部を外上方へ,一方の上腕二頭筋は内上方へ牽引すると考えられる.すなわち肘関節屈曲時,外側頭と上腕二頭筋は共同で,前腕軸の調整を行うと考えられる.また外側頭は,3 頭の中で最も遠位に停止し,肘関節屈曲における最大のレバーアームを有するため,肘関節屈曲における最大の力源になることが示唆される.さらに,外側頭は三角筋後部線維から連続するため,三角筋の収縮によって,作用効率が変化する可能性がある.換言すれば,外側頭の作用効率を高めるためには,三角筋後部線維を収縮させた上で肘関節屈曲を行うことが有効であると思われる.内側頭は,肘関節部において深層を走行し,幅広く厚い筋腹を有する.したがって,肘関節屈曲時に収縮して筋の厚みが増すことによって,外側頭のレバーアームを維持または延長し,その作用効率を高める機能を有すると考えられる.また,肩関節の腱板が上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる作用と同様に,内側頭は,尺骨滑車切痕を上腕骨滑車に引き寄せ,肘関節の安定性向上に寄与すると考えられる.さらに,内側頭が関節包前面に付着する例があることから,肘関節運動に伴う関節包の緊張度を調節する機能が示唆される.換言すれば,内側頭の機能不全によって,関節包前面のインピンジメントや肘関節屈曲拘縮が惹起される可能性が推測される.中間頭は,最も薄く細いため,その機能的意義は小さいと思われる.しかし,上腕中央部においては外側頭と並走し,遠位部においては内側頭に合流することから,外側頭と内側頭の機能を連携する,文字通り'中間的な’役割を担うと考えられる.上腕筋は,3頭を有することによって,肘関節屈曲における前腕軸の調整,作用効率の向上,肘関節包の緊張度の調節など複合的な機能を担うと考えられる.また,肘関節屈曲に関しては,主として外側頭が機能することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である.本研究は,上腕筋の筋頭構成を詳細に観察し,肘関節運動に対する関与について考察を加えたものであり,肘関節拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
小松 真一 工藤 慎太郎 村瀬 政信 坂崎 友香 林 省吾 太田 慶一 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P3017, 2009 (Released:2009-04-25)

【【目的】Fabellaとは,大腿骨外側顆の後面において腓腹筋外側頭腱の内部に位置する1cm前後の種子骨であり,15%~35%前後の発現頻度で認められる.Fabellaは大腿骨外側顆との間にfabello-femoral関節を構成するとされ,Weinerらは,fabella部の鋭い疼痛,限局性圧痛,膝伸展時痛を有する症例を同関節の変性であると考え,fabella症候群として報告している. 一方,fabellaの関節面は,関節軟骨を欠き結合組織線維に覆われている場合が多いとする報告もある.このような例では,結合組織の変性や炎症,周囲の滑膜および関節包の炎症が認められるという.また,fabellaのみでなく種子骨一般の組織学的構造に関する検討は少ない.そこで今回,fabellaの周辺を局所解剖学的に観察するとともに,fabellaの組織学的構造の観察を行い, fabella症候群および総腓骨神経麻痺との関連について検討した.【方法】愛知医科大学医学部において『解剖学セミナー』に供された実習用遺体44体を使用した.膝窩部から下腿後面を剥皮後,皮下組織を除去して総腓骨神経を剖出した.腓腹筋外側頭の起始部を切離してfabellaを剖出し,総腓骨神経との位置関係を観察した後,fabellaを摘出した.Fabellaは脱灰してパラフィン包埋後,前額面と矢状面の薄切切片(5㎛)を作成し,ヘマトキシリン‐エオジン, マッソン・トリクロームおよびトルイジンブルー染色を行って観察した.なお,解剖の実施にあたっては,愛知医科大学解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】Fabellaは44体88側中16体30側(36.4%)において確認できた.その全例において,総腓骨神経がfabellaの表層を走行し,fabella部より遠位で深腓骨神経,浅腓骨神経,外側腓腹皮神経に分岐していた.Fabellaは,頂点を表層に向けた三角円錐形を呈していた.組織学的には,fabellaの辺縁部は関節面を含め線維芽細胞を含む膠原線維で被覆されていた.内部の組織学的構造は,髄腔を有する骨組織からなる例と,硝子軟骨組織からなる例が見られた. 【考察】Fabellaの関節面は関節軟骨を欠き,結合組織によって周辺の関節包や腱に癒合していた.また,fabellaはfabella-腓骨靭帯などの後外側支持機構によって支持されるため,可動性に乏しいことが示唆された.さらに,内部の組織学的構造から,fabellaは軟骨組織が機械的刺激によって骨組織に置換されて形成されると考えられた.このようなfabellaの組織学的構造やその個体差が, fabella症候群や総腓骨神経麻痺の発症に影響することが示唆された. Fabellaの表層を総腓骨神経が走行することから,総腓骨神経麻痺の症状の有無を考慮することが,fabella症候群の診断に有用であると示唆された.換言すれば,腓骨頭直下における総腓骨神経麻痺との鑑別が必要であると考えられる.
著者
富丸 慶人 後藤 邦仁 小林 省吾 永野 浩昭 森 正樹 土岐 祐一郎 江口 英利 伊藤 壽記 野口 洋文 宮下 和幸 川本 弘一 岩上 佳史 秋田 裕史 野田 剛広
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.217-222, 2019

<p>Total pancreatectomy with islet autotransplantation is an ideal surgical procedure used to relieve chronic pain derived from the pancreatitis, while insulin-dependent diabetes is inevitably induced after the surgery. Islet autotransplantation combined with a total pancreatectomy can reduce the risk of severe diabetes by preserving available islet cells. We experienced a case with hereditary pancreatitis, which is a rare inherited condition characterized by recurrent acute pancreatitis and/or chronic pancreatitis. The case was that of a female in her thirties who was introduced to our hospital due to treatment-refractory abdominal pain derived from repeated pancreatitis even after surgical treatments. At the introduction, the pain was uncontrollable even by opioid use, and oral intake was impossible due to increase of the pain after the intake. She was genetically diagnosed with hereditary pancreatitis. For relieving the pancreatitis-derived pain, total remnant pancreatectomy with islet autotransplantation was planned. After the pancreatectomy, islet cells were extracted from the excised remnant pancreas, and injected into the portal vein for liver autotransplantation. The pain was completely relieved for her after the surgery, suggesting improvement of her quality-of-life. A glucose tolerance test and glucagon loading test performed one month after the surgery showed C-peptide secretion as the blood glucose rose. However, the serum c-peptide level and SUIT index had been gradually decreased after the surgery, and she is now treated with insulin. The case suggested that total pancreatectomy with islet autotransplantation is useful for improvement of the patient's quality of life by controlling the pain in cases with hereditary pancreatitis.</p>
著者
壹岐 英正 林 省吾 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100559, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】頚静脈孔を出た副神経は,胸鎖乳突筋枝と僧帽筋枝に分岐し,後者は胸鎖乳突筋を貫通する貫通型と貫通しない非貫通型に大別される(吉崎 1961).貫通型においては,胸鎖乳突筋が絞扼因子となる可能性が考えられるが,同筋による副神経絞扼性ニューロパチーは報告されていない.一方,神経に長期的な圧迫が加わる部位においては,Renaut 小体と呼ばれる球状構造物が出現することが知られている.Renaut 小体は,線維芽細胞の侵入と膠原線維の増生によって形成され,神経周膜の肥厚や神経線維の減少とともに,臨床症状を呈していない無症候性神経絞扼のMerkmalになる(Neary D et al 1975).本研究の目的は,副神経僧帽筋枝を組織学的に観察し,貫通型において胸鎖乳突筋が絞扼因子となる可能性を検討することである.【対象および方法】対象は,愛知医科大学医学部において研究および教育に供された解剖実習体4 体8 側(男性・女性各2 体,平均83.3 歳)である.副神経を胸鎖乳突筋とともに切離し,貫通型か非貫通型かを同定した.貫通型においては貫通部周囲を,非貫通型においては副神経の胸鎖乳突筋進入部位を中心に摘出した.摘出した組織片において,副神経の横断方向で10 μmの組織切片を作成した.貫通型においては貫通部を中心に「貫通前」,「貫通中」,「貫通後」,非貫通型においては「胸鎖乳突筋枝と僧帽筋枝に分岐する部位より中枢側(以下,副神経本幹)」と「僧帽筋枝」について切片を作成し,H-E染色およびMasson’s trichrome染色を行った.Renaut小体の有無および神経周膜の肥厚を組織学的に観察し,貫通型と非貫通型において比較した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言および死体解剖保存法に基づいて実施した.生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究および教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】貫通型は4 側,非貫通型は4 側であった.Renaut小体は,貫通型においては貫通前:0 側,貫通中:2 側,貫通後:2 側で認められた.非貫通型においては僧帽筋枝1 側のみに認められた.神経周膜の肥厚は,貫通型においては,貫通前:1 側,貫通中:3 側,貫通後:3 側に認められた.非貫通型においては,副神経本幹:3 側,僧帽筋枝:1 側に認められた.【考察】貫通型と非貫通型の頻度に差は見られなかった.先行研究において,吉崎(1961)は貫通型が44%,非貫通型が56%,Shiozakiら(2005)は貫通型が56.9%,非貫通型が43.1%と報告しており,副神経は高頻度で胸鎖乳突筋を貫通すると考えられる.組織学的観察の結果,貫通型の貫通中および貫通後においては,非貫通型と比べ,Renaut小体および神経周膜の肥厚が高頻度で認められた.Renaut 小体は,長期的な圧迫を受けた部位に一致して存在すると言われているが,三岡ら(2011)は,腋窩神経が肩甲下筋とその過剰束の間を走行する変異例において,全例で神経線維束内に 同小体が観察されたと報告している.さらに1 例においては,過剰束より末梢側においても 同小体が観察されたと報告している.今回の結果は,三岡ら(2011)の結果と類似しており,筋による末梢神経の圧迫は普遍的であり,かつ,圧迫部位より末梢側においても同小体が形成されることを示唆するものである.またChang ら(2010)は,Cervical myofascial pain syndrome(以下,MFPS)群と健常群において,副神経ニューロパチーの可能性を電気生理学的に検討した.その結果,MFPS群において僧帽筋上部線維の活動電位の有意な減少に加え,約48%の症例で脱神経と神経再支配の所見が見られたことを示し,副神経ニューロパチーをMFPSの要因として挙げている.今回の結果は,この報告を形態的見地から支持するものであり,脱神経と神経再支配の頻度が副神経貫通型の頻度と近似することは興味深い.Changら(2010)の述べた副神経ニューロパチーが胸鎖乳突筋による絞扼性ニューロパチーと関連する病態であるかについては,検討が必要である.【まとめ】胸鎖乳突筋が副神経の絞扼因子になる可能性を示した.今後の課題として,例数を増やし推測統計学的に有意差を明らかにすること,神経周膜の肥厚を客観的に示すこと,絞扼性ニューロパチーとの関連を明らかにすることが挙げられる.【理学療法学研究としての意義】末梢神経の絞扼性ニューロパチーは,手根管や肘部管のようなトンネル状構造に限らず,筋の圧迫によっても普遍的に起こり得る.これは,症例の病態生理を的確に把握するために重要である.