著者
奥村 利勝 粂井 志麻 高草木 薫 野津 司
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

過敏性腸症候群(IBS)の主要病態である内臓知覚過敏の中枢メカニズムを解明することを目的にした。内臓知覚はラットの直腸にバルーンを装着し伸展させることで内臓痛を生じさせる実験系で検出した。オレキシンの脳室内投与は内臓知覚鈍麻を誘導すること。モルヒネ、levodopaやグレリンによる内臓知覚鈍麻はこのオレキシンによる内臓知覚鈍麻作用を利用していること。オレキシンによる内臓知覚鈍麻作用は脳内ドパミン、アデノシン、カンナビノイド シグナルを介していることが明らかにできた。これらの結果からオレキシン シグナルの低下はドパミンなどを介して内臓知覚過敏を誘導し過敏性腸症候群の病態形成に深く関与すると考えた
著者
奥村 利勝
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.1334-1344, 2014-07-05 (Released:2014-07-05)
参考文献数
92

過敏性腸症候群(IBS)の病態に内臓知覚過敏と消化管運動異常が関与し,この病態理解には脳腸相関の概念が非常に重要である.本稿では,脳腸相関の観点から,IBSの病態を概説した.内臓知覚過敏は最近の脳画像イメージングの進歩により,視床-島皮質-前帯状回という上行性内臓痛経路の活性化とそれを修飾する中脳中心灰白質などの下行性経路の機能異常が重要であることが明らかにされつつある.一方,消化管運動調節に関わる中枢機構は多くの分子が関与する可能性がある.その中でもオレキシンは消化管運動調節に加えて,IBS患者の多様な病態を一元的に説明しうることから,IBSの病態における脳内オレキシンの意義を考察した.
著者
岡田 哲弘 水上 裕輔 林 明宏 河端 秀賢 佐藤 裕基 河本 徹 後藤 拓磨 谷上 賢瑞 小野 裕介 唐崎 秀則 奥村 利勝
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.302-312, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
58
被引用文献数
3 2

膵癌のゲノム解析では,4つの遺伝子異常(KRAS,CDKN2A,TP53,SMAD4変異)を高率に認める.最近の研究により,ゲノム,遺伝子発現,タンパク,代謝などの様々なレベルでの異常が明らかとなり,これらのプロファイリングによる個々の患者の発癌や進行パターン,治療効果予測に応用されることが期待される.2019年に適切な薬物治療の提供を目的とした遺伝子パネル検査が保険収載され,本格的なゲノム医療の時代を迎えた.このような新しい診断技術を早期膵癌の発見や遺伝素因など高い発癌リスクを有する人々の発病予防を目指した医療へと拡大するには,多様な分子異常の検出方法の確立が求められる.これら膵癌の分子診断には,膵内の多発病変の存在と腫瘍内の不均一性,癌のクローン進化の理解が重要となる.本稿では,膵癌の発生過程でみられる分子異常を概説し,診療への活用が期待される最新の技術革新について紹介する.
著者
奥村 利勝
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.233-235, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
30

オレキシンは脳内でも外側視床下部の神経細胞でのみ産生される神経ペプチドである.我々はオレキシンの消化管機能に及ぼす影響を検討してきた.ラット脳室内にオレキシンAを投与すると胃酸分泌,胃運動,大腸運動や大腸進展刺激に対する内臓痛覚閾値を亢進させたが,腹腔内投与はこれらの機能に影響を与えなったので,オレキシンAは中枢神経に作用して,消化管運動や内臓痛覚閾値を亢進させる事が明らかになった.機能性消化管障害の病態の中核は消化管運動障害と内臓知覚過敏であり,オレキシンが中枢神経系に作用し消化管運動と内臓知覚に影響を及ぼすとの知見は,オレキシンが一元的に機能性消化管障害の病態に関与することを示唆する.
著者
野津 司 奥村 利勝
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

オレキシンは胃収縮を促進し,また大腸収縮を促進させ便排出を促進させる.また迷走神経による胃運動促進効果は,内因性のオレキシンが関与することを明らかとした.さらにCRFの末梢投与は胃排出を抑制するが胃収縮を促進することをラットで示した.CRFはCRF1,2の2種類の受容体を介して作用するが,CRF1の刺激により胃収縮は促進し,CRF2はこれに拮抗する作用を持つことを初めて示すことができた.さらにwater-avoidance stressは胃排出に変化を与えないが,CRF1を介して胃収縮を促進させることを明らかにした.これらは,消化管機能障害の病態理解のために重要な結果である.