著者
有岡 祐子 奥村 啓樹
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.123-128, 2022 (Released:2022-09-25)
参考文献数
24

精神疾患は,患者自身に多大な苦痛とQOL低下を引き起こすと同時に,膨大な社会的損失をもたらす。しかし,未だ精神疾患の病態解明には至っておらず,根本的な治療法開発は実現できていない。その理由のひとつとなっているのが,「精神疾患の病態メカニズムを解析・検証できる実験モデル確立の困難さ」である。この課題に立ち向かうべく注目されているのがiPS細胞である。精神疾患の病態解明研究にiPS細胞技術が取り入れられた当初を振り返ると,単に「健常者vs精神疾患患者」での比較を行った報告が主流であった。近年では,精神疾患発症のリスクゲノムバリアントに基づいたアプローチへと変化しつつある。本稿では,ゲノムとiPS細胞のコラボレーションによる筆者らの研究成果を紹介するとともに,iPS細胞のメリットとデメリット,そして精神疾患の病態解明と創薬におけるiPS細胞の可能性について述べる。