著者
松田 実 姉川 孝 原 健二
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.239-246, 1992 (Released:2006-06-23)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

経過中に再帰性発話 (RU) がreal word RU (RWRU) からnon-meaningful RU (NMRU) に移行した特異な症例を報告した。症例は73歳の右利き女性。脳梗塞で右片麻痺と全失語を呈した。初期には,「あんた」という発語を繰り返したが発語量は多くなかった。 50病日頃より発語量が多くなるとともに,発語パターンは「あんた」が徐々に減少し,「ツツツ……」「夕夕夕……」「ツツターン」「ツターン」「タンターン」という何種類かの発語を認める時期を経過して,「タンターン」「タンタン」に収束した。 CT, MRIでは基底核,放線冠と頭頂後頭領域の皮質皮質下に梗塞巣を認めたが,SPECTではより広範な左半球ほぼ全域にわたる血流低下が認められた。著しく機能低下した左半球の音声学的システムが右半球発語であるRWRUを修正した結果, RWRUからNMRUへの移行が生じたと考え,RUの成立機序や責任病巣についての私見を述べた。