- 著者
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孫 玉平
崎野 健治
吉岡 智和
- 出版者
- 日本建築学会
- 雑誌
- 日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.486, pp.95-106, 1996
- 被引用文献数
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<p>1. 序 本論文の研究目的は、1) 図1に示す横補強筋により拘束されたコンクリートに対して著者らが提案した応力・ひずみ関係モデルが、他のモデルとの比較の上において、RC柱の中心圧縮性状のみならず図2に示す応力を受ける柱の曲げ性状の予測にも用い得るかどうか、2) それが適切に出来ない場合は、必要な修正法を検討することである。 2. コンクリートの応力・ひずみ関係 著者らにより提案されたコンファインドコンクリートの応力・ひずみ関係は(1)式により表される(図3参照)。(1)式中の3つのパラメーター、すなわち、(1)コンファインドコンクリートの強度fcc^1、(2)強度時ひずみεco、(3)下り勾配に関系するパラメーターD、はそれぞれ(2)、(3)、(4)式により与えられる。提案モデルと中心圧縮実験結果との比較を図4に示す。図4には比較のためにSheikh、Manderら、六車らにより提案されたモデルと修正Kent & Parkモデルも一緒に示してある。図4から分かるように、著者らの提案したモデルが最もよく実験結果と一致する。 3. 鉄筋コンクリート断面の曲げ挙動 3.1 解析方法と結果の検証 軸力と曲げを受ける鉄筋コンクリート断面の曲げモーメント曲率関係は次の仮定をおくことにより解析的に求めることができる。(1)平面保持の仮定、(2)主筋は完全弾塑性体とする、(3)コンクリートの引っ張り強度は無視、(4)コンクリートの応力・ひずみ関係は(1)〜(4)式により表される、(5)無拘束のかぶりコンクリートは、0.004以上のひずみを生じた場合は応力を負担しない。 断面と軸力が与えられた場合の曲げモーメント・曲率関係(以下M-φ関係と書く)は、断面を図5に示すように分割して数値積分を行う断面分割法により比較的簡単に求める事が出来る。 解析的に求めたM-φ関係と、一定軸力下で均等曲げモーメント(図2(b)参照)を受ける鉄筋コンクリート柱の実験により得られたM-φ関係の比較を図6に示す。図6から分かるように、低軸力を受ける試験体については提案モデルと他のモデルによる解析結果に殆ど差がないが、高軸力を受ける試験体については、提案モデルを用いた解析結果が最大曲げモーメントも大曲率時の挙動も実験結果を最もよく説明できることが分かる。 3.2 数値計算による検討 軸力の大きさと横補強筋の拘束度合いが高強度鉄筋コンクリート断面のM-φ関係に及ぼす影響を定量的に検討するために、図7に示す断面について数値計算を行った。解析により求めたM-φ関係とM-ε_<ce>/ε_<co>関係を強度上昇係数K (=f_cc'/f_c')と軸力比n (=N/Agf_c') をパラメーターにとり図8に示す。ε_<ce>はコンクリートの圧縮縁のひずみであり、ε_<co>はコンクリートの最大応力時のひずみで(3)式で与えられる。 図8より分かるように、無拘束断面のM-φ関係にはピーク点が1つしかない。しかしながら、横補強筋がある場合はピーク点が2つ表れるようになる。かぶりコンクリートの最外縁が剥離をし始めた時に断面は最初のピークモーメント(以後M_<pp>と書く)に達し、その後コアコンクリートに対する拘束効果が効き始めるまで曲げモーメントは低下する。その後再び曲げモーメントが上昇して第2のピークモーメント(以後M_<cp>と書く)に達する。横補強筋で拘束された鉄筋コンクリート断面の最大曲げモーメントを求めるためには、M_<pp>とM_<cp>の2つのピークモーメントを求める必要がある。 4.曲げ終局強度 本節においては、曲げ終局強度をより簡単に求める略算法を提案する。この簡略化は、圧縮誠におけるコンクリートの実際の応力分布を、圧縮縁からβXの距離の所に合力C(=αf_<cc>'/BX)が作用する等価な長方形分布のストレスブロックに置き換えることによってなされる(図9参照)。 圧縮縁ひずみがε_<ce>の時の実際の応力分布と等価な長方形ストレスブロックのパラメーターαとβを求める一般式は、両者の合力と一次モーメントが等しいという条件より(5)式により与えられる(図9参照)。柱断面の曲げ終局強度を評価するときは、一般的なαとβの値ではなく、コンクリート圧縮縁のひずみがε_<cm>というある特定値に達した場合の値が必要となる。M-φ関係における最大曲げモーメント時のコンクリートの圧縮縁のひずみを本論文では終局ひずみと呼ぶことにする。主筋や横補強筋のない無筋コンクリート断面の場合で中立軸の位置が断面内にある場合は、ストレスブロックパラメーターβとαの比が最小になるときに最大曲げモーメントに達することが証明できる。図8には鉄筋コンクリート断面のM-ε_<ce>/ε_<co>が示されているが、図中にβとαの比が最小になった時のがξ(=ε_<ce>/ε_<co>)の値を一点鎖線で示している。無拘束コンクリートの場合もコンファインドコンクリートの場合もβとαの比が最小になった時、ほぼ最大曲げモーメントに達すると見なして差し支えないことが図より分かる。したがって、終局ひずみε_<cm>の算定式として(6)式を提案する。(6)式で与えられる終局ひずみ時のαとβの値をα_mとβ_mとすると、近似的に(7)式(8)式により与えられる。 また、(9)式で拘束鉄筋コンクリート柱断面のMppとMcpを求める際に、断面圧縮縁や断面せいhなどの取り方については図10を参照されたい。 5. 鉄筋コンクリート柱の曲げ挙動 本節においては、実験において直接測定された材端の塑性ヒンジのM-φ関係と3節で述べた解析により得られたM-φ関係の比較をまず行うことにする。図11と図12にSheikhらおよび六車らによって得られた片持ち柱の塑性ヒンジ領域のM-φ関係実験値と解析値の比較を示す。いずれの実験においても、正負交番繰り返し実験が行われているが、図11と図12にはM-φ関係の正荷重時包絡線が実験値として示されている。M-φ関係実験値の曲げモーメントの値は軸力による付加曲げモーメントを含んだ材端(スタッブに隣接する断面)の曲げモーメントであり、また、曲率は塑性ヒンジ領城中の平均曲率である。いずれの試験体においても、曲げ終局強度実験値は解析値よりも大きいことが分かる。この主な原因、材端スタッブの拘束により危険断面が材端よりも曲げモーメントが小さい柱の内部へ移ったためと考えられる。もう一つの原因としては、主筋のひずみ硬化の影響が考えられる。本論においては、軸力と曲げせん断を受ける柱の材端の曲げ終局強度と第4節で提案した方法で求めた曲げ終局強度計算値の比を強度上昇比と定義して、これを既往の実験データを用いて定量的に求めることにする。 強度上昇を求めるために用いた実験資料の概要を図13に示す。実験資料としては、文献(1)で用いられた中心圧縮試験体の資料の場合と同じく、一辺の長さが200mm以上の正方形断面試験体に限定した。すべての試験体は軸力・曲げせん断を受けて曲げ破壊したと報告されている試験体である。図14に強度上昇係数に関する実験値(M_<uexp>/M_<cal>)と軸力比の関係を示す。 解析値としては提案法以外にACI規準法と日本建築学会の略算式を用いた場合の結果も参考のために図14に示している。曲げ終局強度実験値M_<exp>は部材角が0.02rad以内で観測された正荷重時の材端モーメントの最大値でN-δモーメントも含んでいる。 第4節で提案した方法で求めた曲げ終局強度としてはM_<pp>とM_<cp>のうち大きい方を取った。図14中黒い四角で示している試験体はM_<cp>>M_<pp>となった試験体で、直線型横補強筋の拘束により曲げ終局強度の上昇が期待できたと思われる試験体である。図14から分かるように、強度上昇係数は軸力比に強く依存する。この原因は、軸力が大きくなるほど中立軸深さは深くなり、コンクリートの性状に依存することになり、スタッブ拘束の効果がより大きく表れるためと思われる。曲げ強度上昇比は(10)式により与えられる。(10)式は図14に示す実験資料を用いた回帰分析により得られたものである。ここで、M_<u. cal>ま軸力と曲げせん断を受ける柱の材端の曲げ終局強度計算値、M_<cal>は第4節で提案した略算法による計算値である。図15に示すようにコンクリートの圧縮強度、主筋の降伏応力度、せん断スパン比に関わらずM_<u. exp>/M_<u. cal>の値はほぼ一定で、平均値と標準偏差はそれぞれ1.00と0.07となる。 6.結論 1) 直線型横補強筋で拘束されたコンクリートの応力・ひずみ関係について提案された、著者らのモデルも含む5つのモデルについて比較研究を行った。高強度コンクリートを用いた中心圧縮柱、および軸力と曲げモーメントを受ける柱に関する既往の実験結果との比較により、低軸力を受ける柱と横補強筋による拘束が強い柱の場合は5つのモデルともほぼ同じ</p><p>(View PDF for the rest of the abstract.)</p>