著者
黒江 美穂子 宇佐美 政英 渡部 京太 齊藤 万比古
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.458-470, 2016 (Released:2019-08-21)
参考文献数
15

10歳で神経性無食欲症を発症した女児の,長期入院治療を経験したのでここに報告する。女児の強固な拒食病理や完璧主義的思考により,経過は一進一退であったが,徐々に心身の健康と年齢相応の自立志向性を獲得していった。女児の症状形成過程および入院治療が長期化した背景にある精神病理を考察し,治療においては身体管理や生命の保護のみならず,治療スタッフの関わりによる基本的信頼感の構築,さらに同年代仲間集団との交流といった複合的な機能を担った児童思春期専門病棟の意義について述べた。また家族療法の導入により,治療者が多角的,重層的な視点から症例を捉えられたこと,両親が親としての支持機能を回復し,特に母親が活き活きと情緒的応答性を取り戻したことが,回復の鍵となった。
著者
宇佐美 政英
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.16-24, 2019 (Released:2020-12-01)
参考文献数
29

本シンポジウムでは、思春期の発達障害の多様性について、Irritabilityを中心に総括した。思春期における自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症を代表とする発達障害を抱えた子どもたちが、思春期になって初めて医療機関に登場することがある。思春期になった発達障害児たちは、その固有な症状よりも不登校・家庭内暴力などの多彩な問題に直面していることがある。これらの症状の背景に幼少期から抱えてきた不全感や、Irritabilityとして表出される抑うつ感が潜んでいることがあり、臨床医たちはこの不全感やIrritability共感的に接することを忘れてはならない。特に思春期の発達障害おけるIrritabilityは周囲との軋轢や問題行動と関連するなど、低い自己肯定感を強化しさまざまな精神症状を誘発するKey症状として理解しなくてはならない。