著者
宇戸 清治
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

「クンチャーン・クンペーン物語」は、インドの仏教文学や中国文学からの影響を受けていない、タイ固有の、もっとも知られた古典文学である。本研究では、この作品の言語学的、文学的、社会史的特質と価値を明らかにした。研究の結果、口伝を基にバンコク王朝初期からラーマ五世時代にかけて編修された「クンチャーン・クンペーン物語」は、アユタヤー時代に成立した一地方の民間説話であったものが、タイを代表する古典文学となったことが分かった。研究に併行して日本語への翻訳も行った。
著者
宇戸 清治
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、タイ映画におけるナショナリズムが、立憲革命、第二次世界大戦、軍部独裁政治、1970年代の民主化運動、1990年以降の経済発展といった歴史的転換点において色濃く反映されていつ点に着目し、各時代におけるタイの社会・文化状況と映画に表象されたナショナリズムの関係を具体的作品に即して分析することを目的とした。このため、ナショナリズムがテーマとなっているタイ映画のデータベースを作成し、タイ現地においては映画の鑑賞、デジタル記憶媒体(映画DVD、VCDなど)の収集と分析を進めた。とくに戦前期の貴重な映画『白象王』については2種類のバージョンを分析し、これが国内よりは国外に向けてタイの政治・軍事的中立政策を訴えた国策映画であることが明らかとなった。また、映画『闇の天国』の分析を通じて、戦後1950年代のピブンソーンクラーム政権とサリット政権という2つの軍事政権のタイ近代化と王制の政治利用に対するスタンスの違いが、モダニズム理解の相違に基づくものであり、両者のナショナリズム観が対極的なものであることが明らかとなった。また、1970年代中期の民主革命前後の時期の映画については『スパンの血』の分析を通じて、これがナショナリズムを煽る目的ではなく、むしろ経済発展によって失われつつあったタイ伝統文化へのノスタルジーが根底にあることを明らかにできた。最後に1990年代のニューウェイブ映画『7人のマッハ』では、国王、仏教、国旗、国歌などが前景化される傾向が強く、新たな時代のナショナリズム映画となっており、今後の研究の深化が必要であることが認識された。