著者
宇田 泰三 一二三 恵美
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

「スーパー抗体酵素」とは、抗体として抗原に特異的に結合するだけでなく、抗体そのものが抗原を酵素的に破壊する事ができる画期的な分子を言う。本研究では現在、花粉症やアトピーなどに的を絞り、この治療を目的とした「スーパー抗体酵素」を作製する事である。これまでにヒトIgEをマウスに免疫し、細胞融合によりいくつかマウス型抗IgEモノクローナル抗体を作製し、その中で5H5抗体の遺伝子配列を決定し、この抗体に触媒三ツ組残基様構造が存在する事を明らかにした。さらに5H5抗体によるヒトIgEに対する分解活性を調べた。今年度は、5H5の抗体酵素としての性質をより深く検討することと、5H5抗体以外にも抗体酵素になり得るクローンがないか探索した。1,5H5抗体によるヒトIgEの切断箇所を調べたところ、ヒトIgEが肥満細胞などに結合するbinding siteの少し上流(N末端側)で切断していることが判明した。2,「スーパー抗体酵素」5H5のペプチド基質TP41-1の分解速度(kcat)は0.09min^<-1>であった。3,5H5抗体軽鎖以外の「スーパー抗体酵素」を探索するために1E3,4C4および5H10のモノクローナル抗体について重鎖、軽鎖の遺伝子解析を行った。その結果、1E3には重鎖、軽鎖共に、また,4C4および5H10軽鎖には触媒三ツ組残基様構造が存在すると推定された。4,上記抗体を重鎖と軽鎖に分離して、それらの酵素活性能をペプチド基質TP41-1を用いて検討した。その結果、1E3および5H10には重鎖、軽鎖共にペプチダーゼ活性が存在した。4C4重鎖には酵素活性は存在しなかったが、軽鎖についてははっきりした結果が得られなかった。今年度の研究で5H5以外にもペプチダーゼ活性をもついくつかの有力な「スーパー抗体酵素」が見つかった。この中の最もkcat, Kmの良いものを見つけ出して行けば、I型アレルギーの原因物質であるヒトIgEの機能を消失させると思われる抗体酵素が作成可能である。