著者
一二三 恵美
出版者
広島県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「スーパー抗体酵素」とは、抗体として抗原に特異的に結合するだけでなく、単独で抗原を特異的に破壊する能力をもつ画期的な抗体分子を言う。病原微生物が生育するのに必須な領域(保存領域)を破壊する「スーパー抗体酵素」を作製すれば、薬剤耐性を招くことなく病原微生物を死滅させることが期待出来る。本研究では流行が世界的な問題となっているインフルエンザウィルスの表面タンパクを標的とする「スーパー抗体酵素」の作製を進めた。1.A型インフルエンザのH1N1およびH2N2では、表面糖タンパク質であるHemagglutinin (HA)に2箇所(TGLRNおよびGITNKVNSVIEK)の保存領域が存在する。この配列を直鎖状に繋いだものと環状化したペプチドを合成し、これらを免疫原としてモノクローナル抗体の取得を試みた。直鎖状抗原を用いた系でH1型とH2型のHAを持つ不活化ウィルスと反応する2種類のモノクローナル抗体(HA1-1およびHA1-2)を得た。2.酵素活性部位の存在の有無を調べるために、これらの抗体産生細胞から抽出したmRNAを使って可変領域の塩基配列を決定した。これらの配列から推定したgermline geneは両抗体ともにVk germline geneが8-21,Vh germline geneがJ558.46であった。3.塩基配列より推定したアミノ酸配列を使って、分子モデリングによる立体構造解析を実施した。その結果、両抗体の可変領域部分にはSer-His-Aspによる触媒三ツ組残基様構造は存在しなかった。しかし、Ser-Glu-Aspによる類似の構造がH鎖,L鎖のそれぞれに存在していたことから、これらの抗体は酵素作用を示すと推定した。4.現在は、精製抗体からH鎖およびL鎖を調製して、ペプチド基質を使った酵素活性の有無を調べている。予備的な段階ではあるが、ペプチド抗原に対する分解活性を検出している。
著者
宇田 泰三 一二三 恵美
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

「スーパー抗体酵素」とは、抗体として抗原に特異的に結合するだけでなく、抗体そのものが抗原を酵素的に破壊する事ができる画期的な分子を言う。本研究では現在、花粉症やアトピーなどに的を絞り、この治療を目的とした「スーパー抗体酵素」を作製する事である。これまでにヒトIgEをマウスに免疫し、細胞融合によりいくつかマウス型抗IgEモノクローナル抗体を作製し、その中で5H5抗体の遺伝子配列を決定し、この抗体に触媒三ツ組残基様構造が存在する事を明らかにした。さらに5H5抗体によるヒトIgEに対する分解活性を調べた。今年度は、5H5の抗体酵素としての性質をより深く検討することと、5H5抗体以外にも抗体酵素になり得るクローンがないか探索した。1,5H5抗体によるヒトIgEの切断箇所を調べたところ、ヒトIgEが肥満細胞などに結合するbinding siteの少し上流(N末端側)で切断していることが判明した。2,「スーパー抗体酵素」5H5のペプチド基質TP41-1の分解速度(kcat)は0.09min^<-1>であった。3,5H5抗体軽鎖以外の「スーパー抗体酵素」を探索するために1E3,4C4および5H10のモノクローナル抗体について重鎖、軽鎖の遺伝子解析を行った。その結果、1E3には重鎖、軽鎖共に、また,4C4および5H10軽鎖には触媒三ツ組残基様構造が存在すると推定された。4,上記抗体を重鎖と軽鎖に分離して、それらの酵素活性能をペプチド基質TP41-1を用いて検討した。その結果、1E3および5H10には重鎖、軽鎖共にペプチダーゼ活性が存在した。4C4重鎖には酵素活性は存在しなかったが、軽鎖についてははっきりした結果が得られなかった。今年度の研究で5H5以外にもペプチダーゼ活性をもついくつかの有力な「スーパー抗体酵素」が見つかった。この中の最もkcat, Kmの良いものを見つけ出して行けば、I型アレルギーの原因物質であるヒトIgEの機能を消失させると思われる抗体酵素が作成可能である。