著者
塩塚 かおり 宇都宮 昭裕 鈴木 晋介 上之原 広司 西野 晶子 近江 三喜男 桜井 芳明
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.261-266, 2005-06-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
9

症例は41歳,男性。既往歴特記なし。自殺企図にて縫い針を後頸部に1針と前胸部に2針刺した。その後,乗用車を運転し側溝に転落した状態で発見された。他院にて気胸に対し胸腔ドレーンを挿入後,当院へ救急搬送された。来院時,強い胸部痛を訴えるも呼吸循環動態は落ち着いていた。各針の刺入点は皮膚上に観察されたが,いずれも皮下に埋没していた。神経学的所見としては,意識清明,四肢麻痺なく,明らかな感覚障害もなかった。頭部単純X線像では,後頸部皮下にその先端が大孔内まで達する約3cmの縫い針を認めた。胸部単純X線像では,左胸部に2本の縫い針を認めた。頭頸部CTでは,針の先端は延髄背側に達していた。胸部CTでは,1本の針が心臓壁に埋没しており,もう1本の針は胸壁にあるのが確認された。脳血管造影では,血管系への針による外傷はなかった。搬入当日に全身麻酔下に針の摘出術を行った。腹臥位にて針の刺入部を中心として開創した。X線透視を使用し皮下に埋没した針を捕らえた。針を全体に渡り露出した後,直視下に抜去した。針先端は延髄背側下部にまで達していた。次に,右側臥位にて心臓壁内に埋没した針と胸壁内の針を直視下に摘出した。術後,感覚異常等の神経症状はなかった。術後5日目に全身状態良好で,精神障害との診断で精神科入院となった。