著者
中畑 則道 守屋 孝洋 小原 祐太郎 斎藤 将樹
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脂質ラフトはスフィンゴ脂質、コレステロールやスフィンゴ糖脂質などに富む細胞膜マイクロドメインであるが、受容体を介するシグナル伝達が効率的に行われる場としても重要であることが近年示唆されている。P2Y_2受容体はG_<q/11>と共役することが知られているが、本研究ではNG108-15細胞を用いて、P2Y_2受容体を介するシグナル伝達と細胞の遊走反応における脂質ラフトの役割について検討を加えた。NG108-15細胞を蔗糖密度勾配遠心法を用いてトリトンX-100に不溶性の画分を分離すると、そこの画分には脂質ラフトマーカーであるコレステロールやフロティリン-1、ガングリオシドが局在した。G_<q/11>およびP2Y_2受容体は部分的にこの画分に存在した。さらに、メチル-β-シクロデキストリン(CD)処理は、脂質ラフトマーカーのみでなく、G_<q/11>およびP2Y_2受容体もその画分から消失させるとともに、P2Y_2受容体を介するホスファチジルイノシトール水解反応や細胞内Ca^<2+>濃度上昇作用のシグナル伝達、さらにP2Y_2受容体を介する細胞遊走反応も抑制した。これらのP2Y_2受容体を介する反応は、G_<q/11>特異的阻害薬のYM254890によっても強く抑制された。一方、CDあるいはYM254890処理は、P2Y_2受容体を介するRhoの活性化を強く抑制した。Rhoの下流と考えられるストレスファイバーの形成やコフィリンのリン酸化反応もCDあるいはYM254890処理によって強く抑制された。しかし、G_<12/13>のドミナントネガティブを発現させてもP2Y_2受容体を介するRhoの活性化シグナルは抑制されず、本細胞においてはP2Y_2受容体刺激によってG_<q/11>を介してRhoの活性化が引き起こされ、それは脂質ラフトにおいて起こっている事象であると考えられた。すなわち、脂質ラフトはP2Y_2受容体を介するシグナル伝達において重要な役割を有することが本研究によって明らかになった。