著者
斎藤 将樹 佐藤 岳哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.3, pp.117-123, 2019 (Released:2019-03-12)
参考文献数
64

一次繊毛は細胞膜が突出して形成される不動性の繊毛で,一細胞につき一本のみ形成される.当初は細胞外に突出しているだけの静的な細胞小器官だと思われていたが,種々の研究成果により,細胞周期に依存して形成と短縮・消失を繰り返すダイナミックな性質をもつことが明らかとなってきた.一次繊毛は非常に短く表面積も小さいにもかかわらず,一次繊毛膜上には特異的に分布するGタンパク質共役型受容体,増殖因子受容体やイオンチャネルがあるため,選択的な生理活性物質や機械刺激を受容するシグナル受容器として働く.そのため,一次繊毛の形成異常や機能破綻は,小頭症,嚢胞腎,内臓逆位や多指症に代表される種々の臓器形成不全等を所見とする,先天性の遺伝子疾患「繊毛病」の発症につながる.繊毛病に対する有効な治療法は開発されていない.近年,一次繊毛の形成や機能の分子制御機構が解明されるにつれて,多種多様の分子が巧妙な機構によって一次繊毛の形成,シグナル伝達や短縮・消失のサイクルを制御することが明らかになり,一次繊毛の特殊性と重要性が理解されてきた.しかし,それら分子制御機構の全容解明には遠く及ばないのが現状である.繊毛病の病因解明のため,分子制御機構がさらに解明されることが必要であり,また将来,有効な治療法が薬理学研究を中心として開発されることが期待される.
著者
中畑 則道 守屋 孝洋 小原 祐太郎 斎藤 将樹
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脂質ラフトはスフィンゴ脂質、コレステロールやスフィンゴ糖脂質などに富む細胞膜マイクロドメインであるが、受容体を介するシグナル伝達が効率的に行われる場としても重要であることが近年示唆されている。P2Y_2受容体はG_<q/11>と共役することが知られているが、本研究ではNG108-15細胞を用いて、P2Y_2受容体を介するシグナル伝達と細胞の遊走反応における脂質ラフトの役割について検討を加えた。NG108-15細胞を蔗糖密度勾配遠心法を用いてトリトンX-100に不溶性の画分を分離すると、そこの画分には脂質ラフトマーカーであるコレステロールやフロティリン-1、ガングリオシドが局在した。G_<q/11>およびP2Y_2受容体は部分的にこの画分に存在した。さらに、メチル-β-シクロデキストリン(CD)処理は、脂質ラフトマーカーのみでなく、G_<q/11>およびP2Y_2受容体もその画分から消失させるとともに、P2Y_2受容体を介するホスファチジルイノシトール水解反応や細胞内Ca^<2+>濃度上昇作用のシグナル伝達、さらにP2Y_2受容体を介する細胞遊走反応も抑制した。これらのP2Y_2受容体を介する反応は、G_<q/11>特異的阻害薬のYM254890によっても強く抑制された。一方、CDあるいはYM254890処理は、P2Y_2受容体を介するRhoの活性化を強く抑制した。Rhoの下流と考えられるストレスファイバーの形成やコフィリンのリン酸化反応もCDあるいはYM254890処理によって強く抑制された。しかし、G_<12/13>のドミナントネガティブを発現させてもP2Y_2受容体を介するRhoの活性化シグナルは抑制されず、本細胞においてはP2Y_2受容体刺激によってG_<q/11>を介してRhoの活性化が引き起こされ、それは脂質ラフトにおいて起こっている事象であると考えられた。すなわち、脂質ラフトはP2Y_2受容体を介するシグナル伝達において重要な役割を有することが本研究によって明らかになった。